表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

13:オーロラの加護

 ハリーはルパートの庭園から去るときに、一度だけ振り向いた。その視線の先には、自分の庭を見つめるルパートがいる。


 肥料の開発、その使い方の開発、各種植物の品種改良、録画装置の開発、香水、エキスの開発など、他の追従を許さないほどの実績の持ち主。

 品種改良が多いのは、その肥料のおかげだった。今までこの国で使われていなかったからか大きく育つだけではなく突然変異が驚くほどの頻度で現れる。大きくするだけなら肥料をたっぷり与えればいいが、同時に突然変異もおきてしまう。固定の品種として固定したくても次々と変異が起こってしまう。ならばと肥料を止めれば変異も止まるが、何故かその植物から取った種などは、育たないか収穫ができない。

 この固定する方法を確定させたのもルパートだった。肥料の量が鍵だったのだ。それを調べるために彼はグラム単位で研究を繰り返していた。そしてその量までも惜しげもなく公開している。おかげでこの国の農作物はより大きくより美味しくなったのだ。


 そんな画期的な研究をしている者が自分より年下で現れたという。ルパートを調べさせたら、普通の貴族令息ならば耐えられないであろう環境にいた。実際にそっと見てみたらボサボサの髪におよそ貴族らしくない日焼けした肌の持ち主だった。それでいて態度は貴族なのだからそのギャップに驚かされた。

 街で出店の売り子をしているというので、町民に変装して話をしてみれば、その知識の深さと広さにも驚かされた。ハリーは非常に興味を持ったが、王族が下手に接触すれば、彼は余計な注目を浴びて、自由な研究ができなくなるかもしれない。そう思ってそっと見守るだけにしていた。それに高等学部に入れば、弟と同じ学年だ。自然と接触できるに違いないし、彼ならば大学部にも進学するだろう。そうすれば自分とも接触できる。

 そう思って楽しみにしていたのに、その弟はおかしな方向に進み始めた。まあその後は何とかなったが、一歩間違えればあの鬼才を失うところだった。

 

 色とりどりの花に囲まれているルパート。彼が植物を触るたびに、その指先に柔らかい光がほんのりと灯っている。それだけでなく、ハリー王太子の目には、ルパートの指先がオーロラ色をまとっているように見える。


「ルパート。君がオーロラの祝福を受けた、オーロラの聖人なんだよ。妹ではなくてね」


 オーロラの聖人は魔法を持つ者が多いが、オーロラに祝福されていれば、魔力の有無は関係ないのだ。それにオーロラの祝福は、多少本人を守る効果はあるが、それ以上の物はない。その効果のおかげで、ルパートには妹ローズの洗脳が効かなかっただろうが、それが本人にとって幸せだったかどうか。


 過去には一度聖人・聖女と判断されても、本人が驕り高ぶってしまい、努力を怠った結果、加護が消えた例もある。真摯に努力し続ける者にしか祝福は与えられないのだ。


 ルパートは確かに肥料という画期的発明で、たくさんの品種改良をしてきた。だが他の研究者も同様にその肥料で品種改良をしている。しかし彼は他人に任せることなく、その肥料と、その使い方と、改良された品種の定着方法を研究を重ねて真っ先に考え出した。そこにはオーロラの祝福によるのほんの少しの幸運があったにせよ、その結果は確実に彼の努力のたまものだ。

 それがオーロラの祝福を引き寄せ、その証明でもあるオーロラ色をした花、アウロラ・ヴェールが誕生したのだろう。

 

 本人はその光を認識していないから気が付いてもいないが、ウィロウ教授含め、気が付いている者は少なくない。ただ彼の研究心の邪魔をしないようにと、口に出さないのだ。彼には魔力はないが、その代わりにその知識がある。誰よりも柔軟な発想ができて、それを実現させる知力が。


 このオーロラ色に囲まれた庭で、彼は柔らかな微笑みを浮かべ、自分の育てた植物をいとおしそうに見ている。


 そんな貴重な知識の持ち主であるルパートのオーロラの光を汚さぬよう、ただ見守る。それがハリー王太子の役目でもあった。そしてたまに彼の宝物である植物を貰い、部屋で愛でる。それが今のハリー王太子の何よりの楽しみで、宝物だ。



 ハリーはふわりと笑みを浮かべたが、すぐに王太子の顔で前を向いて歩き始めた。

本編終了です。長いお話にお付き合いいただきありがとうございました。

あと2話、トマスの告白が入ります。よろしければお付き合いくださいませ。

27日10時投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ