#4「戦下の配信者」
西暦2030年4月――全国の新聞やネット記事に今回の出来事が堂々と掲載されていた。『異種族 北に襲来』というタイトルと共に、少女が共存派を名乗る異種族の兵士に拘束されている写真が大きく載せられていた。
<ついに人外共が天下統一にリーチをかけたか……>
<この兵士達、まだどの種族かも分かってないのかな? 体格的にゴブリンっぽいけど>
<これはもう俺達に未来無いのかな>
<写真で拘束されてる女の子が殺されるのも時間の問題だな。やっぱり異種族なんか受け入れるべきじゃなかったんだ。それもこんな小さな子供を拉致して殺そうとする奴らなんか>
<遠くない将来、きっと地球が乗っ取られるんだろうな、あいつらに>
<その子の次は多分私かも……>
無数の絶望が一つの記事に湧き出てくる。大半の傍観者は皆、それを手のひらサイズの端末に収め、羅列を目で通しながら指でスクロールする。一部はそれに対して自論を以て反応する。それをまた眺め、無かったことのように上へ押し上げる。
「ちっ……どいつもこいつも、諦めるの早すぎだっての」
舌打ちをしながら右手の親指でスマホの電源を落とした少女――遠野歩夢もまたその一人だった。部屋のベッドに背中を預けながら、手に持つスマホを滑らせるように落とす。その動きとは逆に歩夢は身体を起こし、背筋を伸ばしてすぐに近くの机に向かう。
「こうなったら……私が着火剤になるしかないよねぇ。皆の希望の火を一気に燃え上がらせるほどの、ね」
スマホの電源をつけ、動画アプリを開きながらベッドに転がってある自撮り棒を左手で取ってはセットし、ライブ配信を開始する。
「じゃあ皆始めるよ……このボク『海月あゆ』の配信を!」
部屋の小さな窓を開け、軽々と頭から潜り抜けるとすぐに両足を蹴る。すぐさま空中で瞬時に背中からサファイア色の羽を伸ばして北の空を駆ける。
<お、あゆちゃんの配信始まった!>
<あゆちゃ~ん!! 今日も応援してるよ!!>
<来た来た! 頑張れ~!!>
<果たして今日はどんな魔物が来るのやら……>
「今日は小樽の辺りを散策するよ~。お、今日もたくさん見に来てくれてるね……いいねぇ、俄然やる気が出てきたよ」
多くのコメントがスマホ画面の一部に流れる様子を見て微笑むゆな。そんなふとした表情が更にその言葉の波を激しくさせた。現に6千人ほどの視聴者が見ている中、周囲を見渡していると、既に体長10メートル以上の翼竜の群れが目の前の建物を破壊しながら暴れまわっている。
『退け、人間! ここは我らの縄張りだ!!』
『悲鳴を上げながら逃げていく様……実に滑稽、哀れで貧弱だな。そんな人間どもに待ち受ける未来は、強種による破滅しか無いのだ』
<うわ、でけぇ……10メートルはあるだろこれ>
<しかも画面内の時点で5匹はいるぞ……実際もっといるんじゃ……>
<ゆなちゃん左! 今左のドラゴンの口から炎が!!>
<え、マジで? ホントか分かんないけどとりあえず避けて!>
「へ? ぎっ……ぎゃああああああっ!!!!!」
――配信が始まってまだ30分もしないタイミングで、早速あゆの人生が破滅へと向かっていた。