【改訂版】モデル達の睨み合い
学園シリーズ物の第八弾です。
丘の上に佇む名門女子校『花菫女学院』。ここには清く、美しく、誠実な乙女たちが集い、洗練された淑女になるための日々を過ごしていた。
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この女学院にはモデル業をしている生徒が2人いる。1人は3年生の桔梗。高身長で手足も長く、顔も小さい。銀髪のウェーブかかった長髪は歩く度にフワッとなびき、道行く人々を振り返させる。白いブレザーに赤チェックのスカート、ハイソックスを履いている。切れ長の目で孤高の存在という雰囲気を纏っている。
そしてもう1人は2年生の月架。桔梗よりも背は低いが平均女性の身長よりはかなり高い。桃色の豊かな髪を高い位置でひとつに結び、モデルには珍しい部類に入るであろう胸が大きくグラビアアイドルかと思わせる容姿だ。赤いブレザーに赤いスカート、そしてタイツを履いて歩いていると嫌でも人の目を引きつける。本人曰く、みんなまず顔より胸を見るらしい。
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「ねぇねぇ! これみて! 3年の桔梗さんじゃない?」
「ほんとだ! うわ〜めっちゃ美人! この前廊下ですれ違ったけど凄いいい匂いした!」
「モデルってやっぱそういうとこから違うのかな? なんか近づけないよねー」
ファッション雑誌を見て盛り上がってる乙女達。そりゃうちの学校にモデルがいたらそうなるかもしれないけど、正直うるさい。
私のような容姿も人並以下、人前で話すのも苦手でクラスの端っこで静かに本を読んでるような人間には、モデルなんて存在眩しすぎる。それにそういう人達ってどうせ自分に自信があってキャピキャピしてるんだろう。あー怖い怖い。
名門女学院ならキャピキャピした人達も少ないだろうと入学したのに入ってみたらそうでもなくて肩を落とした。それから数ヶ月。話す友達は数人いるが私と同じように静かなタイプの子たち。クラスからは浮いてるのかもしれない。
盛り上がってどんどん声が大きくなってくクラスメイトから離れるように廊下に逃げてきた。廊下の窓に肘をついて外を眺めつつ下の方に目線を移すと、話の根源である3年の桔梗さんが歩いてた。まだ昼過ぎだというのに校門に向かって歩いてる。
モデルの仕事で早退なのかな? 勉強より仕事ってか。大変ですね〜。
なんて嫌味を含めた言葉を心の中で投げかけた。
キーンコーンカーンコーン
予鈴の音が響き渡りいまだ盛り上がりを見せてる教室に渋々戻ろうとすると、校門で桔梗さんと誰かが話しているのが目に入った。あれは2年の月架さんだ。
そちらは遅刻ですか。お仕事ごくろーさまでーす。
またも嫌味ったらしく心の中で声をかける。
2人は少し会話をして別れた。桔梗さんは門の外へ、月架さんは門の中へ。両方とも背が高いから目の錯覚を起こしそうになるが私が並んだら宇宙人みたいになるんだろうな。私はため息をついて教室へと戻った。
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放課後、図書室に寄ってから帰ろうと図書室の扉を開こうとしたが鍵がかかっている。そうか、今日はメンテナンスだかで開いてないんだった。私はまたもため息をついて真っ直ぐ帰ろうと踵を返した。
今日はいいことなかったな。クラスメイトはうるさいし、モデルの2人が平然と早退やら遅刻やらしてる事実を知ってしまうし、授業では毎回当てられるし、体育では転ぶし、図書室は閉まってるし。今日は厄日だ。モヤモヤとしたどす黒い物が体の中に溢れている。むしゃくしゃしてその辺のゴミ箱を蹴りたくなる。駅について改札を通り、さっさと帰ってふて寝しようと考えながら電車に乗る。
電車の心地よい揺れについ眠ってしまっていたようだ。おかげでどす黒いモヤモヤは消えていた。まどろみながら次の駅がどこか見てみると……
「えっ?!」
つい声が出てしまい慌てて手で口を覆った。降りる駅をとうに過ぎていた。ため息をついて椅子にだらしなく座った。
最悪だ。せっかく気分良くなってきたのに電車で乗り過ごすなんて。マジで厄日だ。次の駅で乗り換えるか。
ポケットからスマホを取り出そうと少し体を乗り出した時、左の端にピンク色が見えた。顔を少し向けてよく見るとそこには2年の月架さんが座っていた。長い脚を綺麗に折りたたんで背筋も伸ばしてまるで肖像画のモデルでもしてるようにピシッと座っている。あれで首を斜め45°にでも傾けたら完璧だ。
私は月架さんを眺めながらポケットのスマホを取り出し座り直した。こっそり見るためにスマホをいじってる振りをしながら横目でチラチラと見る。どう考えても変な人だ。周りをよく見ると他の人も同じようにチラチラ見てる。なんだみんな見てるのか。私は心の中で舌打ちした。
次の駅に着いて降りようと立ち上がったら月架さんも降りるのか立ち上がった。私は月架さんとは違う扉から降りた。
ホームに降り立ち電光掲示板を見ると反対方面の電車はあと15分後だった。ため息をついてどうしようか悩んでいたらふと月架さんが頭をよぎった。
あの人この辺に住んでるのかな?
ただの興味だ。大した意味はない。だが体は勝手に動いていた。
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改札を急いで出てピンク色を探した。頭1つ分出てるから人混みでもすぐに見つかる。私は人混みの中をかき分けるようにピンク色を追いかけた。
月架さんはどんどん駅から離れていく。脚の長さの問題なのかスピードが速い。私は気づかれないように気をつけながら追いかけるが軽く息が上がっている。もはや競歩だ。
諦めようかと思い始めた頃、月架さんが小さな公園に入っていった。そして周りを見渡しながらベンチに座った。すると鞄とは別に持っていたエコバッグのようなものから何かを出した。眼鏡と……帽子……あと薄手のジャンパー? それらを身につけたら、脚を組んでベンチに静かに座っている。本を読むでもなくスマホをいじるでもなく、ましてや景色を楽しむのでもなく、ただ一方向を見つめて座っている。
私は月架さんの背中が見える位置にまで移動し、近くのベンチに座った。スマホをいじる振りをして月架さんを観察する。
あれからどのくらいの時間が経っただろう。昼間はポカポカしているが日が傾いてくると風が肌寒く感じる。両手で両腕をさする。もう帰ろうかな。そんな考えが頭に浮かんできた時、月架さんが動き出した。というより銅像のように動かなかったのが少し身を乗り出したのだ。
私も身を乗り出して月架さんが何を見ているのか首を伸ばして見てみた。すると視線の先には見たことのある人がいた。桔梗さんだ。仕事が終わったのかビルから出てきて数人の大人達と話している。
月架さんは桔梗さんの仕事終わりを待ってた?
すると公園の入り口からスーツの女性が月架さんに近づいてくるのが見えた。私はとっさに鞄から参考書を取り出して読むフリをしながら顔を隠した。
「月架ちゃん。またこんなとこで監視してたの? しかもそんな恰好で。風邪引くわよ。」
「あ! マネージャーさん!」
女性が声をかけてようやく存在に気づいたようだ。
マネージャーということは仕事の人か。
参考書の隙間から覗き見ると2人は仲良さそうに話している。
「監視って……まぁそうなのかもしれませんが。」
「もう諦めなさい。過去のことは水に流して前を向きなさいよ。ね?」
「……はい……でも……。」
女性の言葉にもごもごしている月架さん。
過去のことは水に流す? 何かあったのだろうか?
その時ふと頭に浮かんだ。以前観た刑事ドラマで、人気上昇中のモデルがそれを妬んだモデル仲間に階段から突き落とされて顔にけがをしてしまい、モデルを引退せざるを得ない状況に追い込まれた、というものだ。証拠がないから誰に突き落とされたのかもわからず、事故で処理されてしまった。その何年も後に引退したモデルが事件を起こすのだ。
まさか……月架さんも桔梗さんに仕事を取られて恨んでるとか?! それでこんなところで監視してタイミングを見計らってる?! 確かに2人の歳の差は1年だ。でもモデルを先に始めたのは月架さんが先だと誰かが言ってた。
どんどん自分の考えに今の状況が当てはまっていく。月架さんの方を見るともうスーツの女性はいなくなってた。月架さんはベンチに座ってまだ桔梗さんを見てる。
どうしよう。ここで私が声をかけて止めるべき? 事件が起こる前になんとかしなくちゃだよね? だってもしそんなことが実現したら……。
明日の新聞のトップを飾る文字が頭に浮かんでくる。『名門女学院、生徒間トラブルで傷害事件』。
まずい! これは非常にまずい! うちの学校にそんな事件があったら私だけじゃなく皆困るはずだ。受験にも就職にも影響出ちゃうかも!
月架さんに話しかけようかどうしようか悩みながら、どんどん悪いことばかりが頭に浮かんでは消えていく。
すると今度は男性の声が耳に入ってきた。声の方を見ると体が大きくて、黄緑色のツーブロックの髪をお団子頭にした若い……チャラい男性が月架さんに声をかけている。
え? なにあの化け物……。
「よう。またこんなとこにいたのか。」
「げ! 麟蒼!」
月架さんから物凄い声が聞こえた。見た目からは想像もつかない低くてどすのきいた声だ。一瞬誰が声を発したのかわからないほどだ。
「なんでそんな邪険にするのよ~。桔梗ちゃんのことは仕方ないじゃない。」
「あんたにはわからないよ! 絶対許さないからね!」
あれ? このチャラ男何となく口調がおねぇっぽい……。いや今はそんなことどうでもいい。今月架さんが言ってた。『桔梗さんを許さない』と。やっぱり恨んでるんだ!
2人は何か言い合っているがよく聞こえない。でも悪い雰囲気だということはわかる。少し身を乗り出して向こう側の桔梗さんを見ると、まだ話しているようだ。
「それは置いといてさ。あの子あんたの学校の子でしょう? まさか友達まで巻き込んだの?」
「え?」
チャラ男が私を指さしながら月架さんに言う。それと同時に月架さんも私を見る。
「え?」
私は間抜けな声を発した。そして月架さんとバッチリ目が合った。
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私はベンチに座っている。その前には月架さんとチャラ男が立っている。
「えっと……。ブレザーがピンクだから1年生かな?」
月架さんが優しい声で聞いてくるのに対して私は俯きながら首を縦に振った。
「ここで何してるの? もしかして私をつけてきた?」
月架さんがまたも優しい声で聞いてくるのに対して私は俯きながら首を縦に振った。
「なんだ友達巻き込んだのかと思ってびっくりしたわよ。」
チャラ男が頭を搔きながら言う。やっぱりちょっとおねぇ口調なんだよな。あと香水なのか、なんかいい匂いがする。女物なのに見た目がチャラ男だからゲッソリする。
「私が友達巻き込んでまで桔梗姉さんの護衛なんてしないよ!」
「いやいや! あんたならやりかねないわ!」
月架さんとチャラ男がまたも言い合いをしている。
ん? 今なんて言った? 『護衛』?
私は顔をバッっとあげて声を発した。
「あの!」
想像以上に自分の声が大きくてびっくりした。2人も驚いたのか目を丸くしてこっちを見ている。
「あ、あの……月架さんは桔梗さんを……恨んでるん……じゃ……。」
2人は目をぱちくりさせている。そしてチャラ男が笑い出した。
「あははははははははは! この子が桔梗ちゃんを恨む? ないないない!」
手を顔の前でブンブン振って否定するチャラ男。それを睨む月架さん。そしてゴホンと咳払いしてからチャラ男を黙らせた。
「私は恨んでなんかいないよ? どうしてそう思ったの?」
月架さんが困ったように笑いながら聞いてきた。
「えっと……さっき『桔梗さんを許さない』みたいなこと言ってたので……。」
尻すぼみになりながら言うと、月架さんは少し考える素振りを見せて、あ! っと声をあげた。
「あれは桔梗姉さんじゃなくて『こいつ』のこと!」
チャラ男を指さしながら教えてくれた。チャラ男はその手を払いながら
「ちょっと! 『こいつ』だなんて失礼でしょう!」
とか言ってる。
私は何が何だかわからずポカンとしてしまった。
すると月架さんとチャラ男が困ったように頬笑みながら顔を見合わせ、ゆっくり私の両隣に座ってきた。
「隣座るね。」
「ちょっと失礼するわね~」
「あ、はい。すみません。どうぞ。」
私は鞄を膝に乗せてスペースを作った。
すると月架さんがゆっくり話しだした。
「私と桔梗姉さんの家は近所でね。昔からよく遊んでもらってたんだ。とっても優しいあこがれの人。モデルを始めたのは私が先なんだけど、まさかあの桔梗姉さんまでモデルになるなんて思わなかった。桔梗姉さんってシャイなの。口下手でおどおどしてる感じ。だからモデルやるって言ってくれた時に聞いたの。そしたらもう信じられないんだよ!」
さっきまで優しい柔らかい雰囲気で話してたのに突然豹変した。鬼……いや、メデューサだ。
「街中でこいつとうちの事務所の人に声かけられたんだって! モデルやらないか~って。桔梗姉さんは断ろうとしてたんだけど勢いに負けてつい承諾しちゃったの! そりゃこんなチャラくてデカいおかま野郎がいたら声も出なくなるよね!」
そういうと月架さんはチャラ男を睨んだ。
マジでメデューサだ。怖くて石になりそう。
「ちょっと! おかま野郎ってひどくない? 『おねぇ』って言ってよ!」
チャラ男……自称おねぇが反論する。
チャラ男でもおねぇでもどっちでもいいわ!
「それでね! しかもこれで終わらないの!」
月架さんがチャr……おねぇを無視して話を進める。
「こいつ桔梗姉さんが男の人苦手だってことを一発で見抜いたらしくて、おかま野郎の振りして話しかけたり、仕事やりやすいようにサポートしたりしてたの。それだけならまだしも、だんだん桔梗姉さんの心まで奪いだしたんだよ? もう信じらんない!」
月架さんは物凄い形相でおねぇを睨んでいる。よく石にならないな。
ん? でも話聞いてると、この人凄くいい人なのでは? 桔梗さんの為におねぇにまでなってくれたの?
「だから『おねぇ』だって言ってんじゃないのよ! まぁ結局フリだけのつもりだったのが本物になったんだけどね。素質あったのねきっと~」
おねぇは突っ込みを入れた後、遠くを見ながら自分には素質があったとか言ってる。
「でも桔梗ちゃんへの想いは本物よ! あの子を幸せにするって決めたんだもの!」
私と月架さんに向かって胸を張って意思表明をするおねぇ。
この人よく見たら体ムッキムキだな。胸板とかパツンパツンじゃん。だから狭いのかこのベンチ。ガチムチおねぇってこの世に存在するんだな。
「だ! か! ら! それがムカつくの! 桔梗姉さんの彼氏面すんな! というか犯罪だし! 桔梗姉さん未成年!」
月架さんがメデューサになっておねぇに怒っている。
「あの子が大人になるまで待つのよ。あたりまえでしょ!」
ギャンギャン両隣で騒いでいる。正直うるさい。私は両手で耳をふさいだ。
月架さんって大人なイメージあったけど、メデューサになるとその辺で騒いでる子達と変わらないんだなぁ。桔梗さんの好きにさせてあげればいいのに。
あれ? じゃあなんで月架さんはこんなところにいるの?
「あのー! 月架さんはなんで何時間もここにいたんですかー?」
2人に負けじと声を張り上げてみる。するとぴたりと言い合いは止まりこっちを見た。
「なんでって……桔梗姉さんの護衛をするためだよ? 仕事終わったら偶然を装って一緒に帰るつもり。」
けろっとした顔で月架さんが言う。
「「それストーカー。」」
おねぇと被ってしまった。
3人の間に謎の無言が広がる。
「あれ? 月架ちゃん? 麟蒼さん? ……と……うちの学校の1年生?」
透き通るような声が聞こえて3人同時にそちらを向くと、そこには桔梗さんがいた。
「桔梗姉さん! お仕事終わったんですか?」
月架さんが飛び出すように桔梗さんの元へ走り寄る。
「あーあ。全くやってられないわよ。」
ぼそりと独り言言いながらゆっくり立ち上がるおねぇ。
ぽけーっと座ってる私は3人が何か話してるのを眺めているだけ。
ただ無性に疲れた。疲れすぎて立つのもめんどくさい。
月架さんが桔梗さんに私のことを話している。それを隣からおねぇが口をはさんで喧嘩。それをおどおどしながら止めようとしてる桔梗さんは、月架さんの言う通りの人柄のようだ。
人は見た目では判断できないんだな。さっきまでモデルなんてどうせ~とか思ってたけど全然違った。
私は気合を入れてよっと立ち上がり3人に体ごと向く。
「あの! 私はこの辺で帰ります! 失礼しました!」
それだけ言って私は駅に向かって走り出した。後ろの方で声が聞こえるが無視だ。
息が上がり苦しいのに何故か気分は晴れやかだ。そしてポツリと言う。
「今日は厄日だ」
最後までお読みくださりありがとうございます。
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