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酒場の与太話

因果応報の話

大陸の南西に位置する半島国家、商業共和国。

王や貴族が存在せず、金を持つ商人たちが支配する国。金さえあればいくらでも成り上がることができる国。この国に身分の差は存在せず、あるのは貧富の差だけである。

共和国は大陸の三大組織の一つである組合(ギルド)の本部を数多く抱える国である。数多存在するギルドの一つである探索ギルド。世界各地の未開の地や遺跡を荒らし周り、金目のものを根こそぎ奪い去る者たちの集まりだ。

探索ギルドに所属する者は探索者と呼ばれる。ギルドの中でも最も若者から人気を集める職であり、若者は一度は夢をみて門を叩く。

しかし、探索者で稼げる者は一握りであり、大半は夢半ばで消えていくものばかりだった。

さて、共和国内のとある安宿、一階に併設されている安酒を出す喧騒鳴り止まない酒場には、ごろつきに混じって駆け出しの探索者3人が卓を囲んでいた。それぞれ名前を鍵開けのエイ、突撃のシー、交渉のディという。

腸詰肉と山盛りのフライドポテトをあてに安酒をかっ食らい、本日の仕事の成果に愚痴を溢している。

「あーあ、今日も実入りが少ねえな。誰だよ、探索者になれば金持ちになれるっていった奴は……」

そうぼやきながら突撃のシーは2本目の腸詰肉を口に含む。

「お前だよ、お前。まだ今の俺らじゃあ、探索し尽くされた遺跡ぐらいしかいけないだろう?実入りが少ないのは当たり前だよ」

「そうだ、そうだ」

交渉のディの返答に鍵開けのエイも同意する。それが不満だったのか、突撃のシーは仏頂面で安酒を飲み、口の中の腸詰肉を胃に流し入れた。

「まあ、そう焦るなよ。最近は報酬だけじゃなくて補助金も貰えるから、食いっぱぐれることはないし、こうやってつまみに肉が食える」

「ああ、そういえば……。もうすぐ選挙があるんだっけ?」

「前の選挙からもう4年がたったんだな。今年は金融ギルドと運送ギルドのどっちが勝つかな?」

「この時期はどこのギルドも票稼ぎで金をばら撒くから駆け出しの俺らにとってはありがたいことだな」

「ほんと、ほんと。あーあ、毎年選挙やらねえかなぁー」

「お前らそれでも探索者かよ!お前らにはプライドがねえのかよ!」

選挙の話をするディとエイに対して、そんな事は探索者がする話ではないとシーは怒りを露わにする。

怒りを向けられたディとエイは、やれやれまたか、と呆れた表情を隠しもしない。

シーは魂の色が、赤よりなためか短気で喧嘩っ早い。

ディとエイの魂の色は橙より。そのため、シーの向上思考にディとエイはついていけないと思ってしまう時がある。

「そんなに怒るなよシー。このままじゃダメなのはわかってるさ」

「そうだなぁ。でも、商業共和国は探索ギルドの本部があるだけあって探索のレベルがどれも高いなあ。いっそのこと支部にでも移籍するか?」

「ふざけるなよ!この国で成り上がるって俺たちで決めたじゃないか!」

「わかってるよ。エイ、支部にいくのは俺も反対だよ。支部に行くには別の国に行かなきゃならない。ここからなら第二王国か、帝国、島国連邦ってところか?第二と島連は余所者に厳しい。帝国はそうでもないが、帝国の金持ちは大概支部を通さずに本部に仕事を依頼するからな。支部にはほとんど仕事がないぞ」

「あーあ、世知辛いねー。いっそのこと、傭兵ギルドに移籍するか?」

「それこそ無理だろ。あそこには天下の傭兵王がいるんだぜ?俺らの出番なんてないさ」

「くそッ!竜の墓場でも見つけられれば一気に成り上がれるのによう」

「ああ、しかも宝物種(ワーム)だったら最高なのになぁ」

竜の骸は高級素材の山である。しかし、生物の頂点である竜を捕らえたり、討伐しようとすれば命がいくつあっても足りない。

竜の墓場とはそんな最強種たるドラゴンが終の住処に選んだ場所である。当然、そこを突き止めれば巨万の富が手に入る。

さらに宝物種(ワーム)と呼ばれる竜は、財宝や希少な鉱物を好むため、ワームの墓場には素材だけでなく金銀財宝が眠っている。実際にワームの墓場を見つけた探索者が爵位を買って貴族となったという話は有名であった。

「ワームかぁ……そういえば、こんな話知ってるか?」

鍵開けのエイは急に周りの喧騒に掻き消されないギリギリのトーンに声を潜める。

「なんだよ急に……」

「いや、俺も最近知った話なんだけど。ほら、この間話題になってた第一王国からきた吟遊詩人がいただろう?そいつから聞いた話なんだ。お前らリビングデッド・ストーカーって知ってるか?」

「いや、探索者でリビングデッド・ストーカーを知らない奴なんていないだろう」

リビングデッド・ストーカーとは探索者の間で囁かれている都市伝説である。曰く、迷宮の奥で仲間を置き去りにするとその死んだ仲間が動く死体となって、かつての仲間の前に現れ、自身の取り分を求めてくるという。取り分を渡さない限り動く死体はかつての仲間に付き纏い、最後には命で支払わせるという内容だ。

「俺が聞いたのはそのリビングデッド・ストーカーの話だったんだけど。なんでも、昔こんな事があったらしい」

******

――墓穴を見つけた探索者――

とある国にアブシルとアブジルという2人の探索者がいた。

和を重んじる緑色の魂を持つアブシルと強欲な橙色の魂を持つアブジルは、昔からの腐れ縁であった。

ある日、2人はまだ誰も見つけていない竜の墓場を見つけた。しかも、宝物種(ワーム)だったようで、金銀財宝の上に高級素材の山が寝転がって死んでいた。その価値は領地を爵位付きで買って、まだ遊んで暮らせるほどの額だった。

竜の墓場にある物は最初に見つけた者が権利を主張できる。この時、最初に竜の墓場を見つけたのは罠避けとして最初に歩かされていたアブシルだった。しかし、アブシルは竜の墓場にあるものを均等に半分に分けると主張した。

この素晴らしい決定に不満を持つ者がいた。強欲なアブジルである。アブジルはどうにかして、全ての財宝を我が物にしたかった。

アブシルが今日の成果の証として、僅かな財宝の仕分けに夢中になっている最中。アブジルはアブシルを背中から刺して殺してしまった。アブシルの死体は竜の墓場のさらに奥の土に埋められた。

町に帰ったアブジルは人々から称賛され、町の英雄となった。アブジルは町民たちにアブシルがアブジルが先に見つけた財宝を僅かばかり盗み、姿をくらませたと嘘をついた。

町民たちはアブジルを信じ、アブシルを非難した。町民たちは残されたアブシルの家族を迫害し、町から追い出した。

アブジルは領主から僅かな領地と爵位を買い貴族となった。アブジルはその日から山ほどの美食をかっ喰らい、宝石よりも価値のある美酒を飲み干し、世界中の美女を味わう日々が始まった。

そんな生活が続き数年が経ち、財宝を半分使い切った頃だ。

その日、アブジルがいつものように宴会を開き終わり、寝室で寝ようとしていた時だった。

ドン!ドン!ドン!ドン!――。

寝室の扉を叩く音が聞こえてくる。

「こんな夜分に主人の部屋の扉を叩くのは何者だ!」

アブジルが扉の向こう側にいる者を叱りつけると、扉の外から声が聞こえてきた。

「アブジル…アブジル…私の取り分をおくれ……」

それは生命の鼓動をまったく感じられない声だった。それもそのはず、その声は紛れもなくアブシルの声だったのだ。

アブジルは自分のベッドから転げ落ちるほど驚いた。アブジルにはその声がアブシルのものだとはっきりわかったからだ。

もう何年も前に忘れていたはずのアブシルの声がなぜわかったのか、アブジルにはわからない。わかるのは殺したはずのアブシルが、いま、アブジルに財宝の取り分を求めてやってきた事だけだった。

アブジルは部屋の中に置かれていた剣を片手に扉を開け放つ。扉の前には、誰の姿もなかった。

それからアブジルは、いついかなる場所にいても、何処からともなく聞こえてくるアブシルの声に悩ませられるようになった。

アブシルはいつも生気のない声でアブジルに語りかける。

「アブジル…アブジル…私の取り分をおくれ……」

どんなにアブジルが美酒を飲み酔いしれている時でも聞こえてくる。

「アブジル…アブジル…私の取り分をおくれ……」

アブジルが絵にも描けない美女を抱いている時にも聞こえてくる。

「アブジル…アブジル…私の取り分をおくれ……」

アブジルは次第に心を病み、正気を失っていった。

それを心配したアブジルの家族は、アブジルのために世界中の名医をかき集めた。

しかし、どんな名医もアブジルを治せない。医者が処方したどんな薬もアブジルには効かない。

また、アブシルの声が聞こえてくる。

「アブジル…アブジル…私の取り分をおくれ」

アブジルは日に日に衰え、やつれていった。

アブジルの家族は最後の望みを託し、高名な僧侶を呼ぶ。高僧はアブジルを一目見て、こういった。

「ご主人はとても良くないものに取り憑かれている。今からいう儀式を速やかに成すのだ。でなれば、ご主人だけでなく一族も危険に晒すだろう」

アブジルの家族は取り急ぎ、高僧に教えてもらった儀式を準備し始めた。

アブジルは閉ざされた部屋の中心、魔法陣の中で剣にしがみつくように座っている。

高僧は言った。

「いついかなる理由があっても、日が昇るまで、この部屋から出てはいけない」

アブジルは眠れぬ夜を過ごしていた。

夜が更け、部屋の中は暗闇と静寂が支配している。

ドン……ドン……ドン……。

静寂を打ち破り、扉を叩く音が聞こえる。

「アブジル…アブジル…私の取り分をおくれ……」

アブジルは震えて返事をしなかった。

ドン……ドン……ドン……。

「アブジル…アブジル…私の取り分をおくれ……」

また扉を叩き、声が鳴る。しかし、アブジルは応えない。

ドン!ドン!ドン!ドン!

「アブジル!アブジル!私の取り分をおくれ!」

いつもよりも怒気を孕んだアブシルの声が部屋の外から聞こえてくる。アブジルは耳を塞いで無視をした。

ドン!ドン!ドン!ドン!

「アブジル‼︎アブジル‼︎私と財宝を分けると言ったじゃないか!!!!!」

アブシルが叫ぶように扉を叩く。

ドン!ドン!

ドンドンドン!

ドンドンドンドン!

ドンドンドンドンドン‼︎

扉だけではない。窓からも、壁からも、天井からも、床からも――。叩きつける音が聞こえてくる。

まるで地獄から聞こえてきているかのような音は、部屋全体を揺らしているかのような錯覚をアブジルに与えた。

「お前の取り分などない!!!!!」

アブジルは耐えられなくなり、アブシルの声に返事をしてしまう。扉を叩く音はぴたりと止んだ。

再び、静寂が部屋を支配する。

「ご主人様、ご主人様、朝でございます。儀式は無事、成功いたしました」

部屋の外から自身を呼ぶ、使用人の声が聞こえた。

アブジルはその声に安堵し、魔法陣から出て、扉を開け、部屋の外へと出る。

「アブジル……私の取り分を貰いにきた……」

そこには節々を腐らせ、異形と成り果てたアブシルが立っていた。

「ぎゃあああ!!!!!」

アブジルは叫び。手にしていた剣でアブシルの腐りかけの首をはねた。

「アブジル…アブジル…私の取り分を貰いにきた……」

目の前で斬り捨てたはずのアブシルはいつの間にか移動して、廊下の向こうからわらわらと集まってくる。

複数に増えたアブシルをアブジルは発狂しながら切り伏せていった。

いつの間にか、夜が明けていた――。

正気に戻ったアブジルは自身が血塗れだということに気づく。同時に、自分が切り伏せていたのがアブシルではなく、自分の家族や使用人たちである事にようやく気がついた。

アブジルは自身の行いを深く後悔した。

「アブシルよ。お前の取り分を返そう」

アブジルはそう言い残し、自らの喉を掻き切って息を引き取った。

生き残ったアブジルの子供はアブシルの追放された家族を探し出し、爵位と領地と残った財宝を渡し、永遠の服従を誓った。

アブシルの家族はようやくアブシルの取り分を受け取ったのだ。

******

「くだらない、俺はもう寝るぞ」

そう言うと突撃のシーは乱暴に自身の分の飲み代を机に叩きつけるとズカズカと人混みをかき分けて自室へと帰っていった。

「なんだよアイツビビったのか?」

「ああいうやつに限って意外とビビリだよな」

「まあ、“探索者で大成するわ勇敢なものにあらず、臆病者なり”って言葉があるんだ。いい事じゃねえか」

そう言うとエイとディは晩餐を再開した。

******

部屋に戻った突撃のシーは自身の剣を見る。紆余曲折あって手に入れた剣を眺めながら、シーは唇を噛み締める。

ドン!ドン!ドン!

部屋の扉を叩く音にシーびくりッと仰反る。

エイか、それともディが帰ってきたのか、とシーは入り口のとってに手をかける。

すると――。部屋の外から声が聞こえてきた。

「弟よ……弟よ……ボクの(取り分)を返しておくれ……」

「兄さん……」

その後、シーを見たものは誰もいない。

 

誤字脱字があればお教えください

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