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【改訂版】可愛い顔した殺人鬼

学園シリーズ物の第三弾です。



丘の上に佇む名門女子校『花菫はなすみれ女学院』。ここには清く、美しく、誠実な乙女たちが集い、洗練された淑女になるための日々を過ごしていた。




------------


ここは体育倉庫。先程まで授業で使っていたテニスラケットやらボールやらを片付けに来たのだ。日直だから片付けまでやらなきゃいけないなんて……なんで今日が日直なのか。当番制とはいえ恨めしく思ってしまう。

重い物をやっと運び終わって、さて戻るかと出口に向かおうとした時、視界に入ったものがある。木の棒だ。端の壁に立てかけてあるが床に面してる方にだけ布が巻かれている。手に取ってみるとかなり重い。

「なんだこれ?」

巻かれている布を捲ってみると、なんと刃物のような銀色が見えた。床に倒して布をゆっくりと外していく。刃物っぽかったから慎重にゆっくり外していく。

「なーにしてんだー?」

突然の声に体がビクッとした。もう少しで布が外れて全貌が露になる、というところだったから余計に驚いてしまった。振り返るとそこには、体育委員長の羅奈らな先輩が立っていた。栗色のおさげで小柄だがハツラツとしているから学年が違ってもよく知っている。

「ら、羅奈先輩……。どうしてここに?」

悪いことでもしてるみたいにドキドキして冷や汗をかきながら言葉を返す。

「体育委員長だからね。倉庫が開いてたから気になって見に来たんだよ。それより何してんの?」

飄々と喋りながらこちらに近づいてくる。私は目の前の謎の物体を隠そうかどうしようかと慌ててしまう。そんなことをしてる間に羅奈先輩は後ろから覗き込んできた。

「あーこれか。立てかけてあった気がしたけど倒れてた? これ重いでしょ。私が戻すよ」

「あ、いえ、あの違うんです!」

「え?」

手を伸ばしかけたままキョトンとした顔で私を見つめてくる。

「これなんだろうと思って……布を……外そうと……してた……んです……」

悪い事をした子供みたいに言い訳がましく答えると

「あーなるほどね。危ないから布巻いてたんだけど逆に気になるよね!」

そう笑顔で言いながら布を全て取り払ってしまった。なんと斧だったのだ。

「これは斧。だから重いの。しかも刃物だから布巻いて隠してたんだ」

重いといいつつ軽々と持ち上げてるのだが……。これ横に倒すのだって重かったのに。先輩かなりの力持ち?

「なんで体育倉庫に斧なんてあるんですか? 何かに使うんですか?」

私は疑問を口に出さずにいられなかった。すると先輩はさも当たり前のように

「ここにあるとすぐに持ち出せるでしょ? 体育委員長の特権ってやつ? 使う時は急にやってくるからね! でもまぁ……もう使うことはないかもだけど」

と、いたずらっ子のような顔で答える。

「え? 急に斧使うって……想像できないんですけど」

「あの時は本当に急いでてさ。頭に血昇ってたってのもあるのかな。今考えるとヤバいやつだよね私。あははははは!」

なんのことやら分からない私の顔を見て先輩は

「秘密だよ?」

と、ニヤニヤした顔で教えてくれた。




------------


話は2年前に遡る。羅奈先輩が1年生の頃の話だ。

現在、図書委員長を務めている物腰の柔らかなお嬢様のような先輩、菊明きみん先輩と羅奈先輩は幼なじみらしい。そして一緒にこの女学院に入学してしばらくしたある朝、菊明先輩の左頬が赤く腫れていたのだ。

「みんみん?!どしたのその顔?!」

羅奈は幼なじみの痛ましい頬を見てそう聞かざるを得なかった。

「いや〜、その〜、転んじゃって……」

「どうやって転んだら左頬だけ赤くなるんだい!」

「なんかこう……変な転び方したんだよね。あはは。大丈夫大丈夫!」

何でもないと言うが羅奈は心配が隠せない。でも菊明はこれ以上聞くなという雰囲気だ。幼なじみだから分かる。何か隠しているのは明白だ。だが聞いたところで絶対に教えてくれない。変なところで頑固なのだ。

「んじゃ……そういうことにしとくけどさ……気をつけなね」

菊明は笑顔で頷き

「ありがとう」

と言う。


それから羅奈の菊明観察が始まった。

クラスは違うが昼休みは一緒に食べようと誘う。放課後も一緒に帰ろうと誘う。図書室行くからと言われても待ってると言って極力1人にさせない。

そんな日々が続いたが菊明の周りには何も起こらない。やはり転んだだけだったのだろうか。ただの杞憂だったのか。羅奈はしぶしぶ観察を終わらせた。


そしてとある放課後。

「みんみん。今日日直の仕事があるから教室で待ってて! マッハで終わらせてくるから一緒に帰ろう!」

「うん、わかった。お仕事頑張ってね」

いつも通りの優しい笑顔で手を振り送り出してくれる。

羅奈は有言実行とでも言うのか、物凄い勢いでさっさと仕事を終わらせた。そして菊明の待つ教室へと向かった。だがそこに彼女の姿はなかった。残っていた生徒に聞いてみると、3年の先輩に呼ばれてどっか行ったと言うのだ。羅奈は嫌な予感がした。


急いで校内中を探し回った。図書室、保健室、職員室、生徒会室、体育館。ありとあらゆる場所を探したが見つからない。そして中庭を通りかかったところで人影を見つけた。赤いブレザー数人に囲まれた白いブレザーの1人の生徒。学年ごとにブレザーの色が違っているのですぐに何年生かが分かる。白は1年、ピンクが2年、赤は3年だ。つまり3年生に囲まれているのは1年生……菊明だ。


すぐに駆け寄りたい気持ちを抑えて様子を伺おうとこっそり植木の影に隠れながら近づいていく。話し声が聞こえそうで聞こえない。ただ、雰囲気から3年生が菊明を困らせているのは分かる。

もう少し近づこうとしたその時、3年生の1人が菊明を突き飛ばしたのだ。そして、その場に尻もちをついた菊明の目にキラリと光るものが見えた。羅奈の中で何かがプツリと切れる音がした。そこからは考えもなしに体が勝手に動いていた。用務員さんが中庭の整備で使ったのか、片付け忘れたのかは分からないが、植木の傍にあった斧を引っ掴み菊明達の元へ駆け出した。そして腹の底から声を荒らげた。

「おい! 何やってんだ!」

3年生達は振り返ると目を開き固まっていた。そこには斧を携えた小柄な1年が立っていたのだ。

「ら、羅奈ちゃん?!」

菊明が驚いて名を呼ぶが羅奈の耳には届いていない。

「な、何よあんた。そんな物騒なもの持って」

「私らは……こ、この子と話してただけよ!」

斧に怯んだのか、羅奈の声に圧倒されたのか、3年生達は冷や汗と共に答えた。

「嘘つけ! みんみん泣かせたやつは許さねぇ! 怪我したくなきゃ二度とみんみんに近づくな!」

あまりの迫力に3年生達は声も出せず、一歩も動けない。まるで西部劇の決闘のような睨み合いが続き、ピリピリとした空気が周りに立ちこめた。

そして先に動いたのは羅奈。羅奈がその迫力のまま斧を握り直して一歩踏み出すと

「こいつやばいよ! 行こ!」

と、3年生の1人が焦って他の人に声をかけた。それを合図に3年生達は走って逃げてしまった。残された菊明は呆然としたまま座り込んで3年生達の背中を見つめる。そしてまた沈黙が流れた。

その沈黙を破るように羅奈は持っていた斧を下ろして

「ほぇ〜、重かったわこれ。なんで斧なんかあったんだろ? 普通こんなの危なくて放置しちゃダメっしょ。ね? みんみ……ん?」

と、先程までの迫力はどこに行ったのか、あっけらかんと言った。菊明は羅奈を見つめてポカンとしている。

「おーい。みんみーん。生きてっかー?」

顔の前で手を振ってみるが菊明はボーッとしている。そしてハッと我に返ったと思ったら羅奈の両肩を掴んで叫んだ。

「羅奈ちゃん! 斧なんて危ないよ! 頭でも叩き割るつもりだったの?!」

「あー……考えてなかったわ。なんかそこにあったからとりあえず引っ掴んで持ってきた。てか頭叩き割るって……発想が怖いよみんみん」

「もう……」

菊明は羅奈を掴んだまま項垂れた。そしてポツリと言った。

「……ありがと……」

「どういたしまして」

羅奈は笑顔でそう答えた。


帰り道。オレンジ色の光を受けながら菊明の隣を歩いていた。そしてふと疑問を口にした。

「そういえばさ。みんみんならあんな奴らあっという間に倒せたんじゃないの? 護身術でバッタバッタとなぎ倒せるじゃん」

「護身術って自分の身を守るためだし、相手怪我させるの嫌だったし、耐えればそのうち飽きるかな〜って……」

菊明はバツが悪そうに言う。ふーん、と適当な相槌をして羅奈は菊明の背中をバシッと叩いた。

「いった! え?! なんで叩かれたの私!」

「なんとなくだよー! あははははは!」

オレンジ色の世界に黒い影が2つスーッと伸びる。楽しそうな笑い声と共に。




------------


「そんなことがあったんですか……。2人は仲がいいなとは思ってましたが幼なじみだったとは」

「ははは! 昔っからみんみんは我慢強い子だったなぁ。それに比べて私はすぐ行動しちゃう。今考えても斧持ってくってヤバいやつだよね!」

そりゃそうだ。他の人が見てたら殺人事件でも起こるのかとヒヤヒヤする。あれ? でも結局この斧はなんでここにあるの?

「あの、先輩? この斧は結局なんで倉庫にあるんですか? 返さなかったんですか?」

斧を布で包みながら羅奈先輩はニヤリと笑った。

「実はその現場を用務員さんが見てたんだよ。そんで斧どうしようか〜ってみんみんと話してたら、その斧刃が脆くて使えないし切れないからあげるよ! って言われたの。だからいざって時に持ち出して振り回せるように体育倉庫で保管してるの。ほら、熊が出たとか! 猪飛び込んできたとか!」

人差し指をピンッと立てて、いいこと思いついた! みたいな顔で言ってくる。

「もちろんあれから使うことはなかったし、卒業する時に私が責任持って持ち帰る予定〜」

用務員さん恐るべし。普通生徒に斧あげるか? やっぱこの学校ちょっと変なところあるんだよな。なんというか生徒も変わった人多いし、先生もなんも言わないし、自由主義ってやつなのかな? そもそも熊とか猪出たら生徒じゃなくて先生達が何とかするんじゃ?

なんて思ってたら、あっという間に斧を元の位置……より、もっと隅っこに隠した羅奈先輩がいた。

そして勢いよく振り向き、手を腰に当てて、いわゆる仁王立ちで言った。

「君! この話は他言無用! 聞いたことは今ここで忘れなさい! じゃないと……この斧が再び校内で振り回されることになるよ!」

まるで軍隊の長官のようだ。制服なのに軍服が見える気がする。私はその迫力に慌てて立ち上がり背筋を伸ばして、指の先まで神経を研ぎ澄ませてビシッと敬礼した。


「yes ma'am!」


最後までお読みくださりありがとうございます。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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