#25「病院にて」
――後日、僕は学校近くの病院に搬送された。偶然僕に授業のプリントを持ってきてくれたある生徒が通報してくれたそうだ。
「……」
右手に力が入らない。思うように頭が回らない。呼吸をする度に内臓が張り裂けそうになるくらい痛い。相当あの花弁の刃を喰らったのだろう。あの時二刀を振るえたのは、無意識に痛みを思考から排除していたからなのだろうか。
「……」
ゆっくりと顔を左に傾けると、ふと目が合った。そこにいたのは……小さく微笑む、少女の姿だった。彩芽にとてもよく似た、少女が。
「お姉……ちゃん……?」
呼んでも、ただにこっと微笑むだけ。僕を見ても何も口を発さない。もしかしたら別人なのだろうか。限りなく彩芽に似た誰かなのか。よく見たら髪が短めの金髪だ。でもやっぱり、そのおっとりとした顔つきはとても似ている。
「い、いえ……ごめんなさい。僕の大切な人に……とても似ていたので」
またにこっと笑う。何か事情があって話せないのだろうか。天井に視線を移しながらそんな事を考えている時だった。
「――大きく、なったね」
「っ――!」
どこか懐かしい声が左から聞こえた。ふと振り向くと、そこにあったのは誰もいないベッドのみだった。ずっと笑っていた彼女はどこかへ消えていった。
「幻覚でも、見てたのかな……」
開いた窓から優しく吹く風が頬を撫でながら、僕はありもしない可能性を頭から捨てて再度目を閉じた。
◇
――東京だった都市は完全に異種族及び共存派の人間が支配し、国会議事堂があった場所には巨大な城が建てられていた。その名はアリスト。現存する城の中で最上級の軍事力、支配力を誇る城……という由来がある。
そんな城の中に入ったフィリアに、同じ妖精騎士の男が話しかけた。
「――随分と酷いやられようだな、フィリア。妖精騎士たる君がこれほどまで苦戦を強いられるとは、防衛派も中々腕のある者がいるのだな」
「私の想像を彼が超えてきただけ。もう戦闘パターンは覚えた。二度は同じ真似をしない」
「流石だねぇ……ちなみにその相手って何者?」
「……」
フィリアは黙り込む。しばらく考えるような険しい表情を浮かべながら、答える。
「――学生よ。あまりにも運動神経が良すぎる、ただの男子高校生よ」
「へぇ……学生、か。まさか君が学生にやられてくるとは思わなかったよ」
「その首刎ねるわよ、ダリア。たとえ妖精騎士でも私は容赦しないから」
「ごめんって……でも、生きて帰ってこれて良かったよ」
そう言い残して、ダリアは逃げるようにその場を去った。一人になったフィリアは深い溜息をつく。
「はぁ……」
――学生、か。懐かしい響きだな。そう思えるのは、かつて私も……そうだったからなのだろうか。その思い出なんて、ほとんど覚えてないけど。
「――『お姉ちゃん』かぁ。ふふっ……いつぶりだろう、その言葉を聞いたのも」
彼はその『お姉ちゃん』を助けるために戦っている。彼女を攫った我々異種族を恨んでいる。恐怖で震えた身体で、私に刃を向けた。
「助けるために戦う、か……」
それを言えば私も同じだ。私にも、助けたい人が……守りたい世界がある。あの日からずっと、ただそれだけを思ってこの剣を振るってきた。
「私も、守らなきゃ。守るために、戦わなきゃ」
――大好きなこの世界と、君のために。




