カルロの恋話
ボレアの村に着いてからカルロはニコルと話す機会を伺っていた。
ニコルはカルロの視線に気づいているようだったが、特に気にも留めない様子で同行者のエリシア親子と話をしていた。
部屋割りも大部屋のベッドには空きがあるが、何故かニコルだけ管理人の部屋が宛がわれ、男同士なのだから一緒でも構わないだろうとカルロは考えていたが、仲間に騎獣の赤猫をおとなしくさせるためだと言われ、ようやく納得した。
カルロはニコルと話をするならば、ちょうど良かったかもしれないと思った。イレーネの話を聞こうと思ったのだが、大部屋では酒の入った仲間たちに酒のつまみにされかねない話だったからだ。
カルロの部屋では商人たちに交じり数人の仲間が酒を飲んでいて大騒ぎをしていた。
明日には出発するのだが、カルロはこの様子を見て大丈夫なのかと不安になった。そのうち隣部屋にいる隊長から雷が落ちるだろうと予想し、被害にあわないようにこっそりと部屋を抜け出した。
階下に降りて、そのまま外の空気を吸ってこようかと考えたが、管理人室の前で足を止めた。この機会に、イレーネの話をきちんと聴こうと思い、古びた木製の扉を叩いた。
「まだ起きてるか?」
「眠いので起きてません」
「いや、起きてるだろ」
ニコルはまだ起きていたが、不機嫌そうな声色で扉は開けてくれそうになかった。
そのまま眠ろうとしていたため、強めのノックと共にカルロは起きろと言った。二階からは相変わらず、酒が入った仲間たちが騒いでいるため、避難先に選んだのだと思われても仕方がなかった。
「少し聞きたいことがあるんだ」
「わかりましたよ」
申し訳なさそうに言うと、ニコルはしぶしぶと扉を開けてくれたのだった。
カルロが部屋の様子を見る限り、ニコルは本当に寝る寸前だったことがよくわかった。これでは不機嫌になっても仕方ないと考え、苦笑いをした。ニコルはベッドの向かいにある椅子に座るよう促され、素直に座った。
二人の間に割り込むように寝そべった赤猫はカルロから視線を外さず、警戒されているのだとわかった。
「で? 聞きたいことってなんですか?」
「お前、昼間と人格変わってないか?」
「こっちが寝ようとしたところにくるアンタが悪い」
ニコルは目が座っており、話し方も刺々しく昼間と違うとカルロは訴えた。しかし、ニコルが寝る寸前に来るそちらが悪いと言うと、カルロは小さくなるしかなかった。
「悪い」
「悪いと思うなら来るんじゃない」
「イレーネさんのことで話を聞きたかったんだ」
カルロは謝ったがニコルに取りつく島もなく、追い出しにかかろうとしたが、イレーネの話がしたいと言うと、驚いたように目を見開いて、しぶしぶと話を聞く体制になった。
「イレーネと恋人になりたいと思うなら、諦めろと言うしかないよ?」
「それは、お前がくっ付けようとしている男が居るからか?」
「それもあるけどね」
あくびをかみ殺しながらニコルは問いに答えた。眠気のためか、瞼が重力に負けそうになっている。
カルロはまだイレーネと恋人になれる機会があるのかどうか、友人であるニコルに話を聞くつもりだった。
「じゃあ、その男に勝てるようになったら。イレーネさんはこっちを見てくれると思うか?」
「いや、その話は本人にしなよ」
「それもそうなんだが……」
「まぁ、クルトに勝てるようなら、親父さんは納得するとは思うけど」
「クルト?」
「うん、クルーガー傭兵団のクルト。別名『氷刃のクルト』」
「ひょ、氷刃だって!?」
「そう、そのクルト。血はつながってないけど、あたしの叔父さん」
傭兵は実力や実績をギルドから認められると、ギルドから称号として二つ名が贈られる。
イレーネに対してある種の紳士協定が結ばれていたらしいのだが、彼女がクルトに一目ぼれしたことによって崩れたらしい。
一見、童顔で穏やかそうに見えるクルトだが、クルーガー傭兵団の中でも容赦ない戦い方をすることで有名だった。二つ名の通り氷の魔法を使い、戦闘が終わると辺り一面が白く凍ってしまうため、一部では『白い悪魔』と呼ばれているらしい。そんな彼に楯突く無謀な者はベトニアには存在しない。
思わぬところで有名な傭兵の名前を聞かされ、驚いて言葉も出ないカルロに畳み掛けるようにニコルは話を続ける。
「あんたはベトニアの傭兵ギルドのマスター知ってる?」
「あぁ、この依頼もあそこのギルドで受けたから、顔だけは……」
「イレーネはあの人の一人娘だよ」
「なっ!?」
「あそこの常連は必ず知ってることだから、そのうち耳にするとは思ってたけどね」
「……」
「イレーネはクルトに一目ぼれだし、クルトの身内的にもイレーネとくっついてくれるとうれしいし、ギルドマスターもなんか納得しそうな雰囲気だし……」
「…………」
「まぁ、まず一昨日の一件でイレーネに失礼な奴(おっぱい教信者)認定されてるから、望みは薄いんじゃない?」
カルロは、イレーネがあの熊のように大柄なギルドマスターの娘と聞かされ絶句した。同時に、イレーネと恋人になるには、『氷刃』と同等にならなければ、交際も認めてもらえないだろうということをようやく理解したのだった。
眠気に負けそうになっているニコルは、オブラートに包まずにカルロの傷を的確にえぐるような発言をぽんぽん繰り出してくる。
「……わかった。話を聞いてくれて、ありがとうな……」
「お休み。寝る前には絶対に来るな」
その後しばらく、延々とニコルの愚痴とイレーネに聞かされたという失礼な客への悪口を聞かされたカルロは、すでに立ち直れなくなりそうだった。
カルロは最後の気力を振り絞り、睡眠を妨害したため刺々しくなっているニコルに礼を言うと、幽鬼のようにふらふらと二階の大部屋に戻ったのだった。
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