兄弟の雑談
性格破綻キャラが好き
大陸の覇者たる帝国。現在、帝国では後継者争いが行われていた。
若い頃から数々の女性と浮き名を流していた皇帝ジュリアスは、人々から浪漫帝と呼ばれていた。
そして浪漫帝ジュリアスには――正式に認められた皇子が、5人存在する。
帝国貴族たちは、皇帝を中心に政治を行いたい“皇帝派”と、貴族を中心に政治を行いたい“貴族派”に二分されていた。そして前者は第三皇子を、後者は第一皇子を支持している。
日に日に後継者争いが過激化していく中、見兼ねた浪漫帝ジュリアスはある日、皇子たちにこう宣言した。
「ロマンシアの称号を持つ余の子供たちは、余には似ても似つかず、女子の一人も侍らせぬ。本当に余の血が流れているか、怪しいものだ。故に、一ヶ月後に行われる建国祭の夜会にて、五人の皇子は婚約者を同席させよ。婚約者を同席させぬものは余の子とは認めず、皇位継承権を剥奪し、廃嫡とす」
浪漫帝ジュリアスは、なおも続けた。
「最も未来の皇后に相応しいと、余が認めた婚約者を連れてきた皇子を皇太子と認め、余の後継者とする」
なんとも理不尽で、なんとも浪漫帝らしい後継者の選び方だ――。
民衆は呆れ、そしてそれでこそ浪漫帝だと称賛する。
さて、貴族派の筆頭貴族であるスミンテウス侯爵家。
その当主、脅迫卿エドワードと、弟の失地卿ウィリアムは、第一皇子の今後について、密やかに話し合いをしていた。
「まったく、皇帝陛下にも困ったものだ。まさか、こんなバカげた方法で後継者を決めるなんて信じられないよ」
そう言ったエドワードの口元は緩み、ニヤついている。
そんな兄を見るウィリアムの目は冷ややかだった。
「兄貴……楽しんでるだろ」
「何を言ってる?楽しいに決まってるじゃないか」
彼の異名は脅迫卿、皇帝から授けられた称号は癖者。他人の秘密を暴く事、他人の嫌がる姿を見る事を何よりも悦楽としている性格破綻者。それがエドワードという男である。
「さっそく、第一皇子殿下には私が選び抜いた婚約者をあてがってやらなければな」
「いや、第一皇子には好きなやつがいるだろう。専属メイドにして、常に側に置くぐらいご執心なんだぞ。気持ち悪い」
心底うんざりした顔をするウィリアムを他所に兄であるエドワードはケタケタと笑っていた。
「マーシャ嬢だろ?知っているよ。だが、それでは面白くないだろう。私は恋愛小説では主人公とヒロインのすれ違いだけを求める男だぞ」
「いくら兄貴でも第一皇子を敵に回すような事はするなよ。アイツと敵対するのはめんどくさい」
「敵対するわけないだろう。私とアウグスト殿下は無二の親友だぞ。ただ、私の知人がちょうど再婚相手を探していてな。ちょうど求める女性像がマーシャ嬢に当てはまっているんだ」
ニヤリッと癖者の笑みを浮かべるエドワード。
ウィリアムは狼という称号に似つかわしくない表情で、眠そうな目を擦り、あくびをする。
「頼むから俺の仕事を増やさないでくれよ。後継者問題がこれ以上拗れたら、また内戦に逆戻りだ」
「反乱者や反逆者の皆殺しはお前の仕事だものな。ええ?皆殺しの天才、失地卿リュケイオス男爵どの」
先の内戦にて活躍した兄エドワードと違い、弟ウィリアムは内戦後に起こった“公家粛正”と呼ばれる大規模粛正で名を馳せた人物である。
帝国の公爵家は一つをのぞいて、ウィリアムによって滅ぼされ、その領地は皇帝に献上された。その功績からウィリアムは皇帝から狼の称号を与えられ、人々から失地卿と恐れられていた。
「まあ、そう睨むなよ」
「睨んでねえよ」
「私だって内戦はもうこりごりだ。後継者問題をこれ以上拗れさせるつもりはないさ」
混沌を愛する一方で、帝国の安定を誰よりも望む男――それがエドワードだった。
白と黒の魂を併せ持つ稀有な存在こそがスミンテウス家の特徴である。
「だからこそだな。アウグスト殿下には高位の家の令嬢を婚約者に迎えてもらい、他の皇子を圧倒していただきたいのだよ」
「マーシャ嬢だって九氏族の血を引いてるだろ?」
「末端も末端だからな。それにマーシャ嬢は良い子すぎるからな」
「あのもやしには丁度いいだろ」
「駄目だ!あの腹黒と同じぐらいの腹黒を私が探して見せるとも!」
「自分の性癖を他人に押し付けるのやめろよ」
エドワードの女性の好みは“性格の悪い美人”であり、エドワードの妻も幼い頃は悪役令嬢、成長した現在は悪女と名高い人物である。
「女性には振り回されるぐらいがちょうどいいのだよ」
「振り回されるにも限度があるだろ。義姉さん今日も兄貴を亡き者にする計画を立てながら、兄貴の財布で散財してるんだぞ。昼下がりの優雅な時間にな」
「何度やっても無駄なのに、いじらしいだろ?」
「どこがだよ」
恍惚とした顔をするエドワードに対してウィリアムは冷ややかな視線をおくる。
「そういえば、この間妻が呼んだ吟遊詩人がとても興味深い話をしてくれたよ」
「ああ、なんか第一王国から来た吟遊詩人だったらしいな」
「夫婦の話だったんだが、良い話だったぞ」
「兄貴が良い話っていう事は碌な終わり方しないんだろう?」
******
――真顔――
ある所に夫婦がいた。
夫は昔患った病気のせいで目が不自由になっており、按摩をして生活をしていた。
とても信心深い夫婦で、毎日のように教会へ行き、神に祈りを捧げていた。
とある冬の晩、夫は寒空の下、いつもより遅く帰ってきた。
「どうしたんだいお前さん」
妻には夫がいつもより元気がないように見え、そう聞いた。
「いや、なんでないんだ」
「なんでもない事はないだろう?そんなに顔色が悪いじゃないか。今日はもう休むかい?」
妻の優しさに心をうたれた夫は、ポロポロと涙を流しながら、今日起こった事を妻へと白状した。
夫は、最近不景気だったために客が取れず、仕方なく飯代のために僅かな金を借りようと、弟を尋ねたのだ。
しかし、夫が若い頃に親の代わりに育てた弟は、兄を見るなり、「盲のただ飯食いが来やがった!」「盲!盲!」と罵ってきたという。
夫は、泣きたくなるほどの悔しさを必死に飲み込み、家へと帰ってきたそうだ。
「ああ、それは弟さんが悪いね。あんなに可愛がられて育てられたっていうのに、恩を仇で返すようなことをして」
号泣する夫を妻は宥めながら、そう優しく寄り添った。
次の日から夫は前にも増して熱心に教会へと足を運ぶようになった。
見えなくなった目がもう一度、見えるようにしてほしい――と。
毎日のように神に祈りを捧げていた。
妻も毎日、教会に通って祈りを捧げていた。
そんな信心深い夫婦の噂を聞きつけ、この世に有数の聖女が夫婦の通う教会へとやってきたのだ。
聖女は神から授かった奇跡の力を行使すると、夫の目は再び開き、見えるようになっていた。
夫は、この世のものとは思えないほど美しい女が、目の前に立っているのを見た。
「よかったね!お前さん!」
そう話しかけられ、隣を向くと醜い女が、立っていた。
醜い女は心の底から嬉しそうに、美しい女に何度も頭を下げているのを夫は見た。
夫は、醜い女が自分の妻で、美しい女が聖女だということを理解した。
夫の心にどす黒い感情が芽生える。
夫は次の日から、また毎日、教会へと足を運んだ。
今度は祈るためではない。聖女に会うためにだ。
毎日、毎日、前よりも熱心に教会へと通った。
夫は完全に聖女に心を奪われていたのだ。
終いには、国へ帰る聖女についていくと言い出した。
妻は夫の目を潰した。
次の日――。
妻はまた、いつものように教会へと足を運び、いつもと同じ願いのために神に祈りを捧げる。
どうか、夫の目が見えないままでありますように――と。
******
「どうだ?中々に心温まる話だっただろ?」
そこまで話を聞き終えたウィリアムは、兄に対して「どこがだよ」と言いたげな表情を見せる。
「お前も早く結婚しろ」
「その話を聞いた後に結婚したいと思う奴がいると思うのか?」
ウィリアムはうんざりした顔を兄へと向けると、目線を逸らす。
「…………そんなことよりアウグスト殿下の婚約者の話だろう」
ウィリアムは明らかに話を逸らした。エドワードは今は見逃してやるよ、と言いたげな笑みを浮かべ、話を第一皇子の婚約者の件に戻す。
「もういっそのこと、第二王国で悪逆非道と噂されるメアリー妃の一人娘、ジュディス・ジャバ=ウォック・フォン・セカンドとの縁談でも計画しようかな。彼女も母に似て、相当難のある性格らしいぞ」
「他国の王族はさすがにまずいだろ」
帝国ほどでは無いが、第二王国も後継者問題で揺れていると聞く。
この状況で第一皇子が第二王国の王女と婚約すれば、帝国が政治的介入を企てていると、第二王国は勝手に勘繰るだろう。
後継者問題や北方遠征の再開運動など、内戦が終わった後も帝国は問題だらけだ。
そんな中でエドワードはまだ問題を増やそうとしている。
「考えるだけで楽しくないか?」
そう言ってエドワードは癖者の笑みを浮かべている。
「あー田舎の小さな領地でのんびりしたい」
「お前にはまだまだ働いてもらうぞ」
ウィリアムは思う。
いくら人が死のうがどうでもいいが、自分の仕事を増やさないでほしいと――。
執念深く、どんな仕事も事務的にこなす男。
どんな残虐なことも躊躇わず、どれほど凄惨な光景にも眉ひとつ動かさない。
実は極度のめんどくさがりで、仕事は苦ではないが、やりたくはない。だが、それは良心が痛むとかではなく、単純に仕事をしたくないだけ。
エドワードとは違うタイプの性格破綻者。
しかし、自分がそれを平然と行えてしまう薄情さに、ふと心を痛めることもあった。
そんなウィリアムの夢は、小さな領地を与えられ、のんびり過ごすことだったが、エドワードから阻止されている。
ちなみにエドワードにはウィリアムの他にあと3人の妹弟がおり、全員を合わせてスミンテウス兄弟姉妹と呼ばれていた。
エドワードやウィリアムに負けないほどに癖のある人物たちだが、その話はまた別の機会で。
誤字脱字などがあればお教えください。
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