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傭兵ギルドの猫  作者: kay
第1章 旅立ち
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傭兵ギルドにて

初めての投稿です。

 ウィスマリア魔法国でも、商業都市として名が知れているこの街の傭兵ギルドは大きい。

 商店が立ち並ぶ大通りの中心にあり、古めかしい造りの建物ではあるが、傭兵や仕事を依頼しに来た商人でにぎわっていた。


 依頼書が貼られている掲示板の前に、傭兵らしからぬ細身の少年がいた。

 気の弱いものならすくんでしまう熟練の傭兵たちの視線を、特に気にした様子もなく、依頼書が貼られた掲示板を眺めている。


 肩にかかるくらいの金茶の髪を一束にまとめ、ミントグリーンの瞳と薄い唇の中性的な顔立ち。重さを感じさせないしなやかな動きは、ほとんど足音をたてず猫を連想させた。

 使い込んだ外套と腰に下げた片手剣から、若手の傭兵がギルドに登録をしに来たか仕事をもらいに来たのだろうとギルド職員は思った。




「この依頼を受けたいんだけど」

 少年は掲示板の依頼書と水晶製の傭兵ギルド員の証を職員に渡した。

 傭兵ギルドに所属している者は、魔法がかけられた特別製の水晶を持っている。

 それには、登録している本人の情報、過去の実績や現在引き受けている依頼などを記録されている。情報を専用の道具で読み取り、水晶の持ち主が依頼を引き受けられるどうかの判断材料にしているのだ。

 ちなみに、この水晶は本人の血で個人情報を記録しており他人は使用できないようになっている。所有者以外の者が持っていると、黒く変色し使用ができなくなるという代物だ。



 実績のあるベテランが集うこの街では、若手の傭兵は珍しいと思いつつ、いつも通りにそれらを受け取った。

 なれた手順で水晶の記録を読み取ると、過去にギルド経由で請け負った依頼はなく、代わりに所属している傭兵団の名前が記されており、傭兵団員の子供だろうかと首を傾げた。


「なにか、問題でも?」

「すみません、傭兵ギルドでの仕事の実績がないと、こちらの依頼は斡旋できかねるのですが……」

 ほかの街なら、水晶の情報を読み取り依頼書を受理すれば、問題なく依頼を斡旋ができるのだが、この街のギルドでは別の条件が必要だった。


「傭兵団での実績じゃだめなのか?」

「申し訳ありません」

 どうしても依頼を受けたいらしい少年に、職員は申し訳なさそうに断りを入れた。

 残念そうに、少年が水晶を受け取ろうとしたとき、後ろから不機嫌な声がかかった。


「ここはガキが来る場所じゃねえんだ! さっさと帰れ」

 明らかにバカにした様子で、男は早くどけと急かしてきたが、少年はひるまなかった。


「そんなに急いでいるなら、別のカウンターに行ったらよかったんじゃないの?」

 逆に不思議そうに後ろにいる男に、他の職員がいるカウンターを指して言った。

 男は生意気な態度が気に食わなかったのか、少年の胸倉を掴んだ。少年は少し苦しそうにするも、ほとんど抵抗せず冷めた目で男を見ていた。


 荒くれ者が多い傭兵ギルドでは小さな小競り合いは日常茶飯事だが、一際体格の良い男と細身の少年では小競り合いにでもなったら少年の方が無事には済まない。二人の様子は、子猫が熊に喧嘩を売っているように見えた。

 


「やめとけ、ギルドで喧嘩はご法度だ。片付けが面倒になる」

 職員やほかの傭兵たちが止めに入ろうとする前に、カウンターの奥から騒ぎを見ていた、歴戦の兵といった風貌の男が顔をのぞかせた。


「あ、マスター久しぶり」

 少年は顔を見せた男に目を留めると、先ほどとは打って変わりにっこりとほほ笑んだ。

 男はこの街の顔役の一人でもある傭兵ギルドの長だった。

 ギルドマスターに声をかける者はあまりいない。それが逆に他の傭兵たちからの注目を集めたが、ギルドマスターも少年の顔を見ると厳つい顔をほころばせた。


「お前、命拾いしたなぁ」

 ギルドマスターが少年の胸倉を掴んでいた男に視線を向けると、この事態に気が削がれたのか、おとなしくなった。

 男は何に対しての命拾いなのだろうと怪訝な顔をしていたが、少年が手の中で隠すように持っていた細身のナイフに目を留めると、少年から離れ、そそくさとロビーに戻っていった。



「久しぶりだな、ニコ。おめぇの親父は一緒じゃないのか?」

 少年の親とギルドマスターは旧知の仲らしい。

 周りを見渡すが、少年の保護者らしい姿は見えない。


「無理やり見合いをさせられるから、家出してきた」 

 予想外な家出の理由に、ギルドマスターの笑い声が部屋中に響いた。

 話を聞いていなかった者たちも何事かと視線を向けてくる。


「お前の親父は人を見る目はあるから、見合い相手だって悪い奴じゃなかっただろう?」

 

 ひとしきり笑ったところで、知人の性格を考えると拒否する理由が不思議でならないと問いかけたが、

少年はみるみる不機嫌な表情になった。


「いくら人柄が良くても、ああいうゴツイのとは絶対に結婚したくないよ。

こっちは面食いだし」

 心の底から嫌そうに先程もめた男を引合いに出し、見合い相手が先ほどもめた男みたいなのばかりなんだと言うと、二人の会話に聞き耳を立てていた者たちからの笑い声と、何を想像したのか同情する視線があちこちからとんできた。


「……気持ちはわからんでもない」

 話を聞く限り一度や二度の見合いではなく、余程耐えかねたのだろう。好きでもない相手と立て続けに見合いさせられたことに同情を覚えた。


「とりあえず、手持ちのお金も少ないし、別の街に行きたいから隊商の護衛の仕事を探してたんだけど、ここじゃ無理みたいだね」

 注目されたのが居心地が悪かったのか、話を切り替えるよう事情を説明すると、ギルドマスターも困ったような顔をした。


「俺はお前の実力も知っているが、この街のギルドのルールじゃ、お前に斡旋はできないな」

「実力・実績よりも信用が第一だったっけ?」


 ギルドマスターがそうだと頷く。


「お前の実績っていうのは、親父の傭兵団と一緒にやってきた仕事だからな、ギルドを経由していない依頼だ。

つまり、ギルドでの依頼をこなした実績ではないから、今はこの街での仕事はできない」


 傭兵団は必ずしも傭兵ギルド経由で仕事を受けているわけではない。その依頼の多くは、ギルドを通さず傭兵団に直接持ちもまれる仕事なのだ。

 そのため、少年には傭兵団での実績はあったが、ギルドが斡旋した仕事を一人でこなした実績はなかった。


「この街以外で仕事を引き受けてこいってこと?」


「すぐに受けたいんだったら、傭兵団の幹部から推薦状やら、商家からの専任契約書をもらってこい。

ただし、そんなもの持ってこられても、余程のことがない限り特別扱いはしないがな」


 この街で依頼を受けたければ、ギルドでの仕事経験がない少年には、依頼人を納得させる実績を所属している傭兵団に証明してもらうしか方法がなかったが、しかし、属している傭兵団から飛び出した以上、傭兵団の幹部に推薦状を書いてもらうのは今更無理といえた。

 からかうように見つめると、少年はため息をついた。



「なんだ、やっぱり無理なんじゃないか」

「そういうことだ、諦めろ」

 期待させるようなことを言うなと憤慨している少年の頭をぐりぐりと撫でた。


「別の街に行きたいんだったら、どこか知り合いの隊商にくっついて行くのが一番安全だ」

「ここでごねても仕方ないしね。色々ありがとうマスター」

 この街のギルドでは仕事は受けられないが、ほかの街では少年にも受けられる仕事があるだろと、一番無難な移動方法を教えてやると、少年は礼を言うとギルドを後にした。




「マスターあの坊主は?」

 ロビーで一部始終を聞いていた傭兵たちが、興味深そうにギルドマスターに問うた。街の顔役でもある、ギルドマスターに対するふてぶてしさが気になったのだろう。


「あいつは、クルーガー傭兵団のアデーレとテオドールの娘だ」

 手を出したら殺されるぞと言うと、少年の素性に固まる傭兵たちを見て大笑いしながら、ギルドマスターはカウンターの奥の部屋に戻って行った。


拙作を読んでくださり、ありがとうございます。

まだ、主人公の出番が少ないですが、気長に待ってくださるとうれしいです。


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