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#47「開花」

 荒れた世界の中で、重低音と靴底が地を削る音が空に響き合う。互いに刃を振るい、(かわ)しながら、僅かに生まれる隙を伺う。


「はぁっ!」

「ふっ……!」


 剣と化した華江さんの左手による突きが僕の左胸を通るより先に、僕は右に体重を傾けてそれを躱す。


「うおおおっ!!」


更に空を突いた華江さんの剣の腹目掛けて、空いた左拳を思い切り振りかぶる。蛍色の閃光を纏った拳は見事に華江さんの剣を鉄の破片と化した。


「……!」

(腹で受けたとはいえ、素手で私の剣を折るとは……これも、美尊様を(まと)うあのいかづちの影響なのでしょうか)


 両足に力を入れて後ずさりながら踏みとどまるも、怯むことなく右手の剣で反撃を仕掛ける。対して僕も地を蹴って華江さんとの間合いを詰める。


「零式魔刀技……一式『乱光斬星(スターライト)』!」

「そう来ると――思ってました!」


 蛍色に輝く刃を振りかぶりながら、正面に迫る華江さんの突きを右に躱してすぐ右足を蹴る。ここを起点に華江さんを中心に星型を描こうとした時だった。


「『天咲晴照剣(てんさせいしょうけん)三式』」

「――!」


 折れた華江さんの左手の剣が再生し、金色の光を纏う。その光景に目を見開いた瞬間、目の前に華江さんの姿が消える。振り向くとちょうど背後に華江さんが二刀を構えている。何度突進しても、華江さんは踊るように僕の攻撃を躱していく。


「『咲雀群踊蘭(オンシジューム)』」

「っ……!」


  『乱光斬星(スターライト)』が描いた星は全て空に外れた。ただひたすら踊り子の舞に、僕はただ翻弄されているだけだった。


(『強制覚醒(インフォース)』状態での僕の剣技を全て躱された……機械人間なのになんて反射速度と瞬発力なんだ)

「『天咲晴照剣(てんさせいしょうけん)』は代々鳳家に伝わる剣技……踊り子の如く舞い、相手の攻撃を優雅に躱しながら刃を振るうのが特徴です。ただ、私のそれはお嬢様から習っただけの付け焼き刃に過ぎませんが」

「攻撃と回避を両立させた剣技……だったら!」


 躱されるより速くこちらが動けばいいだけの話だ。意識を更に研ぎ澄ませ、限界を引き出す。


「四式――『月之咬眼(ツキノカメ)』」


 零式魔刀技四式 『月之咬眼(ツキノカメ)』。これが今の僕に出せる、最速の剣技。この一撃に全てを乗せる勢いで、僕は突進と同時に華江さんの眼を目掛けて全身を捻り、右から水平に剣を振るう。


「……!」

(これが『月之咬眼(ツキノカメ)』……走行中の車のホイールが逆回転して見えるように、速すぎる故に遅く見える……ストロボ現象による錯覚を用いた、眼を断つのに特化した技。余程の者でなければ初見でこの技を避けるのは至難の技ですね……)


 華江さんの目尻に切っ先が掠る。微かな火花を散らしながら、黒の装甲に覆われた肌に鋼の切傷が刻まれる。華江さんは背中の翼を前にはためかせながら僕との距離をとる。


「中々やりますね。美尊様の剣技は」

「本当にすごいのはこの技を生み出した零さんですよ。僕の剣も、華江さんと同じ付け焼き刃に過ぎないですよ」

「ご謙遜を。貴方様の剣もとても流麗ですよ。ですが、それだけでは学園の平和は取り戻せません。今あの学園は生徒や先生はともかく、校長クラスのトップもすべて含めてその大半が貴方様を異種族……敵と見ているでしょう。現状敵の数も実力も未知です。そんな状況で貴方様を送り出す事は出来ません」

「……っ」


 そうだ、その通りだ。今は実質陽翔学園そのものが僕の敵として立ちはだかっているようなものだ。鳳会長や奏刃君がついてたとしても、学園の皆と殺し合うなんてことは二人とも望んでいないはずだし、僕も望んでいない。でも、だからこそ僕の手でこの事態を終わらせたい。終わらせなければならない。僕が動かなきゃ、誰がこれを止めるんだ。


「……分かってますよ、華江さん。今仰ってた事全部、分かってるんです。このまま学園に戻ったらまた色々言われるのも、今度は武器を構えて僕を殺しに来るかもしれないって事も。本当なら僕だってこのままいたいですよ。学園が怖いですよ。行きたくないですよ。

 でもこのまま他人に甘えて、楽な事だけ考えて縋ってばかりの自分になるのは嫌なんです。元よりあゆさんを殺してしまった自分に、そんな事をして許される資格なんてありません。その罪も、一生如きじゃ償えないかもしれない……それでも甘えを捨てて前に進まなきゃ、救えるものも償えるものも何もかも無くなってしまう。

 華江さん。人間が一番恐れているのは、本来手に届くはずのものが取り返しのつかなくなった時なんですよ」


 左手が背中に差すもう一本の刀に引き寄せられる。ゆっくりと鞘から引き抜き、白銀の刃がその全貌を現した瞬間、刀身が炎に包まれていく。


「そんな現実を、この手で捻じ曲げる……それが僕が貴方に剣を向ける理由であり、紅零(ゼロヴィオン)の『後継者』として与えられた生き様(しごと)だ!」

「っ――!」


 右眼からじわりと血が流れる。身体が限界を超えた合図だ。身体から洩れる悲鳴も、目に槍が突き刺さるような痛みも気にすることなく、僕は地を蹴ると同時に全身を捻って回転する。


「零式魔刀技・五式――」



 両手の剣に炎を纏わせながら螺旋状(らせんじょう)に舞う炎と共に迫る僕を、華江さんはくすりと微笑む。


(……ここまで覚悟を見せられてしまったら、メイド如きの私には止める資格はありませんね。美尊様が私やお嬢様と違ってただの人間であるからと、少し過保護すぎたかもしれませんね)


 その笑みに、反撃も回避の意志は無い。ただ螺旋の炎は一直線に舞い続け、華江さんの装甲を二刀が斬り裂いていく。



「――『花雨海開(アイリス)』」



 炎の花は、荒れた世界の一部に彩を付け足した。破壊された黒の装甲や翼が宙を舞い、空に炎を咲かせた。

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