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長男の代わりに双子の弟を身代わりに据える。


そんな突拍子もない話が決まってからの両家の親の行動は早かった。

3日後には、ミシェルは父と共にカールソン侯爵邸を訪れていた。

次男であるアルベルト・カールソンとの顔合わせの為だ。



歴史を感じられる重厚な家具が配置されたカールソン侯爵邸の応接室。

雪が振る凍るように冷える外とは違い、暖炉に贅沢にくべられた薪火のおかげで室内は暖かい。

ミシェルはゆるく編みあげた髪に、若草色のベルラインドレスを纏って父と共にソファに腰掛ける。

目の前に座ったアルベルトを、薄茶色の瞳でそっと見上げた。


(こ、怖っ…。)


さすが双子といった具合に、長兄のエミリオと顔と背の高さもそっくりだ。

とろりとした蜂蜜を思わせる瞳の色も同じ。

エミリオとの違いは、おそらく髪色くらいだろう。

ミシェルの知っている瞳の色と同じ蜂蜜色の柔らかな髪とは違い、目の前の彼は漆黒で真っ直ぐな髪だった。



しかし髪がどうとか以前に、オーラが全く別物だ。



おだやかでいつも笑みを絶やさない婚約者エミリオ。

反してこの男は武骨で粗野な雰囲気がする。

彼は不機嫌そうに眉をひそめ、苛立たしげに明後日の方向を向いていた。

兄の身代わりとして結婚させられるのが不満でたまらないと言った様子がありありと伝わってくる。


「こら、アルベルト!もう少し愛想良くしないか!ミシェル殿が怯えているじゃないか。」

「……。」


隣に座るカールソン侯爵に肩をたたかれて、アルベルトは更に不機嫌に磨きがかかったかのように見える表情で眉間のしわを深くする。

面倒くさそうに小さく嘆息しながらも、初めて正面に座るミシェルへ目を向けた。


「あの、初めまして。ミシェル・コルトーと申します。」


ソファに腰掛けたままの状態で頭を下げる。

目礼した後に顔を上げたミシェルが、アルベルトに視線を戻すと、彼は先ほどより更に眉を寄せて難しい顔をしていた。


「……。」

「あの…?」


表情は厳しかったが、なんとなく、先ほどの怒った様な雰囲気が薄れているような気がした。

挨拶をしただけでどうしてそうなるのだろう。

ミシェルは眉を下げて、首を傾げながらアルベルトを見上げる。

すると彼は今度は戸惑ったように視線を左右に彷徨わせた後、しばらくしてそっと視線を下へと降ろしたのだ。


---ぼそりと、小さく発せられた低い声が場の空気を震わせた。


「どうして。」

「はい?」

「……いや、何でも無い。」

「……。」


ふいと顔をそむけてしまったアルベルトの表情は明らかに戸惑いを含んでいる。

その挙動の意味が分からない。

どうすれば良いかわから無いミシェルに、アルベルトの父であるカールソン侯爵が優しく声をかけた。


「ミシェルは気丈な方ですね。アルベルトは何せこの風貌でしょう?子供や女性には怯えられて泣かれるのなどしょっちゅうなのですよ。」

「泣かれる?まさか…。」


確かにずっとしかめっ面な表情は怖くて、ミシェル自身も怯えてはいた。


(威圧的な方だとは思うけれど、泣くほどでは…。)


いくらなんでも大げさだろうと呆けたミシェルだったが、再び見上げたアルベルトの表情にそれが真実だと(さと)らされる。



「…だから先ほど驚かれておられましたのね。」


そして、自分と目を合わそうとしなかったのは怯えられると思っていたからか。

ミシェルの呟きに、アルベルトは小さく瞠目する。


無口で無愛想なアルベルトは、感情の表現が巧くは無い。

にも関わらず目の前に居る彼女に簡単に察されてしまったのだ。

大人しそうで深窓の令嬢と言った風の容貌とは少し違い、聡明であるらしい。


(…面倒だな。)


アルベルトは気合を入れて表情を引き締めた。

内面を知られるのは弱い部分をさらけ出してしまうように感じてしまって、あまり喜ばしくない。

婚約者のふりをして人前に出る時以外は、出来るだけ関わらない方が良さそうだ。


無表情のまま、一人で結論付けた。

しかし次に彼の耳に滑り込んできたのは、思っても居ない台詞。


「では、カールソン侯爵。私はこれで失礼しますので、本日から娘を宜しくお願いします。」

「えぇ、もちろんですとも。大事なお嬢さんを預からせて頂くのですからね。」


腰を上げたコルトー伯爵にアルベルトの父カールソン侯爵は何度も頷いた。

これではまるでミシェルを我が家に置いていくかのようなやりとりだ。

ミシェルも当たり前のように頷いていて、意味が分からず混乱しているのはアルベルトだけだった。


「…どう言う、事ですか?婚姻はまだ先でしょう?」


「そう言えば、お前にはまだ言っていなかったな。我がカールソン侯爵家のしきたりなどに早く慣れて頂くため、ミシェルは今日から家で預かる事になった。花嫁修業と言うものだ。」

「本気ですか…。」


父の言葉に、アルベルトは呆れたように嘆息して額を手のひらで覆う。


「心配せずとも、家の中でまでエミリオの振りをしろとは言わん。夫としてではなく客人として扱え。決して手はだすなよ。ミシェルの結婚相手はエミリオであってお前では無い。」

「出すわけないでしょう。」



あの兄の妻になる女性に手をだすだなんて、(はなは)だごめんだ。




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