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書けない僕

 書きかけのノートに、ただただシープペンシルを走らせる。暗い部屋の中で、機械的な蛍光灯の光だけが手元を照らしている。


「んー…!」


 腕を思いっきり万歳して伸びると、ゆったりとした動きで椅子から立ちあがり、


「はぁ、そろそろ寝るか。」


と言って、筆記用具を片付け始めた。そしてベッドに入り、すぐ眠りについた。そんなごくごく普通の男子中学生である彼の名前は、海野 月(うみや つき)

 この本土から遠く離れた小さな島に住む、小説家を目指す、一人の中学生である。









「月!!起きなさい!」


 そう言いながら、俺の布団をばしばし叩いているのは母さんだ。


「わぁーたよ!起きる!!」


 母さんを退かすようにして飛び起きると、洗面所へ向かい、身支度を始めた。


「朝ごはん。」


 俺が制服に着替え、席につく頃には、。少し機嫌を悪くした母さんが焼きたてのパンを準備してくれていた。

 時計を見やると、出発時刻が近い。俺は急いで食パンを頬張り、鞄に必要なものだけを乱暴に詰めて家を出た。


「いってきまーす。」


「行ってらっしゃい、早く帰ってくんやで〜。」


「はーい。」


 自転車に乗って、坂を駆け下りる。この風が、俺は好きだ。夏らしい爽やかな緑の香り。この島でしか感じられない空気だと思っている。


「おっ、海野!よっ!」


「山〜!よ!」


 校門を潜ると、クラスメイトに出会った。自転車を漕いだまま挨拶し、駐輪場に向かう。自転車を止めたあと、教室へ向かうのだが、この教室までの道のりが思っている以上に長い。なぜなら、俺のクラスの教室は最上階である、4階だからだ。

 俺が通っているこの中学の名前は、神浦(かみうら)中学校。ここ、神浦島で唯一の中学校だ。


「あ、月、来た。おはよ、来んかと思ったで。」


「おはよ、いや〜寝坊してもうてん。」


 今話しかけてきたのは隣の席であり、俺の隣人でもある、木下 鈴(きのした りん)だ。焦げ茶の髪をいつもひとつにまとめていて、元気なやつだ。


「おーし、席 着け〜。授業始めんで。」


 授業が始まった。一限は国語。俺の苦手科目なので、当然集中力なんて続かず、脳内では別のことを考えてしまう。

 例えば、物語の題名だけを勝手に思いついては、ノートの端に書き残したり、人物の名前だけを必死に考えていたりする。


(空…、森、海…)


 この学校は小さな山の上にある。だから、4階からでも、島の広い範囲を見ることができる。青い海、青い空、若々しい木々の葉、あと、島で有名な古い遺跡。それら全部をひっくるめて、神浦島なんだと俺は思っている。


「海野!おい、聞いてんのか?」


「…っはい!?どこですか?」


 景色に没頭して、ろくに授業を聞いていなかったため、少し怒られたが、反省する気はない。


「もういい、木下。」


 かわりに当てられた木下に少し睨まれたけど、俺はそんなの気にしない。ちょっと笑ってやった。


(あ…、鳥が…)


 昨日の雨でできた小さな水溜まりに小鳥が集まっている。その光景を見た瞬間、なんとも言えない満足感で胸がいっぱいになった。

 チャイムがなり、授業が終わると、また少ししてチャイムがなってまた始まる。それが繰り返され、やがて放課後になった。

 放課後、委員の仕事がある俺は、友人に一言断って委員の活動に勤しんだ。それも終わると、今度はいよいよ帰宅である。最寄りの鉄道──とは言っても、一つだけ──の駅に着き、古びた青い椅子に座って列車を待つ。

 この街には、電車はない。少々不便なのは確かだけれど、俺にとっては、なぜだか少し誇らしい特徴である。列車を待っている間、意味もなくスマホをいじっていると、どこからか、女子のすすり泣きのような声が聞こえてきた。


「…え?」


 最初こそ困惑したものの、島には自分が知らない人間などほとんどいないのだから、緊張する必要なんてない。そう気づくと、段々と冷静になってきた。


「あ、あの〜…誰かいますか?」


「うっ、ひっく…うぅ…」


「ぎゃあ!?」


 立ち上がって周りを見渡してみると、少し離れた席に同じ制服を来た女子が座っていた。


「えっと、お前は……ん?見たことないな」


 島の人間はほとんどが知り合い、そう思っていたのは過信だったか、とすこし自分に落胆する。


「大丈夫…?」


「…うん…。」


「えっと…」


 泣いているのを知っているのにも関わらず、放っておくのも人としてどうかと思ったから、俺はゆっくりと、隣に座った。


「なんかあったん?」


「…」


「なんで泣いてるん?」

「…」


 なにを聞いても頑なに答えようとしない様子を見て、少し趣旨を変えた質問をしてみた。


「おま、島のもんとちゃうやろ。」


「…うん。…なんでわかるの?」


「そら、みんなの顔、覚えてるし。…で、どこから来たん?」


 少し顔を上げて、驚いたような顔をしてこっちを見た。ちょっとつり上がった目と、メイクの施された顔。どう見ても、この島では見かけない顔だ。


「私は、えっと、愛知県からきたの。ちょうど、1週間前くらい。」


「ほんなら、俺らは夏休みやったんか。…で、なんで泣いてんの?」


「い、言うわけない!こ。こんな情けない…あ。」


 「情けない」と言ったあと、慌てて口を抑えた。


「名前は?」


桜田 望(さくらだ のぞみ)。」


「ほぇ〜。望な!覚えたわ!」


 不安にさせないように、親指を立て、聞こえているよ、ってアピールすると、望はクスッと笑った。


「ほんなら、なんで泣いてんの?ここ、嫌か?」


「ううん…違う。これは、私自身の問題なの。」


 そうきっぱりと言い切ると、また俯いてしまった。


(「私自身の問題」なぁ。やっぱ、なんかあったんやろか。)

「なあ、勝手に悩み事相談してええか?」


「は…?まぁ、どうぞ。」


 一瞬戸惑ったようにこっちに視線を向け、どうでもよさそうにそう言った。俺が望に悩み事を相談しようと思ったのは、“なんとなく”だ。島の人達は、いい人達ばかりだけれど、言いたくないことの一つや二つくらいある。でも、望はこの島に来たばかりで、俺は望のことを全く知らない。だからこそ、俺は何も考えずに話せるのかもしれない。


「俺な、好きなことあんねん。夢もあんねん。でもな、俺にとっては苦手分野やねんな、それが。」


「えっ…。」


先程まで至極どうでもよさそうな顔をしていた望は、いつの間にか、その目見開いて俺を見ていた。

初めて書く小説です!

楽しんでくれたらいいな、って思います!

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