同行者
関所を越えた場所には盗賊の残党が居るかもしれないと考えてはいたが、関所の見張り兵士が居る安心感からか、ニコルは普段の野営よりも深い眠りだったように感じた。
昨晩、話をしたことでニコルと親しくなったカルロは、早朝の鍛錬に付き合い、ニコルの実力を見ると勝負を持ちかけたりしていた。
食事の前にベルクマンは隊商の人たちを集め、今後の予定を話した。一緒に野営をしていた隊商の商人たちも、責任者の話を聞いているようで、ベルクマンが昨晩のうちに今後の方針を決めていたのだろうと、ニコルは思った。
「みんなも聞いての通り、この先でセレストの領主軍が盗賊の討伐をしている。今朝の段階だと、盗賊団の主な構成者たちは捕えられたらしい」
「街道を通る許可は下りそうですか?」
「一応な。通行の許可に関しては、残党の討伐はマナッセを拠点にしている隊が行っているらしいから、この場にいる隊商全部で隊列を組んで移動すればどうにかなりそうだ」
「分散して被害が出ないようにするのか」
「そうだ。向こうの隊商の隊長との話し合いで決まった」
「隊列が長くなるから、到着までの時間が延びそうだが?」
「まぁ、市にはなんとか間に合うだろうさ」
食事を終えると、ベルクマンの号令ですぐに動けるように準備をし始めた。他の隊商もう同じように準備をしていく中で、ベルクマンがライマー達と話をしているのが目についた。おそらく、ライマー達も同行することになったのだろう。ニコルは、ちらりとライマー達に視線を送るとげんなりした気分になった。
「僕も一緒に行くことになったんだ、よろしくね」
「よろしく」
「こっちは、僕の同行者のエッカルトとマルセル」
「エッカルトだ」
「マルセルです。よろしく」
握手を交わして軽く自己紹介をした。エッカルトは目つきが鋭く、顔に古傷があるため強面である。両手剣を持つだけあってがっしりとした体つきをしている。マルセルはライマーと同年代くらいで、真面目そうな顔つきで商人に見えてもおかしくない容姿だったが、握手をした手はごつごつとした剣を握る手をしていた。
セレストに続く街道を先日よりも縦に長い隊列で、ゆっくりと馬車は進んでいた。盗賊の残党が居る可能性があるため、傭兵たちは常に周りの様子をうかがっていた。先頭を進むのは、ベルクマンの傭兵隊の隊長であるモーリッツたちだ、ニコルはティアが居るため、やはり最後尾にいた。
ライマー達はニコルと同じく、隊列の後方を守ることになった。ニコルをかまってくる中年傭兵のベンノはカルロ達の傭兵隊の副隊長であったため、そのまま残りニコルやライマー一行にも指示を出していた。
ハールバッハ川を跨ぐ関所を越え、しばらく進むとセレスト領の三分の一を覆うデマントイドの森が広がっている。街道は深い森を切り裂くように通っており、それなりに多くの旅人が街道を利用するため、一定の間隔で白く光る夜光石製の距離標が置かれていた。
他の地域の距離標は普通の石で作られているが、セレスト周辺の山では夜光石が多く採掘され、夜光石の距離標はセレスト領だけの特徴でもあった。
「ニコル君はベニトアで依頼を受けたの?」
「私は傭兵だけど、ベ二トアで依頼を受けられるほどの実績はないよ」
「そうなんだ?」
「セレストに行きたかったから、知り合いに隊商を紹介してもらって同行しているだけだよ」
「……ふぅん」
ライマーが仕切りに話しかけてくるため、ニコルは面倒ながらも周囲に気を配りつつ話に付き合ってやっていた。マルセルもベンノと何か話をしているようだったが、馬車の車輪の音でよく聞こえなかった。
「そっちはどうなんだ? エッカルトさんはかなりの実力者みたいだけど」
「え、えっとね」
「セレストで依頼を受けたんですよ」
「セレストで?」
「うん、そう! 薬草がとれる場所でジャッカロープが多く出るから、その討伐だったんだ」
「ジャッカロープはそんなに害のない魔獣だろう?」
ニコルが逆にライマーに何の仕事で関所にいたのか問うと、何故かライマーがどもり出した。何かあるのかといぶかしむと、同じく最後尾の護衛についていたマルセルが話してくれた。
ジャッカロープは中型犬ほどの大きさで鹿に似た角があるウサギ型の魔獣だ。臆病な性質で特に獰猛なわけでもないが、繁殖期や子育て中の個体に遭遇した場合は威嚇行動に出ることがあるため注意が必要だった。
森に魔力が満ちているときなどは出現率が多いと聞くが、魔力狂いで狂暴化していない限りジャッカロープは普通の猟師でも狩れる魔物のため、傭兵が3人も出なければいけないような依頼ではない。
ライマーの戦闘経験を増やすために受けた依頼かもしれないが、実力的に見合っていない依頼を受けたこの三人組にニコルは違和感を覚えた。
「……特別に大きい個体だったんだって」
「弓も持たずに来たのか?」
「……」
ジャッカロープは中型の魔獣だが、出没する場所がわかっており、足跡が残っているのなら待ち伏せをして矢を射るか、罠を張るのが一般的だった。ライマーやマルセルを見たところ持っている武器は剣のみで弓は持っておらず、ジャッカロープの討伐にしてはライマー達の話も装備も妙だった。特別に大きい個体だと言っても、素早い動きのジャッカロープを剣だけで倒すのは難しいのではとニコルは考えていた。ベンノも黙ってニコル達の会話を聞いていたが、ニコルと同様に首を傾げていた。
「弓もなくても討伐できたので問題なかったんですけどね」
「はあ、そうですか」
ライマーをフォローするように、これが討伐証明の部位が入った袋を掲げて見せた。別に疑っていたわけではないのだが、見せられれば納得するしかなく、ニコルはなんとなくモヤッとした気分になった。
ライマーが無邪気なのに対して、マルセルはいつも笑みを浮かべており、腹の底を探らせないような胡散臭さがあった。
「坊主たち、今は仕事中だ。しゃべってないできちんと集中しろ」
「……すみません」
黙って話を聞いていたベンノが、いい加減にしろと言ってきた。話しかけてきたのはライマー達だが、ニコルも釈然としないながらも自分も話をしていたため謝り、再び周囲の気配を探るのに集中し始めたのだった。
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