#41「果ての末」
西暦2030年10月4日――黒神美尊の死は瞬く間に学校全体に伝わり、日本全土にも拡散された。
そして彼の遺体は、飛翔学園生徒会で処理を行う事となった。
飛翔学園 3階生徒会室 機密の部屋
「――この子が、黒神美尊君ね」
岩盤で覆われただけの一室で眠る遺体の前で、生徒会長の鳳天花の第一声が響く。赤と白が混ざった長髪に、生徒会長専用の白いブレザーを纏うその姿は誰もが認める『学園の頂点』以外に当てはまる言葉など無い。
「えぇ。彼こそがこの石狩を破壊し、我が学園唯一の『特待生』である遠野歩夢を殺害した悪逆者です。そして彼は妖精騎士と共闘している所も世間に広がっております。いわば異種族からのスパイです」
彼女の右隣に立つ男……伊弉冉照がありったけの憎悪を込めて彼を紹介する。しわ一つないスーツを身に纏い、黒の四角い眼鏡をくいっと上げる彼こそ、この飛翔学園の副学長を担う者である。
「こいつが石狩を破壊した、だと? あり得ぬ。この貧弱な見た目でとても一つの市を破壊できる力を持つとは思えん」
黒の短髪に同色のコートを羽織る少女……生徒会副会長の鳳王華凛が美尊の悪態を否定する。無論彼がやってないという『善なる否定』では無く、弱者故に不可能という『嘲ける否定』だ。
「だが私は弱者の行く末になど興味は無いからな。好きにしろ」
「出た、華凛先輩いつもの弱者差別ー」
「じゃくしゃさべつー」
「う、うるさいな貴様達!」
「「ご、ごめんなさ~いっ!!」」
凛々しい華凛の背後に立つ背後瓜二つの少女……星野佐音里と星野羽瑠衣が彼女をからかう。対して華凛は顔を真っ赤にして二人に叱る。これでも二人して生徒会の書記と会計をそれぞれ務めている。
「はぁ……それで、どうするつもりなんだ鳳。こいつの最期は貴様に委ねられているぞ」
「そうね。何も動かずにこのまま置いておいても腐るだけだものね……」
はぁ……と深いため息をつき、軽く息を吸って覚悟を決めた表情で決断する。
「私が跡形も無く彼を焼くわ。今すぐ全員離れて頂戴!」
「「……!?」」
全員、分かってはいた。しかし驚きが上回ってしまった。彼女は今、この部屋諸共死体を焼き払おうとしているのだから。
「おい……貴様、こいつだけならともかく、この部屋ごと焼くとか正気か!?」
「えぇ、正気よ。じゃないと焼けないもの」
「……たかが人間の死体だろ! マッチに火をつけてこいつに投げるだけで十分燃える!」
「彼は異種族のスパイで、この学園の特待生を殺した悪逆なのでしょう? なら遠慮なんて不要だと思わない? それに、弱者の行く末に興味は無いんじゃなかったの? 華凛」
「ぐっ……私に二言は無いからな! 離れるぞ貴様達!」
「会長……なんか怖ーい」
「こわーい」
恐怖で身体を震わせる佐音里と羽瑠衣の手を引っ張りながら、華凛は生徒会室を後にする。天花は遠くなっていく彼女らを見守ってからすぐに隣に立つ照に目を向ける。その顔は何やらご満悦だった。
「……副学長も逃げてください。ここは危険と化しますので」
「いえ……どうしてもこの目に焼き付けておきたいのです。異種族風情が眠っている間に無様に焼け跡も残さず消えていく様を……くくくっ」
「気味が悪いのでこの場から離れてください。でなければ副学長から先に消し炭にしますよ?」
「……こうと言われたら、私も自らの命を優先せざるを得ませんな。では、次の機会に」
凍てつくような目で照を睨んで脅迫する。それに怖気づいてしまったのを平常心で隠しながら、照も部屋を後にする。
(……これで誰もいなくなったわね。あとは終わらせるだけ)
ふぅ……と安堵のため息をついてから、両手を開き、腕を眠る彼に向けて伸ばす。
「――種は此処に植えた。芽吹きは始源、蕾は祈り。
一片の胞子は命を紡ぎ、散りゆく影は因果を刻む。
風よ運べ、花弁の誓いを。
土よ抱け、根深き宿命を。
炎よ祓え、華やかな未来さえも。
我はここに宣ず。輪廻を巡る花冠の名のもと、封ぜられし力を解き放たん。
水はとうに不要ず。開花は今ここに──『枯命開火』」
――――――――黒神美尊を起点に、機密の部屋は爆風に覆われた。生徒会室の一室ではあるものの、特殊な魔術を施しているため、爆風が生徒会室を巻き込む事は無い。故に、部屋外に広がるはずの『威力』も全て覆う事になる。よって、この機密の部屋そのものが爆弾に等しい。
しかし衝撃までを覆う事は出来ない。今にも激震がこの学園を起点に石狩を襲う。生徒達は一斉に机に隠れたり、障壁を張って身を守る体制をとる。悲鳴が揺れに合わせて響く。硝子が割れ、床は裂け、壁に走る。
「くくく……くははははは!!! 見ろ、異種族どもめ! これが貴様らに訪れる未来だ!! くはははははは!!!」
揺れに一切動じる事無く、照は生徒会室前の廊下で高笑いをする。今彼の望みが叶えられる第一歩を、確かに世界は踏み出していた。




