#48「開戦」
同日 深夜2時 陽翔学園 屋上――
月光に照らされる闇の下で、2匹の妖精が剣舞を交わす。激しく、かつ流麗に。穏やかに流れる川のように、一切の迷いのない太刀筋で目の前にいる目的を阻む者を斬り刎ねる。たとえ同じ異種族の騎士だとしても。
故に騎士として、数多の屍を踏み上り、前線で剣を振るう戦士だからこそ、抱える理想を超えるものは存在しない。
「金風妖犀剣・二式」
「結華妖犀剣・一式」
フィリアの剣が右手から離れ、双剣へと姿を変えては彼女の周囲を飛び回る。対してシャギアの双剣は蒼白の結晶と化し、彼の右手の動きに合わせて流星の如く夜空に舞う。
「『双子奏乱』!」
「『雨氷無星』」
氷の星が夜空を流れながらフィリアにその雨先を向ける。しかし金色の双剣がその全てを弾く。屋上に無数の氷が爆ぜていく。今この時だけ、この場所に雪化粧が現れた瞬間である。
「……君がこの選択をした時点で、結末は約束されているようなものだ。君が何をしようと、その『弟君』には届かない。何故なら今や僕らだけでなく、人間側も彼を敵視しているらしいからね。誰一人とて味方がいない……ふふっ、君とお揃いだね、フィリア」
「――ふふっ、馬鹿ねシャギア。私の味方はいつだってあの子一人だけだもの。そしてそれ以上は私に必要ない」
金色の羽を広げ、ふわりとはためかせる。右手を天に掲げると、宙を舞う双剣が一本の剣となり、元の姿を取り戻す。更に右手から放たれる光を吸収しては、身体を大きく上回る巨大な剣と化する。
「……どうりで妖精騎士である僕達とはいつも別行動だし、心を開かないわけだよ」
「えぇ……だから諦めなさい。貴方達が何を言っても、私はこの気持ちを揺るがすつもりは微塵も無いわ」
無数の氷がシャギアの足元に集う。地面から生えるように巨大な氷塊が生成されていく。
「金風妖犀剣・一式――」
「結華妖犀剣・五式――」
対極にして、同極に等しい二つの剣技。己の全てを一に注ぎ、極限の一を生み出す。違いなど、それが剣技の出発点か到着点かのみ。今ここに、二人の妖精騎士たる奥義が放たれる――
「『約叶之剣』!!!」
「『乖華之星』!!」
両者右手を投げるように振り下ろしては、天地の境界に二つの極限が交わる。空間は歪み、闇は覆った空を晒す。極限を纏った二つの光が収まるまで、どれだけを時間を要したかなど、何者にも分かるはずがなかった。
◇
翌日 陽翔学園 正門――
空に段々と雪虫が舞ってきた。冬の訪れと同時に、僕は再び石狩の地に足を踏み進める。震えが止まらない。寒いからか、或いは恐怖の残り香か。はたまたその両方か。どちらにせよここまで来たのなら、今更引けない。
「――決めたんだ。僕が終わらせるんだ。皆と同じ人間で、陽翔学園の生徒だって……証明するんだ。そのためには……」
方法なんて、最初から決まっているようなものだ。何しろここは魔術の学園でもあるのだから。でも、僕に魔術なんて無い。だから押し通す。実力で学園の生徒全員に打ち勝つ。ただそれのみ。
「……行こう。時間が惜しい」
そびえ立つ門をくぐり、外靴から履き替えて階段へ進もうとした時だった。
「――ようやくおでましか、スパイ」
「貴方が噂の……人間を装った異種族……なのですよね」
「2年1組総出で早速お出迎えしてやったんだ。少しは感謝してくれねぇとな!」
1階玄関前の階段で早速四方に囲まれた。まだ誰一人名も知らぬ2年1組の先輩方が早速僕を殺そうと武器を構える。全員の目が不思議と赤く光っている。こうなれば逃げる事など出来ない。真っ向から立ち向かい、打ち勝つ以外に突破口は無し。しかしこうなるのも結局時間の問題。遅かれ早かれこの時は訪れる。偶然このクラスが速かっただけである。
「……そうですね。ですがそれは皆様の誤解を解いてから改めて言わせていただきます」
柄を握った瞬間に襲う電流にも、もう慣れた。一切よろめくことなく右手で抜刀し、周囲に『強制覚醒』の光が走る。緊張が走る。とても朝の校内とは思えない張り詰めた空気が肺を凍らせていくようだ。
「さぁ……観念しろ、異種族のスパイっ! 1組、全員攻め撃てー!!」
「この誤解を、現実を終わらせる……そのために僕はここに戻ってきたんだ!!」
剣を持って突進する者、魔術を唱える者、ライフル銃を向ける者――その全てに囲まれながら、僕は左手を背中に差すもう片方の剣の柄を握った。
異種族のスパイなんかではなく、ただの人間である――それだけを証明するだけの戦いが、ついに幕を開けた。




