悲劇のお姫様 -funny
くだらない社会とか、歪んだ世界とか、闇に飲み込まれた私だとか、かっこ良く聞こえる言葉をずらずらと並べて、まるで全てが分かっているような口を叩く、君。
そんなにこの世界が憎いの?
「……」
目の前にあるのは、美しくきらびやかなドレスを身に纏った人形。
それは、昔君がとても大切にしていたもの。
もう、今は存在さえ忘れているだろうけど。
もし僕が、君の痛みを背負ってあげられたら。……君は強がって、また痛みを背負い直すんだろう。
そんな事はどうでも良い。
僕が今一番願っているのは、君に笑ってもらう事、それだけだ。無理矢理にでも笑わせてみせる。僕は屋敷を出て、庭のどこかに居るであろう……君を探して、駆けた。
走り回る事数分。まだ君は見つからない。ただ闇雲に探していたからだろうか。
しばらく立ち尽くして、心当たりのある場所を考えてみる。そんな時、ぽつりと頬に一粒の雫が落ちてきた。
雨だ。
「……雨?」
雨は降り出したかと思うと途端に本降りになった。大粒の雨が、容赦なく地面へ降り注ぐ。
僕の体も、どんどん冷えていく。
……そうだ、思い出した。
そう言えばあの時、君と一緒にあの場所で雨宿りしてたっけ。すっかり忘れてた。
心当たりのある場所が見つかった僕は、そこに向かってまた走り出した。降り続ける雨が次々と僕の体を打つ。走る事数秒、庭の片隅にそびえ立つ大きな樹を見つけた。
あの樹の下に、君がいる。目で確かめなくても、僕には分かった。
昔遊んでいて突然雨が降ってきた時や、日差しが強かった時、二人であの樹に寄りかかって過ごしていた。少しずつ、樹に近づく。……やっぱり居た。僕の片割れが。
雨には濡れていないようで、ずっと樹の下にいたみたいだ。……僕はずぶ濡れだけど。
また悲しんでる。やっぱりこれからの事が怖いのか。……今度は絶望だの陳腐な言葉はぶつけないでほしいけど、この様子じゃ分からないな。
僕だって怖くない訳じゃない。むしろ、怖い。
「ねぇ!」
「なに?」
「私たち、これからもずっと一緒に生きていこうね。絶対だよ!」
「そうだね」
あの時君が言ってくれた言葉、忘れてないから。約束したから。
君が悲劇のお姫様だろうとどうだって良い。ヒロイン気取りだろうと、何でも。そんなものは、これからすぐに消え失せて無くなる。
君を大切だと思う時も、邪魔だと思う時もある。でも君は、何だろうと僕の片割れ――双子の姉だから。
こんな事、口が裂けても言えないな……そんな事を思いつつ、僕は濡れたままの体で、そっと君を抱きしめた。