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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第2章 旅路
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マナッセの宿屋

 酒場を後にし、二人は宿屋に戻るところだった。エールを3杯ほど飲んだカルロは、顔は赤いが足取りはしっかりしていた。話をしていても受け答えがしっかりしているため、カルロは酒に強い方なのだろうとニコルは思った。



「そういえば、なんでお前の赤猫は立ち止まったんだろうな?」


「多分曲に合わせて魔力が感じられたから、それに反応したんだよ。魔力はティアのご飯だし」


「へえ。曲に合わせて魔力とか、そんなことあるのか?」


「詳しくは知らないけど、吟遊詩人には多い能力らしいよ」



 さわさわと夜風が吹き、ニコルは少し肌寒さを感じたが、隣を歩くカルロはアルコールが回ってきたのか若干暑そうにしていた。ニコルの横を音も立てずに歩くティアを見て、カルロが疑問に思っていたことをつぶやいた。

 吟遊詩人の歌には魔力が乗ることがあるのを思いだした。おそらくティアはそれに反応したのだろう。魔獣は漂っている魔力を食べることができると教えると、俺もそんな騎獣がほしいと言って笑った。



 ニコル達が泊まる宿はそれほど大きくはなく、ニコルはボレアの隊商宿とは違い、女部屋を一つとるわけにもいかなかったため、エリシア達と一緒の部屋だった。ちなみに、ティアは宿屋には馬のほかに騎獣専用の獣舎があったためそっちに入れることになった。猫科の騎獣は汚れていなければ、宿の中に入れてくれる場所もあるが、その分料金がかさむため、獣舎が空いていてよかったとニコルは思った。



「おねえちゃん! ねこさんは?」


「獣舎が空いてたから、今日はそっちなんだ」


「ねこさんと一緒に寝られると思ってたのに……」


「エリー、ニコルさんを困らせちゃダメよ?」


「……うん」


 ティアに会えるのではと期待していたエリシアは、がっかりした様子だった。エリシアの母親のユリアはニコルを困らせないようにやんわりと窘めたが、残念そうに肩を落とした。



「じゃあ、エリシアちゃん。セレストに着いて仕事が終わったらになるけど、ティアに乗せてあげる」


「ほんと!? ねこさんに乗せてくれる?」


「うん。乗せてあげる。ただし! エリシアちゃんがセレストに帰るまでいい子にしていたらだけどね」


「うん!」


「よろしいんですか? セレストでもお仕事があるのでは?」


「ええ、大丈夫です。まぁ、セレストでも仕事はありますが、基本的に町の外に出るような用事じゃないんで……」



 余りにがっかりしているエリシアを見て、ニコルはセレストに着いたらティアに乗せてあげると言うと、エリシアの機嫌は一気に上昇した。そんな様子を見てニコルはセレストまでいい子にしていたらの話だと条件を付けると、エリシアは元気よく頷いたのだった。逆にユリアはエリシアのわがままに付き合ってもらって申し訳なさそうにしていたが、ニコルが大した手間ではないと言うと、安心したようだった。


 その後エリシアは、セレストに帰ったら家に遊びに来てほしいと頼み込んできたので、どう返事をしたものかと悩んだが、ユリアに是非来てくれと言われたため、セレストに着いたら訪問すると約束をした。アンジェラからの依頼は街の情報収集のため、それくらいの時間は取れるだろうとニコルも思った。



「そうだ、いまお風呂が空いてるから入ってきたらどうですか?」


「え、お風呂があるんですか?」 


「ええ、それほど大きくはないですけど、宿屋の方に追加料金を払えば使えますよ」


「そうですね、男連中が入ると汚くなるからその前に入っちゃいますね」



 ニコル達が酒場で食事をしている間に、ユリアは風呂に入ったのだろう。結い上げている黒髪が少し湿っており、その辺の男どもはコロリと堕ちそうな艶っぽい雰囲気があった。ボレアの宿では体を拭いていたが、そろそろ水浴びをしようかと考えていたところだった。追加料金を払うとはいえ、ユリアの話は大変魅力的でニコルも素直にその提案に乗ったのだった。



 風呂場は少し奥まった廊下の先にある。宿屋の主人に料金を支払い、ニコルは上機嫌で風呂場に向かった。



「そんな荷物持ってどこ行くんだ」


「お風呂だよ。入ってくるなよ?」


「入らねぇよ!」


「ははは」



 風呂場に行く途中、廊下でカルロに呼び止められた。ニコルが着替えを持っているのを見て、何の荷物なのかと聞いてきたが、風呂に行くと聞くと納得したようだった。念のためカルロには風呂に入ってくるなと釘を刺しておいた。




 宿屋の風呂場はそこそこきれいな造りだった。男女別にはなっていないが、大人が2~3人ほど入れるくらいの広さだった。小さい宿屋は風呂がないことが多いため、風呂があるだけ幾分マシであると言えた。

 風呂場の使い方はこの宿の主人に説明されたが、風呂は入り口に使用中の札を出しておけば誰かが入ってくることはないらしい。ニコルもそれに習い、使用中の札を入り口に下げ服を脱いだ。風呂場は丸腰になり、武器を手放すことは躊躇われるため、念のため短剣だけは持ってきた。



「はぁ、風呂なんて久々だ……」



 ニコルは久しぶりに湯船に浸かってくつろいでいた。ベニトアや傭兵団がある村では、足をのばせるような湯船に浸かるには公衆浴場だけで、湯船に浸かるのは贅沢なことだった。

 ハールバット川の上流に位置するマナッセは、セレストに向かう街道の宿場町として発達しており、水の資源が豊富なため風呂のある宿屋は多い。水は近くの川から引いているが、沸かす時の燃料代は馬鹿にならないだろうが、水道には熱を発生させる魔道具がつかわれていたのを見て、どこの宿屋もこの手の魔道具があるのだろうなとニコルは思った。


 ウィスマリア魔法国は国名に魔法を冠するだけあり、魔力を扱う技術はどこの国よりも優れていた。そのため、国民は魔力を操るすべを子供の頃から魔力の制御を学び、簡単な魔法ならば誰でも使えるし、他国で高価な魔道具が一般家庭で日常的に使われており、この風呂で使っている魔道具もその一部であると言えた。



 のんびりと湯船でくつろいでいたが、他の人が順番を待っているかもしれないため、ニコルは湯船から上がった。持ってきたタオルで全身を拭い下着を身に着ける。男装はしていても、下着は男物を着るわけにはいかないため、普通に女性ものである。

 傭兵をしているだけあり、ニコルはほっそりと引き締まった体つきをしている。女らしい丸みを帯びた体つきとはいえ、胸だけはどうしてもあまり成長はみられなかった。せめてもう少し凹凸があればいいのにと、ニコルは自分の体を眺めて小さくため息を付いた。



「おーい、ニコル。風呂から出たんなら、次は俺が入るけどいいよ、な……」


「っ!?」



 ニコルが風呂場に入っていると知っているカルロは、律儀にも扉越しに声をかけてきたが、ニコルが返事をする前に扉を開けてしまい、まだ着替えの途中だったニコルと鉢合わせたのだった。

読んでくださりありがとうございます。


この章ではここが書きたかったんです!

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