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無表情な剽軽物

学園シリーズ物の第八弾です。

(タイトルの『剽軽物』は『ひょうきんもの』です)


「第一弾 生徒会は選ばれしトップ集団…?」

「第五弾 文化祭の悲劇」

に出てくるキャラがメインです。

第一弾、第五弾を読んでからだとより理解しやすいかと思います。もちろん読まなくても楽しめます。

丘の上に佇む名門女子校『花菫(はなすみれ)女学院』。ここには清く、美しく、誠実な乙女たちが集い、洗練された淑女になるための日々を過ごしていた。




------------


花菫女学院の近くにはコンビニがある。食堂が併設されているため昼時に買いに来る生徒はほとんどいない。朝や放課後にちらほらといるだけだ。育ちの良いお嬢様が多いからかコンビニのような庶民の店には興味もないのだろう。

だがほぼ毎日、朝と放課後にやってくる生徒がいる。ブロンドショートヘアで色白な綺麗な顔をした子だ。ゆるふわ系というよりクール系なイメージ。名前は知らない。いつもひとりで来るし、ただのコンビニ店員がお嬢様学校の生徒に話しかけるなど通報されかねない。




------------


ピンポンピンポーン


「いらっしゃいませー」

来た!例の子だ。

彼女はカゴを手に取り、まずおにぎりコーナーを見る。そしてそのままお弁当、麺系、パンコーナー、最後にデザートコーナーを見る。一通り見てから最初のおにぎりコーナーから順に回って商品をカゴに入れていく。


「お願いしまーす」

ドンッとカゴをレジカウンターに乗せる。そして僕は商品を1つずつ手に取りバーコードを読み取っていく。

ピッ!ピッ!ピッ!

少し脇にズラして再び

ピッ!ピッ!ピッ!

また脇の方にズラして

ピッ!ピッ!ピッ!

それを何度か繰り返しバーコード読み取りが終わる。

「以上18点のお買い上げで5682円になります。」

そして大量の商品を袋に詰めていく。その間彼女は財布からお金を出す。

「ちょうど5682円ですね。レシートをどうぞ。」

袋詰めが終わる頃にはお釣りのないちょうどピッタリの額がトレーに乗っている。

「ありがと」

素っ気なくお礼を言い彼女は買い物袋を手に店を出ていく。

「ありがとうございましたー」

これで朝のルーティンは終わり。そう朝なのだ。まだ学校が始まる前に大量の商品を買っていくのだ。おにぎりやパンはもちろん、お弁当や麺系を複数買っていく。普通に考えたら1人で食べるには多すぎる。5人前くらいを毎朝買っていくのだ。誰かの分も買っているのだろうか?




------------


ピンポンピンポーン


「いらっしゃいませー」

今朝あれだけ買っていったのに放課後もやはり来た。

いつも通りカゴを手に取りいつもの順番で商品を見て、選んでいく。


「お願いしまーす」

ドンッとカゴをレジカウンターに乗せる。そして僕は商品のバーコードを読み取っていく。

ピッ!ピッ!ピッ!

少し脇にズラして再び

ピッ!ピッ!ピッ!

また脇の方にズラして

ピッ!ピッ!ピッ!

それを何度か繰り返しバーコード読み取りが終わる。

「以上11点のお買い上げで4358円になります。」

大量の商品を袋に詰めてる間に彼女は財布からお金を出す。

「ちょうど4358円ですね。レシートをどうぞ。」

ちょうどぴったりのお金を数えてレシートを渡す。

「ありがと」

「ありがとうございましたー」

彼女が店を出ていく。

今日はパンが多めだったな。今月はパンの新作多いからかな。




------------


そして次の日。朝から彼女が来るのを待っている。いや、この言い方だと語弊があるな。彼女ではなくお客さんを待っている。


ピンポンピンポーン


「いらっしゃいませー」

少しの期待を胸に入口を見ながら挨拶をする。だがそこには彼女ではなくサラリーマンがいた。

別に期待なんかしてなかったし!

肩を落としながら客がレジに来るのを待つ。


「ありがとうございましたー」

サラリーマンが店を出ていく。そろそろ学校が始まる時間だ。客足も途絶えてきた。

この日の朝、彼女は来なかった。




------------


放課後。


ピンポンピンポーン


「いらっしゃいませー」

来た!あの子だ!

今日新作のおにぎりあるよ!お昼に僕も食べたけど結構うまかった。おすすめです!

心の中で彼女におすすめ商品を教える。

「でね~。そのイケメンがなんとびっくり。桂華(けいか)ちゃんのバイト先の先輩なんだって!もうこれ運命でしょ!」

彼女の後ろから赤いブレザーのハーフアップお団子の子が入ってきた。しかも彼女に話しかけてる。初めて彼女が誰かと来た!友達いたんだな良かった…グスン。

「だからそのバイト先の中華屋に行きたいの!中華だよ?どう白馨(はっけ)ちゃん?」

「うーん…。」

お団子の子は一生懸命彼女を誘っているようだ。

というか今名前言った?『はっけちゃん』?彼女の本名かはわからないが彼女は『はっけちゃん』というのか!

はっけちゃんは聞いてるのか聞いてないのか分からない返事をしつつ商品をカゴに入れている。

「もう!聞いてる~?そのイケメン本当にイケメンなの!この世に存在してはいけないイケメンなの!もうイケメンって言葉しか出てこないくらいイケメンなの!だからそのイケメンに会いに行くのに白馨(はっけ)ちゃんの力が必要なんだよ~。あ、これ美味しそう。」

相当イケメンなのは伝わるが目移り激しいな、あのお団子の子。喋りながらスイーツに目がいっちゃったようだ。

はっけちゃんは白ブレザーだから3年生。あの子は赤ブレザーだから2年生か。タメ口聞いてるところをみると仲がいいんだな。ただの先輩後輩ってわけではなさそうだ。

すると僕が心の中でオススメした新作のおにぎりを手に取り、はっけちゃんはお団子の子に言った。

「てか桃子(とこ)ちゃん。一人で行けばいいじゃん。」

『とこちゃん』と呼ばれたお団子の子はそれを聞くや熱弁しだす。

「何言ってんの!花の女子高生が町の中華屋にほいほい入れるわけないでしょ!そんな度胸私にはない!」

身振り手振りを付けて言ってるが、ただ度胸がないだけではないか。胸を張っていう事じゃない…。

「まあそうか。桃子ちゃんには無理か。」

「うん!」

はっけちゃんの言葉に元気よく返事をするとこちゃん。

「中華か…。最近食べてないかもな~」

と、はっけちゃんはパンをカゴに入れながら言う。

僕はそんなはっけちゃんの言葉に心の中で突っ込みを入れる。

いやいや!昨日の放課後、麻婆豆腐(マーボードウフ)丼買ってたじゃん!食べなかったの⁈

そんな僕の心境は届くこともなく2人の会話は進んでいく。

「でしょ!さあ行こう!いざ中華への旅へ!」

とこちゃんがはっけちゃんの肩に右手を置き、左手で斜め上を指さしながら言う。はっけちゃんもその指の先を見つめる。背景に海の絵でも置いてあげたくなるポーズだ。

「よし!んじゃ行こう!何食べようかな~」

はっけちゃんはとこちゃんの熱弁に心を動かされたのか、イケメン中華屋に行くことを決断した。そして中華のメニューを次々と口ずさみながらカゴに商品を入れていく。

白馨(はっけ)ちゃん。これから中華行くのに買うの?そんなに?」

とこちゃんの突っ込みは完全にスルーされた。


「ありがとうございましたー」

2人は会計を済ませて出ていった。中華への旅に出たのだ。




------------


翌朝。

品出しをしていると青椒肉絲(チンジャオロース)丼が目に入った。

あの2人は無事中華への旅を終えられたのだろうか。とこちゃんはイケメンに会えただろうか。はっけちゃんは中華を堪能できただろうか。

腹の虫が鳴り、ランチは中華にしようと決めた。


ピンポンピンポーン


「いらっしゃいませー」

入口を見ると、無残な姿のとこちゃんが目に入った。顔は暗く目は虚ろ。全身から『落ち込んでます!』というのが分かる。後ろからはっけちゃんがいつも通りの姿で入ってくる。

「桃子ちゃん元気出しなって。また行けばいいじゃん。あの中華屋美味しかったし。」

「…うん…。」

「バイト休みならしゃーないじゃん。」

「…うん…。」

「彼女と旅行中ならしゃーないじゃん。」

「…うん…。」

「桂華ちゃんもまた来いって言ってたじゃん。」

「……来い…こい…恋……。」

「ん?なんか言った?」

「恋だよ!白馨(はっけ)ちゃん!恋に破れたんだよ!ちきしょーーー!」

2人の会話から何となく想像はついた。

ドンマイ!とこちゃん!

僕は心の中で親指を立てとこちゃんに向けた。

「わかってたんだよ!あんなイケメンだもん!彼女の一人や二人いるんだろうなって!でも夢見ちゃうでしょ!だって恋する乙女だもん!恋は平等なんだよ!恋するのはタダなんだよ!」

「タダね~。あ。昨日の中華、桂華ちゃんに頼んでタダにしてもらえばよかったなぁ。」

とこちゃんの心の叫びに対して、はっけちゃんは斜め上の返答をする。それでも2人は話を続けている。かみ合ってないのに。

「だからね!恋ってのは突然やってくるんだよ。落とした物を拾って貰うとかね。そういう何気ない瞬間から始まるの!それが恋なの!」

「突然の恋ね…あ、突然だけど(こい)って食べられるんだってね。学校の池に鯉いるけどあれ釣ったら料理してくれるかな。家庭科の先生。でもあれは食用じゃないのかな?」

「え?池に恋?白馨(はっけ)ちゃん池に恋してんの?あ!家庭科の先生を釣り上げる恋ってことか!ん?家庭科の先生女じゃないっけ?」

「え?家庭科の先生鯉釣ったの?マジか〜」

恋の話を永遠とするとこちゃん。はっけちゃんは『恋』から連想して『鯉』の話をしている。

そんな会話をしながらレジへやってきた。


「お願いしまーす」

ドンッとカゴをレジカウンターに乗せる。そして僕は商品のバーコードを読み取っていく。隣でうなだれるとこちゃんを気にしながら。

ピッ!ピッ!ピッ!

少し脇にズラして再び

ピッ!ピッ!ピッ!

また脇の方にズラして

ピッ!ピッ!ピッ!

それを何度か繰り返しバーコード読み取りが終わる。

「以上15点のお買い上げで5346円になります。」

そして大量の商品を袋に詰めていく。その間にはっけちゃんはお金を出す。とこちゃんはぶつぶつ言ってる。はっけちゃんは財布を覗きながら適当に相槌を打つ。

「ちょうど5346円ですね。レシートをどうぞ。」

袋詰めの商品とレシートを渡す。

「ありがと」

「ありがとう…ございます…」

はっけちゃんはいつも通りの返事。買ってないとこちゃんもお礼を言ってくれる。

僕はそんなとこちゃんについ声をかけてしまった。

「あの…とこさん?」

歩きかけてた2人は僕を見る。

「これよかったらどうぞ。」

僕はレジ横の小さなチョコをとこちゃんに渡した。

「え…いいんですか?お金…。」

急いで財布を出そうとするとこちゃんを制止して

「僕の気持ちです。元気出してください。」

と、言った。

とこちゃんはチョコと僕を交互に見てからチョコを受け取った。

「あ、ありがとうございます!お兄さん!」

とキラキラした笑顔で言ってくれた。

すると隣からはっけちゃんの声がした。

「え!いーなー桃子ちゃん!逆バレンタインじゃん!」

「いやいや、バレンタインはまだ先だよ白馨(はっけ)ちゃん。」

元気を取り戻したとこちゃんの突っ込みに僕まで笑顔になる。そしてもう一つチョコを手に取り、今度ははっけちゃんに渡す。

「いつもうちの店を贔屓にしてもらってますので。はっけさんもどうぞ。」

はっけさんは嬉しそうにチョコを受け取ってくれた。

「え、いいの!ありがと!」

はじめてはっけちゃんの笑顔を見た。いつもクールでピクリとも弧を描かなかった口元が今は年相応のキラキラした笑顔だ。

「お兄さんありがとうございます!白馨(はっけ)ちゃん行こう!」

「うん。ありがと。」

2人は嬉しそうに店を出ていった。


なんて清々しい気分だろう。ただのコンビニ店員なんてつまらない人生だと思っていた。でも今日のあの2人の笑顔をみたら自分まで明るい気持ちになった。サービス精神ってこういうことだったんだな~。

そんな浮かれた気分でふとレジを見ると、そこには財布がポツンと取り残されていた。

「あ!」

僕はすぐにその財布を手に取り店を飛び出した。まだ姿の見える2人を呼び止めながら走る。

「おーーーい!はっけさーーーん!財布!」

2人はこっちを振り返り足を止めた。息を切らせながらはっけちゃんに財布を見せる。

「あ!財布!」

自分の鞄をガサガサした後それが自分の財布だと気づき声をあげるはっけちゃん。

「もう~。白馨(はっけ)ちゃんったら~。」

とこちゃんが隣で笑っている。すると学校の鐘がなった。

「あ!やばい!遅刻する!」

そう言うや、とこちゃんは走り出した。

白馨(はっけ)ちゃーーん!はやくーー!」

「ほーーい」

はっけちゃんはとこちゃんに返事をして走り出そうとする。

「はっけさん!財布財布!」

僕はまたも財布を忘れそうになってるはっけちゃんに財布を渡す。はっけちゃんは財布を受け取ると鞄と財布を抱えて走り出した。そしてすぐ止まって振り返り、おでこにピースをして言った。


「これは失敬(しっけい)!私は白馨(はっけい)!」




------------


後日、はっけちゃん…いや…白馨(はくけい)ちゃんは今まで通り朝と放課後にコンビニに来てくれている。そしていつも通りの店員と客のやり取りだが前とは少し違う。


「お願いしまーす」

ドンッとカゴをレジカウンターに乗せる。そして僕は商品のバーコードを読み取っていく。

ピッ!ピッ!ピッ!

「桃子ちゃんがね、また中華屋に行きたいんだって。」

白馨ちゃんが僕に話しかけてくる。

僕は商品を少し脇にズラして再び

ピッ!ピッ!ピッ!

そして白馨ちゃんに答える。

「へぇ。まだ諦めてないんだ。イケメン彼女いるんでしょ?」

また商品を脇の方にズラして

ピッ!ピッ!ピッ!

「それがさ。恋には敗れたけどイケメンを見るのは別なんだって。見るだけでも幸せなんだって。私ならそんなイケメンより食べてた方が幸せだけどなー。」

と、白馨ちゃんは話を続ける。

「そりゃ白馨ちゃんはそうかもね。あ、これ美味しかったよ。前の炊き込みご飯おにぎりと同レベくらい。」

僕は返事をしながら商品の話もする。

「えっ?!マジで?!じゃあこれは朝イチに食べなきゃだな。」

白馨ちゃんの話を聞きながらバーコード読み取りを終える。

「以上17点のお買い上げで6120円になります。」

大量の商品を袋に詰めてる間に白馨ちゃんはお金を出す。もちろん手も口も動いたままだ。

「桃子ちゃんなんであんなにイケメン好きなんかな。」

「白馨ちゃんが食べ物好きなのと同じようなもんじゃない?」

「あーなるほどね。桃子ちゃんにとってのイケメンは私のおにぎりみたいなもんか。おにぎりイケメン。」

『おにぎりイケメン』?なんかそういうキャラクター子供向け番組に出てきそう。

そんなことを考えてたらちょうどピッタリの額がトレーに乗ってた。

「ちょうど6120円ですね。レシートをどうぞ。」

ちょうどぴったりのお金を数えてレシートを渡す。

「ありがと。次の新作出たら教えてねー」

「はいよ。」

白馨ちゃんは去り際に手を振りサラッと店を出ていく。


「ありがとうございましたー」


最後までお読みくださりありがとうございます。


今回は2人をメインにギャグ要素満載で書かせていただきました。

私の中でこの2人の絡みは楽しいです。話嚙み合ってないのに楽しそうなのが好きです。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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