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うっすらと積もる雪景色の中。
滑りやすくなった道を走るため、いつもより少しだけゆっくりとした速さで御者は馬を走らせた。
1時間ほどの時間をかけて、馬車は今夜の夜会の会場である屋敷に到着する。
「大きなお屋敷ですわね。」
「公爵と言えば王族に連なる血族だからな。様々な面で優遇されるものだ。」
馬車の扉を開けて先に降りたアルベルトの手にエスコートされ、ミシェルは馬車から降りた。
蜂蜜色の髪をした、エミリオになり替わったアルベルト。
屋敷に入るなり彼は直ぐに女性たちの色めきだった注目を浴びることになった。
「エミリオ様、お久しぶりでございます。」
ミシェルが屋敷の使用人にショールを預けるため、アルベルトの腕から手を離した瞬間。
一瞬の隙も見逃すことなく、麗しき令嬢たちは彼に声を掛ける。
もちろんアルベルトの死角からミシェルを睨むのも忘れない。
アルベルトはぎこちないながらも笑みを携え、あくまでエミリオとして優しく彼女たちに接していた。
「エミリオ様、今夜は絶対に私と踊って下さいませね。」
「えぇ、ぜひ。」
「エミリオ様、エミリオ様!ドレスを新調いたしましたの。いかがかしら。」
「とてもお似合いですよ。」
遠慮の知らない女性たちに囲まれながらパーティー会場となるホールに到着したアルベルトは、さらに人数の増えた令嬢たちの相手を迫られる。
(エミリオ様って…本当に人気者でしたのね。)
異常なまでの熱狂ぶりだ。
おそらく婚約の件で火に油を注いだかのような状態なのだろう。
しかしエミリオは一体何をどやって彼女たちをここまで夢中にさせているのか。
考えながら引きつった笑みを浮かべて、ミシェルは静かに後ろに控えることにした。
アルベルトが主催の公爵に挨拶をするときも。
他の出席者の貴族達と談笑をするときも。
令嬢たちはエミリオになりすましたアルベルトから片時も離れることはなかった。
一定の距離より近くには、絶対にミシェルを近づけない。
おそらくミシェルを近づけまいと事前に話し合っていたのだろう。
ミシェルは邪魔にならないように距離をとりながらも、ずっと背後に控えていた。
時折、わざとらしくぶつかってくる者や、靴を踏んでくる者もいる。
しかし笑みを絶やさず、じっと耐えている。
(もともと作り笑いは得意だもの。こんなこと何でもないわ。)
蔑ろにされることも。
居ないように扱われることも。
慣れているから。 大丈夫。




