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#37「止めるための配信(下)」

 鋼同士が衝突する度に轟音が響き、火花が舞う。2色の稲妻が周囲に散っては空を(つんざ)く。容赦なく繰り出される剣戟が荒れ果てた北の大地に消えない爪痕を残す。


「……その程度か」

「くっ……!」


 剣戟は鍔迫り合いへと移行する。美尊君は軽々と右手だけで交えているのに対し、私は両手持ちかつ全力踏ん張りで何とか踏みとどまる事が出来る程度。これだけで今の彼との格の違いは明確。


「それでよく俺に歯向かえるものだ」

「っ……!」


 左頬に浅く斬撃が走る。立て続けに右足へ左肩へと斬撃をもらってしまう。あっという間に私は窮地に立たされていた。


「げほっ……!」


 口から鮮血が溢れる。無数の切傷からも流れ落ちる。斬る速度が尋常じゃない。浅い傷だけでも激痛で剣を振りたくないと身体が拒絶してくる。


(一撃が重いっ! 正直受け止めるだけで精一杯だよっ……! でもこれはあの黒い謎の力の影響じゃない。間違いなく紅零(あのおじさん)との鍛錬を積み重ねた、美尊君の努力で練り上げられた太刀筋……)


 分かる。分かってしまう。一度彼の修行の一環で対峙したことのある私だからこそ、この剣筋だけで伝わる。想像もつかない絶望の中で組み上げてきた努力の重さが。前まで一匹の竜に怯えてたなんて、今ではとても考えられない。


「――でも、それは前提だから。最初から分かりきってた事だよ。これくらいじゃ諦める理由としては不十分すぎるねっ!」

「……!」


 一瞬だけ、嫌がる身体を無理矢理動かす。そして思い切り全体重を剣に乗せて前に右足を踏み込む。その瞬間、身体が壁を打ち壊したかのような解放感に満たされる。顔を上げると、剣を持つ彼の右手が後方に引っ張られているのが見えた。少しとはいえ隙が生まれた。チャンスはここしかない。


「ボクの配信は、ここからが盛り上げ所だよっ!」


  ふらつく身体を何とか両足で踏み留め、胸の前に両手の親指と人差し指で横長の長方形を作り、写真を撮る要領で右目の前に持っていく。左目を瞑り、痛みに向いた意識を長方形を作る指に集中させる。


<来た! 詠唱だっ!>

<これが決まれば勝機はあるぞっ!>

<行けええええええ!!!>

<あゆちゃん!! 勝てるぞ!!>


 私の背中に隠れながら飛ぶカメラの画面には、私を応援するコメントや愛の言葉で満ちていた。

 同接数約13500人。ハート数約5300。そして4200円のスパチャ。徐々にそれらの数は増え、同時に比例して私のHPも攻撃力も上昇していく。そんな好調な状態から放つ――独創世界。


「――『月之咬眼(ツキノカメ)』」


 私の奥義を阻止するためか、美尊君は地を蹴って凄まじい速さで剣を水平に払う。私の両目を斬って視界を奪うつもりだ。


しかし、時はすでに先の未来を決めていた。


「禁忌開眼――『絵界夢幻之愛信ラブバーチャル・デリュージョン』」


 曇天を星空が塗りつぶし、戦場が夜の海へ姿を豹変させる。空に在る満月の白が夜に光をもたらす。流れ落ちる流星群はスパチャが送られた数を表す。しかしただ世界を塗り替えただけ。彼の攻撃が止まるわけではない。


「……所詮幻想(せかい)()った程度で勝った気か」


 刃が視界を瞬時に薙いだ。瞬きする間もなく、私の目は彼の刃に断ち斬られ――



<あゆちゃん! ()()()()()()()()っ!!>


「――!」


 刃が通った直後、視界が数秒間赤く点滅した。赤スパが送られた瞬間だ。その金額――10000円。


「――ふふっ」


 赤スパ。スーパーチャットという所謂投げ銭機能において、一度に高額の金額が送られた際に流れる、貢ぎという名の愛のメッセージ。そしてその愛は、配信者たる彼女を無敵の権化へと至らしめる。

 

「……一体何が起こっている」


 美尊君斬撃が全く効いていない。確かに斬ったはずの両目に、傷一つすらついていない。それどころか、著しく力が(みなぎ)ってくる。身体から青い炎のようなオーラが放たれ、美尊君は思わずほんの少しだけ後ずさる。


「……初めてでしょ、ボクの本気見るの」


 炎の如く燃え上がる蒼い光に包まれたその姿は、もはやただの配信者ではない。全てを超越し、理すらその絶対性を無に帰す力。その名も――



「『現幻皆致唯固天愛(プリマステラ)』」

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