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#28「竜の訪来」

 入口付近に建物全体を囲うように炎が燃え広がる。次第に壁や床、天井を伝って焼き尽くしていく。


「っ……」


 焦げ臭い匂いが鼻を刺激し、目が覚める。そこはもう地獄絵図だった。人は皆悲鳴を上げながら慌ただしく逃げ、看護師が患者やその家族に必死に避難誘導を行う姿が見受けられる。周囲を見渡すと、草木は黒く果て、原形すら留めることなく散っていた。駐車場も多く停まってる中の一番左の手前にある赤い軽自動車が真下に引火して、爆発と共に激しく燃えていく。


「なっ……!?」


 驚いたのは、僕の頭上に待ち伏せる無数の竜。そのどれもが10メートル以上の体格を誇る巨大竜で、小樽で見たやつと姿や肌色が似ている。翼をはためかせる度に周囲に突風が迫り、炎の威力を更に底上げしている。


(あのドラゴン達、火の手を回らせるつもりか……! くそっ、死人が出る前に何とかしないとっ……!)


 ただ一人でドラゴン達と対峙する事を決意した僕だが、左腰に差す刀を右手で掴もうとしたその時、ここで不運に陥ってしまう。


「あれ……刀が、無い……」


 普段左腰と背中に携帯してある刀と聖剣カストルが無い。今思えばここに入院した頃から二刀は僕のいた病室には無かった。


「っ……!」


 その時、僕の身体は背中を蹴られた衝撃と痛みを覚えると同時に正面へ吹き飛ばされる。何が起きたかも分からぬまま、そのまま入り口の自動ドアを突き破ってガラスの破片と共にロビーに転がり込む。その後をゆっくり追い詰めるように、紫の鎧を着た謎の男が鉄を擦る音を鳴らしながら僕に近づいていく。その両横を人々が通り抜けていく。


「貴様だな……? 小樽に手配した竜を討伐した人間と言うのは」

「……!」

「そう怯えるな。その仇討ちしにきたわけじゃねぇ。単純に俺はお前に興味がある。人間風情の身で我らが竜族に刃を向け、討ち勝った貴様にな」


 そう言いながら男が右手から召喚したのは、紫に煌めく身体より長い槍。その先端はカジキの(ふん)(口についてるツノのような部分)の如く鋭利で且つ禍々しい見た目。持ち手も所々に小さな刃が波打つように付けられている。

 


「俺の名はライ。誇り高き竜族に栄光をもたらす竜騎士の名だ! さぁ見せてくれよ、竜を討ちし貴様の力を。逃げるようなら……ここにいる奴らがどうなるかなど、言うまでもないだろう」

「何て、ことをっ……!」


 今の言葉で愛刀を探してる暇も逃げる理由も無くなった。この程度の炎で朽ちる程、刀剣というものはやわなものではない。何せ灼熱の中で鍛たれた鋼なのだから。何より生きるために幾多の犠牲を払って戦っている人の命が理不尽に葬られようとしているのだ。


(……手元に(やいば)が無いなら、自身がその代わりを担え。英雄は救いを求める者の(つるぎ)だ)


 修行の際に零さんが僕にかけてくれた言葉をふと思い出し、心で呟く。一つ深呼吸を挟んでから覚悟を決めて両手の拳を握る。


「……僕は黒神美尊。お前達みたいな理不尽に人を殺す奴らを阻む、ただの人間だ!」

「そうか……ならミコト、貴様の力、この目で見させてもらう!!」


 両者、正面の敵を睨む。直後、強く床を後ろに蹴った。それから衝突するまでに1秒とかからなかった。


 その一部始終はニュースのライブ配信カメラには映らなかったものの、入り口付近で巨大な爆発や建物が崩壊していくのがはっきりと映っていた。


<うわっ、今すげぇ爆発音したぞ>

<この病院どこ? 見た感じ神禎(かみさだ)病院っぽいけど>

<いや、多分神禎だわ。札幌のこんなでかい病院なんてここしか見当たらん>

<ちっちゃく映ってるけど逃げてる人達いるっぽいし、全員無事だといいけど……>

<でももう病院が炎で囲まれちゃってるからね……完全にドラゴンの餌になっちまう>

<諦めんなよ、お前!! どうしてそこでやめるんだそこで!! もう少し希望持ってみろよ! 被害に遭ってる人の家族のこと思えよ>

<修造草>


 多くのコメントが流れる中、病院内で一人の人間が素手で竜騎士と戦っていることなど知るはずも無かった――

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