可笑しな友情
ニコルはライマーと別れてベルクマンを探していた。夕暮れ時の関所は、黄昏時の朱と松明の炎に照らされて揺らめいて見えた。
ベルクマンは他の隊商の隊長と思われる人たちと一緒に、関所の兵士と話をしていた。ニコルは声をかけようか迷ったが、ちょうど話が終わったようで兵士が持ち場に離れるのを確認すると、ベルクマンに声をかけた。
「状況はどうですか?」
「ニコル君か、思っていた以上に悪そうだ。数日前にセレスト領主の兵士たちが盗賊討伐に出たらしいのだが、思っていた以上に盗賊の人数が多かったらしい」
「傭兵じゃなくて、領主軍の討伐ですか……」
「討伐の状況が分からないから、ここを通すわけにはいかないんだそうだ」
ニコルは、セレストにつながる街道で盗賊の被害が多いと噂は聞いていたが、まさか領主軍が動かすほど大きな規模の盗賊団だとは思っていなかった。
セレストは森に囲まれているため、盗賊たちの隠れる場所は多い。そのうえ人数が多いとなると、統率のとれていないギルドの傭兵を雇う訳にもいかず、領主は軍を出さざるを得なかったのだろう。
「20日の市までにセレストに着ければいいんだが」
「ここから、セレストまで馬車だと最短で4日ですか」
「今日がリウムの10日だからな、少なくとも明後日までに出発しなくてはならないが……」
セレストの定期市は毎月20日に開かれている。ベルクマンは定期市に出るつもりだったようで、この時期に関所が通れないことに憤りを感じていた。ベルクマンと同じく兵士の話を聞いていた商人たちも、不安げな顔をしていた。
「それが出来なさそうだったら?」
「不本意だが市の参加は諦めるしかないだろうな。それに、いつまでもここで野営する訳にもいかないだろうから、一度ボレアに戻ることになる」
「うへぇ……」
「とにかくしばらくは様子を見るしかない。戻るか進むかの決定は明日だ」
日程次第でボレアに逆戻りになると知ったニコルは、げんなりと肩を落とした。そんな様子を見たベルクマンは苦笑いをすると、情報を集めるべく他の商人たちと話し合いをしに、その場から離れたのだった。
この日は早めに野営に入れたため、商人たちがスープを作ってくれた。ニコルはスープを受け取り、川が見える位置に座って食べ始める。ティアは荷を解いてもらうと、自分の食糧を確保すべく森の中に入って行ってしまった。
ニコルは後ろで草を踏んだ音がして振り返ると、カルロが自分の分の食糧を持って立っていた。人が少ないところを探していたら、ニコルと同じ場所に行きついたようだった。カルロとはボレアを出てから特に話もしていなかったが、ニコルは気にせず食事を続けていた。カルロはと言うと、ボレアの宿での出来事がしこりになって残っているようで、何か話そうとするたびに口を噤む様子をニコルにウザいと言われ、ようやく吹っ切れたようにニコルの隣で座って食べ始めた。
「こういう野営は初めてじゃないのか?」
「何度もあるよ? うちは家族全員傭兵だから色々な街に行った」
「へぇ」
「そういうカルロはどうなのさ」
「俺のうちは貧しかったからな、村の外に出たのは傭兵になってからだ」
「……」
「運よくモーリッツさんの傭兵隊に入れて貰えて、イレーネ…さんに一目ぼれして、いつか二つ名持ちになれるよう鍛えて、絶対に告白するんだ! って思ってたんだけどなぁ……」
「はは、告白する前に玉砕したと」
「お前が、あんなこと言うからだぞ!?」
カルロがどの口がそのことを言うか!と言わんばかりにジト目で非難したが、ニコルはただ面白そうにカルロに話の先を促した。
「氷刃のクルトに夢中ってわかっててもさ、告白くらいはしたいとは思ったんだよ」
「なら告白すればいいんじゃない?」
「お前が諦めろって言ったのに、なんだその無責任発言は」
「人に言われて諦められるくらいの想いなら、放り出しても平気なんだよ。それでも諦めきれないっていうんだったら、別に私が言ったこと気にしなければいいことだ」
「……お前、意地が悪いなぁ」
「私は言いたいことしか言わない」
そう言ってニコルは食べ終わった器を隣に置いた。カルロは話してばかりで一向に食事が進んでいなかった。
言いっぱなしはやめろよなとカルロに言われると、ニコルは楽しそうに笑った。
「まぁ、私はクルトの味方だからカルロには諦めろって言ったけど、告白して気持ちの整理ができるならすればいいんだよ」
「玉砕してこいってか?」
「そそ」
カルロは気持ちを切り替えるように、スープの残りをかきこんだ。
ニコルは話をなかなか切り出せずウジウジしているカルロは鬱陶しいと思っていた。告白する前にニコルの手によって撃沈したが、好きになった人に誠実であろうとする姿には好感を持った。
「じゃあ、玉砕したら俺に女の子紹介してくれないか? お前モテそうだし」
「恋愛には興味ないんだ。他をあたってよ」
「紹介くらいしてくれたっていいだろぉ」
「見合いが嫌で家出してきたのに、何で人に恋人紹介をしないといけないのさ」
「はぁ!? 見合いが嫌で家出?」
「親父がひっきりなしに見合いを組んでくるから、嫌で家出したんだ」
「なんだよ! めちゃくちゃ羨ましい状況じゃん!」
「……好みと違っていてもか?」
「……まさか、全員好みじゃなかったのか?」
「うん、全部ゴツイ系だった……」
カルロが誰か女の子を紹介しろと言ってきたが、誰が紹介するかとニコルは思った。自分のことで精いっぱいなのに、そんなことをしている暇はないと家出した事情を話した。
遠い目になったニコルの心情をそっちのけでカルロは羨ましがったが、見合い相手が全員自分の好みではなかったと告げると、一気に同情的な顔になった。
「ちなみに見合いは何件くらい?」
「……30件以上」
「あー、うん……。それは逃げても仕方ねえよ……」
「わかってくれてうれしいよ」
「まぁ、今は仕事中だから酒は飲めないけど、セレストに着いたら一緒に飲んで忘れようぜ!」
「そうだね」
カルロはまだ自分の性別を勘違いしているのではとニコルは首を傾げたが、カルロは同年代の友人ができたと思い上機嫌で、つい勢いにのまれて飲みに行く約束をしてしまった。ニコルとカルロの間におかしな友情が生まれたのだった。
読んでくださってありがとうございます。
プロットって本当に重要ですね、作ったら軌道修正がなんか楽になりました。




