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夜も近付き気温が一層下がる夕刻。

暖炉にくべられた薪火が、パチリと小さく音を立てて跳ねた。


カールソン侯爵家の玄関ホールでは、侯爵子息と婚約者の令嬢を舞踏会へ送り出すための準備が進められていた。


ミシェルの髪は柔らかい猫毛の為に、結いにくい。

だから普段は見苦しくない程度のアレンジしかしていなかった。

しかし今夜は時間をかけて丁寧に全て頭部で編みあげられ、シフォン地の柔らかい飾りリボンと真珠で飾られている。

ドレスはリボンと同じ材質の生地をふんだんに使い裾を膨らませながらも、シンプルなデザインで清楚な印象だ。


派手過ぎない淡い薄桃の色は、(はかな)い印象で深窓の御令嬢を思わせる風貌のミシェルにはとても良く似合っていた。


「…あの、アルベルト?」


裾をつまみながら中央階段から玄関ホールへと降りて来たミシェルを、思わず凝視していたアルベルトは、ミシェルの声にはっと我に返る。


「いや、何でもない。」


誤魔化すように視線を横へ流し、たどたどしく首元のアスコットスカーフを締め直す。

アルベルトのスカーフは、ミシェルのドレスの生地と同じもので出来ていた。

それは他の出席者に特別な関係だと知らせる目印だ。


ミシェルと特別な関係の相手とは、もちろんアルベルトではなくエミリオである。

蜂蜜色の鬘をかぶり、エミリオの好み通りの裾にも袖にもフリルがあしらわれた燕尾服を来たアルベルト。

普段のアルベルトならばこういう場での正装には、スタンダードなタキシードと飾り気の無いクロスタイなどを着用するのだろう。

そんな彼の姿を想像してしまい、今の格好との差に思わず笑いをもらしてしまった。


「髪の色が違うだけで雰囲気まで変わりますのね。」


重たい印象のある黒の直毛から、蜂蜜色の華やかな色合いの柔らかい毛質の鬘に、変わっただけだ。

あとは衣装の系統が違うだけなのに、ずいぶん雰囲気が柔らかく見える。

アルベルトが気にしているらしい威圧的な雰囲気も薄らいだように感じた。


(無理があるのではと思ったけれど、これなら親しい人で無ければエミリオ様と分からないわ。)


エミリオと違い、表情は硬かったが十分にごまかせるだろう。


「…大丈夫そうか?」

「えぇ、アルベルト様に近しいお方で無い限りは分からないと思いますわ。」


力強く頷いたミシェルに、緊張した様子だったアルベルトも多少は安心したのか僅かに口端を上げた。



「エミリオ様、ミシェル様、馬車の準備が整いました。」


使用人が二人に近づき、控えめに申し出てくる。

同時にミシェルの背後に控えていた別の使用人が、柔らかな白のファーショールをミシェルの肩に掛けてくれた。


「本日はとても冷えますわ。どうぞ暖かくされてくださいませ。」

「ありがとう。」


ミシェルは微笑みながら掛けられたショールに手を添えて、同時に傍らに腕を出す男に気付く。


「ほら。」

「…はい。」


レース素材のドレスグローブを嵌めた手をアルベルトの腕に添えて、彼女は素直にエスコートされる。

玄関の扉を開くと、直ぐに馬車が止められていた。

従者が馬車の扉を開くのを待ちながら、ミシェルは灰色の空を仰ぎ見た。


「降ってきましたわ。」


ミシェルの声に釣られてアルベルトも空を仰ぐ。


白い雪の粒が、はらはらと地上に舞い落ちるところだった。




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