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#33「救った代償」

「おはよ~、黒神君」


 9月はもう中旬になり、肌寒くなってきたこの日の朝。うつ伏せになりながらスマホを眺めていた僕の視線が僕を呼ぶ方へ向けられた。


「あっ……」


 その先にいたのは、白と水色のストライプ柄パジャマ姿の女性――この1年1組の担任だ。遅刻ギリギリでもないのに、相変わらず寝間着姿だ。


「ちょうど良かった~。君に少し話があってね~。ちょっと先生のとこついてきてくれる〜?」

「あっ……はい」


 言われるがままに先生の後ろをついていくと、多目的室に辿り着いた。普段の教室2個分くらいの広さがあるこの部屋からは、言語化出来ない何か独特の匂いが鼻をくすぐる。


「ごめんね〜。この話は2人きりじゃないと出来ないからさ〜」

「いえいえ、それくらい大事なお話なのでしょう? ……ちなみにその話って、一体何ですか?」


 正面に両手を合わせて謝る先生に僕は気にしないでと手を振って答える。それよりここにわざわざ呼ばれた理由を知ろうと、すぐに話を本題へと移す。表情を若干曇らせた先生の口から放たれたのは、僕の想像した領域から逸脱したものだった。


「――手遅れにならないうちに、退学するのをおすすめするよ~」

「は……?」


 思考が止まった。思わず開いた口が閉じない。室内の独特の匂いも一気に感じなくなった。手遅れとは、退学とは……それらを処理する機能も停止していた。


「そ、それって……どういう……」

「この前の神禎病院での件で、妖精騎士に助けられた君の姿がテレビのライブ配信で流れていたんだよ~。そこで皆、君が妖精族のスパイなんじゃないか~って呟いてるんだよ~」

「スパイっ……!? ぼ、僕がっ……!?」

「この件で学校側も世間からの信用失墜を既に引き起こしているからね~。これからその失われた信頼を取り戻すために、対象を排除する動きに回るのはもう時間の問題なんだよ~。当然学校内でもその噂はほぼ全員耳にしているから、君に対するいじめ……最悪の場合暗殺を企む輩も出てくると思うんだ~。だからこの退学は、君自身を守るためなんだよ~」

「……っ」

 

 言葉が出てこない。「ふざけるな」の一言以外、腹の奥底にある言葉が出てこない。

 実際僕はライ君に殺されそうになったところを妖精騎士に……フィリアに救われた。そしてフィリアが殺されそうなところを……僕が彼女の剣を取って助けた。客観的に見てみれば、仲間だと思われても仕方がない。だけどあの日、僕は人を守るために戦った。武器も無しに、大勢の患者さんや看護師さん、医者の人達を竜騎士から守るために戦ったんだ。結果として重傷者はいたとしても、全員の命は何とか守り切った。


 それを成し遂げた後に降りかかるのが、退学と苦痛の二択だなんて……どう考えてもおかしい。


「入学してまだ1年も経ってないけど、先生は君をこんなところで死なせたくないんだよ~。不条理な苦痛を味わってまで、ずっとここにいる必要はないと思うんだ~」


 もう、先生の優しい言葉すらも悪魔の囁きにしか聞こえない。誰の言葉も、僕はもう信じられなくなっていた。全部、裏があるんじゃないかって……思ってしまう。

 

「――先生」


 一声、彼女を呼ぶ。優しく微笑む先生に、僕はたった一言だけを吐く。


「今日はもう……早退します」


 それだけを言い残し、僕は多目的室を後にした。一人残された先生は更に悲しさを顔に表しながら教室に戻り、入ってすぐ左の机……彼の机に置いてある早退届を手に取った。そこには彼の名前と、体調不良と記してあった早退理由欄があった。


「……先生は、君の味方だからね~。だから君の居場所くらいは、ちゃんと守るよ~」


 これまでも、これから先も、君が笑って学園生活を謳歌出来るように。

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