#39「30秒の賭け」
――派王。それぞれ二つに分かれた派閥の片割れの王。『防衛派』と『共存派』という、同じ人間でありながら『異種族』の存在だけで意思や目的を違えた結末の最前線に立つ、全ての起点。
でも、彼はそのどちらにも属さない。元より彼は人間なのではないのだから。
……いや、言い方を変えよう。
生命体ではないというのが正しい理由だ。言わば、ただの概念。他所の心身に取り憑く、『王』の肩書だけを得た存在でしかない。
なら何故派閥の王を名乗っているのか。理由は単純だった。
『共存派』たる存在は、彼一人によって滅ぼされ、支配されたからだ。この戦乱が――『忌み子』が生まれる、ずっと前から。
彼の名乗る『派王』は、既に奪い取った称号に過ぎない。しかし、その力は王に相応しいものであった。無限の斬撃と通貫を繰り返す、これ以上ない程の忌々しい魔術は。
しかし今、それに抗おうとする者がいた。配信を武器に戦う、純粋な魔術師だ。
これは、そんな配信者たる人間と派王に取り憑かれた人間の――僅か1分の持久戦である。
「――」
ボク――海月あゆは余裕だった。まだ余裕でいられる。無敵でいられる、残り30秒間は。問題はその後のもう30秒。『現幻皆致唯固天愛』が解除されてからは、今も流星の如く流れる斬撃と槍の雨を直に受ける事になる。
しかも今は圏外。唯一の武器である配信を失っている以上、勝機はボク自身の根性に委ねられた。
いや、何に委ねるまでもない。それも簡単な話だ。
「……この30秒で、ケリをつける」
右手に持った剣の柄に力を込め、軽く両足に体重を乗せては弾むように地を蹴る。空いた左手で画面を開き、『装備』欄をタップする。迷いのない手つきで画面左の『武装一覧』からドラッグしてもう半分の『武装装備』の空いた枠にドロップする。
装着される度にボクの身体は青い光を放ち、黒いアーマーが姿を現す。両足には二基のバーニアのついたブーツが、背中には竜の如く黒い翼を、四肢には竜鱗のような鎧が取り付けられた。
「ボクの全部を、30秒に賭ける!」
「ならば魅せてみろ、30秒でな!」
大きく翼をはためかせ、視界は空高く昇る。上から迫ってくる槍の雨を躱しながら。
「見てなさいっ……!」
頭上に振りかぶった剣の刀身からは青い炎が燃え上がり、各武装も連動するように青く光る。
「『冥炎蒼天』!」
上空から『派王』に向かって突進しながら蒼炎の衝撃波を剣から放つ。その全てを世界の斬撃が消し飛ばす。それでも振り放つ手を止めない。何度も何度も衝撃波を放つ。
「――残り10秒を切ったぞ。その程度か」
「20秒程度で終わる技だと思ったつもり?」そ
無数の衝撃波を放っている最中に、私は剣を横から投げる。青い炎を纏った剣は、見事に衝撃波に紛れ込んでいた。そして無数の斬撃が衝撃波を掻き消す中、凄まじい勢いで迫る刃が派王の身を捉える。
「愚かだなっ……!」
――残り5秒。
しかし上空からの槍の雨が投げた剣を弾いては無力化する。彼はその先を見つめる。剣で注意を引いた隙に突進してくる――そう確信していた。
――残り2秒。
しかし、甘かった。一瞬にも、彼は油断から生まれた甘い汁を吸われた。
「――愚かだね。実に単純。でも安心したよ、美尊はまだ派王にいるんだって分かったから」
「……!」
彼の後頭部に、何かが突きつけられた。剣ではない、何か。しかし、そこからは命が終わる気配がした。
(背後をっ……! 羽音もしなかった。こちらを横切る風も気配も無かった。正面にしか彼女の気配を感じなかった。何故……)
「『確定必殺』」
「貴様っ――」
――残り0秒。
パァンッ――――
乾いた銃声が、禁忌の眼を閉ざした。荒れ果てた石狩の地が、再び姿を現した。
故に、勝負はついた。しっかりと、30秒で――




