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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第2章 旅路
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マナッセの酒場

 マナッセの宿場町に着いたのは、夕暮れから1刻(1刻=1時間)ほど過ぎたころだった。

 夜の森を通るのは危険が伴うが、日が沈む前に確認した距離標がマナッセまで2リーグ(1リーグ=約5km)ほどだったため、野営はせずにマナッセまで進むことになった。夜道で明かりを持たずに進むのは無謀だが、幸い傭兵の中に光の魔術を使えるものがニコルも含め数人居たため、魔術の明かりを頼りに街道を進んだのだった。



「やっと着いた」


「出発はいつになりそうだ?」


「明日の昼前には出ることになる。それまでは自由行動でいい」



 日も暮れてマナッセの町の通りは閑散としているかと思いきや、宿屋の客引きなどで意外にもにぎわっていた。ただし、盗賊の討伐で残党退治をしている騎士たちが数人通りを歩いていたため、物々しい雰囲気だった。

 明日出発すると通達し、ベルクマンが馴染みの宿屋に全員分の部屋をとってくれたため、その後は各自自由行動となった。



 同行している傭兵たちは食事に行くと話がまとまったため、ニコルも宿より先に食事をすべくティアを伴って酒場に向かった。夜とはいえ松明の炎で明るくなった通りを歩いていると、ティアが一件の酒場の前で立ち止まった。



「どうかしたのか?」


「いや、なんかティアがこの店が気になるみたいで……」


「?」



 ニコルの隣を歩いていたカルロが急に立ち止まったニコルに問いかけ、ティアが気にしている酒場に目を向けた。年季の入った看板にさびた金色の文字で『駒鳥亭』と書かれており、外見は特に珍しくもない普通の酒場に見えたが、にぎやかな人の声と時折聞こえるリュートの軽快な音楽が聞こえてきた。

 おそらく吟遊詩人が店にいるのだろう。特に入りたい店は決まっているわけでもなく、ティアがその場から動きたがらなかったこともあり、二人は先を歩く同僚に声をかけそのまま店内に入った。



 店の雰囲気はどこにでもありそうな普通の酒場だった。にぎやかな店内を給仕の女性が忙しそうに動いており、客も吟遊詩人の曲に合わせて踊ったりしていた。二人は空いているカウンター席に腰を下ろし、酒場の主人に夕食になりそうなものを頼んだ。

 吟遊詩人が奏でる音楽は心地よく響き、料理を待っている間は踊っている客を見ているだけでも楽しめた。

 しばらくして料理が運ばれてきて、二人は曲よりも食事をとることにした。豆と豚の臓物の煮込み料理とパンが出てきた。煮込み料理は香草と一緒に煮込んであるらしく、見た目はともかく味は良かった。カルロはそれだけでは足りず、エールを一緒に頼んでいた。



「お前は飲まねぇの?」


「明日も仕事だからね、飲むなら仕事明けじゃないと」


「さては弱いのか? このくらいのエールだったら水みてぇなもんだろうが」


「普通に飲めるよ。そっちも飲み過ぎてふらふらになるなよ?」


「へいへい」


 

 ニコルは本当にわかっているのかと、カルロをジト目で見たがカルロは特に気にした様子もなく、一気にエールをあおった。後ろで一際大きな拍手が上がり何事かと振り向くと、先ほどまでリュートを奏でていた吟遊詩人が優雅に一礼するところだった。どうやら先ほどの曲が最後だったようだ。ニコルは少し名残惜しいと思いつつ、目の前の食事に意識を戻した。



「隣に座っても?」


「聞かなくても空いてるよ」



 隣に人の気配を感じ視線を移すと、吟遊詩人は店の主人から報酬を貰っているところだった。そのまま帰るものと思いきや、なぜかニコルの隣の席に座った。

 間近で見ると、吟遊詩人はほっそりとしたきれいな男だった。ゆるゆると波打つ銀糸のような長い髪に空色の瞳を持ち、肌は南の地域出身を思わせる小麦色をしていた。

 店主に食べる物を注文すると、先ほどまでリュートを弾いていた手を組んでニコル達をニコニコとほほ笑みながら眺めており、カルロは居心地悪そうにしている。



「あの、何か用ですか?」


「ここの客ときたら、給仕の女の子以外全員男で聴かせがいがなくてね」


「は?」


「お嬢さんに聞いてもらえてよかった」


「ははは! お前! 女に間違えられてやんの!」


「カルロ。うるさい」



 仕事中のニコルの服装を見て女だと断言するものはあまり居ない。ニコルもとっさに吟遊詩人の発言が理解できず、一瞬呆けてしまった。未だ男だと勘違いしているカルロは爆笑していた。性別を間違えられるのはいつものことだが、爆笑するカルロにはイラッときたため、ニコルはカルロの脇腹を殴ってやめさせた。



「お二人はセレストに?」


「隊商の傭兵でね」


「残念です。依頼中でなければ、私の護衛をしてもらいたかったんですが……」


「マナッセにもギルドの出張所があるはずだから、斡旋してもらえるけど?」


「いえいえ、お二人に依頼をしたかったんです」


「……」

「……」



 どこまでが本気なのかわからない笑みの吟遊詩人に、二人は困惑した。ニコルは何故自分たちなのだろうと考えていたが、カルロは胡散臭そうにしており、そんな様子を見て、吟遊詩人は苦笑して冗談ですと言った。



「そうだ、街道には盗賊が出るから注意してください」


「領主軍が残党狩りしてるんじゃないのか?」


「私が聞いた話では散り散りに逃げたようで、残党も少なくないようですよ」


「……なんでそんな話を知ってんだ?」


「職業柄、人が多く集まるところに行くものでして、自然と耳に入ってくるんですよ」



 なぜそのような話を知っているのかと、ニコルが怪訝な顔をしているのを見て、吟遊詩人は純粋な好意ですよと語った。客が少なくなり手が空いた給仕の女の子たちが吟遊詩人の周りに群がったため、ニコル達は食事を終え吟遊詩人に情報の礼を言うと、酒場を後にしたのだった。


読んでくださってありがとうございます。

前回の更新から、間があいてしまい申し訳ありませんでした。


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