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#23「騎士襲来(上)」

「……は、はいっ」


 恐る恐る右手を右肩に回す。その後ろにあるカストルの柄に指先が触れると、深呼吸を一つ挟んでから強く握る。そして『強制覚醒(インフォース)』の電撃が瞬時に全身へ迸る。


「っ……!」


 怖い。もし剣を抜いた途端に力が発動して、有村さんを斬ってしまう事になったら……考えたくも無い。


 ゆっくりと、剣を抜く。鞘と刃が擦れ合う音と共に白銀の刃が姿を現していく。いとも簡単に鞘から放ちきった。蛍色の稲妻が周囲に散っていく。段々と身体が軽く感じる。これがゾーンか。でも今回はダメだ。抑えろ。


「うん、その調子。でも身体に力が入りすぎてるね。もっとリラックスして」

「はいっ……」


 駄目だ、力が抜けない。抜いたらきっと、力が身体の支配権を奪ってくる気がする。剣自体はちゃんと僕の力を抑えてくれているのだろうか。


「深呼吸して……理性を持っていかれないように、しっかり保って」

「は……いっ……!」

 

 いや、何だか()()()()()()()()()()。段々と体力が剣に吸われているような感覚が右手から全身に伝わる。僕を纏っていた蛍色の稲妻が次第に弱まっていく。


「うん。いい感じ……今君の感じてるそれが、力の制御。君の『強制覚醒(インフォース)』による強大な力が、カストルの剣に吸収されているんだ。出力は君の好きなように調節できるけど、ベタ踏みしたら身体壊れるから絶対だめだよ」

「……はい」

「よろしい。じゃ、僕の特別授業は終了だよ――」


 有村さんの左耳のピアスから輝きが消えたとともに、有村さんの姿もいつの間にか消えていた。


「え……?」


 夢でも見ていたのだろうか。いや、それはない。さっきまでのは明らかに現実だった。頬を引っ張るまでも無い。だが不思議な現象がもう一つあった。


「な、何で……」


 右手にはカストルの剣が握られている。それなのに、力が発動しない。電撃も流れない。一度鞘に戻して抜いても、変わる事は無かった。というより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あれ……強い人相手にしか抜けないはずだよね……? 誰もいないのに、何で――」


 首を傾げながら白銀の刃を見つめていた、その刹那――


「あ、気づいてなかったんだ。おじゃましてるよっ」

「は――」


 右耳に何者かが囁いてきた。ふと振り向くと、そこには全く見慣れない姿があった。白の鎧と仮面に身を覆い、白と金で彩られた剣を背中に差す騎士が僕の目の前にいた。


「……どちら様、ですか」

「初めまして、だね。私はフィリア。妖精一族で選ばれた騎士の一人。でも君達の中では、『異種族』っていう括りになるのかな」

「いっ……!」


 刹那、脳が過去を呼び覚ます。彩芽が攫われた瞬間、巨大な人型兵器が街を焼き払った瞬間……僕に地獄を見せたのは、こいつらだ。


「お前がっ……お前らがお姉ちゃんをっ!」


 僕はフィリアと名乗る異種族の騎士を睨みつける。決して見せたことのない、冷たい目で敵を見つめる。


「え、ちょっ……どどどうしたのっ――」


 慌てるフィリアに、僕は容赦なく右手で握っていたカストルを目に見えない速さで四方八方に振り回す。対して彼女も背中の剣を瞬時に抜いては僕の連続斬撃をいなす。


「どうしたも何も、お姉ちゃんをっ……僕の住んでた街を奪ったのはお前らだ! ここで会ったからには、殺すっ!」


 ……ごめん、有村さん。早速だけど、どうしても殺さなきゃいけない相手なんだ。


「僕の全部を奪ったお前らの全部を、僕がぎたぎたに斬り裂いてやるっ!!」


 カストルに吸収された力が、身体に巡っていく。力が取り戻される。蛍色の稲妻が落ちたかのような轟く音と共に周囲に放たれる。


「っ……!?」

(何、この力っ……! 一気に魔力が……いや違う。これは一体っ!?)

「――遅い」

(速いっ! いつの間に背後を――)


 フィリアが咄嗟に振り向いて剣を横に払うも、時すでに遅し。既にカストルの剣はフィリアの仮面に一筋のひびを入れた。


「っ……!」

(仮面を貫通して頬までに傷が届いたっ……!? あの人と剣……一体何なの?)

「――そんなものかよ。その程度の奴らに全て奪われたなんて……やっぱり僕は呪われてるね」

(しまった、頭上――)


 しかし、気づいたころには、僕は頭上から剣を振り翳していた。咄嗟にフィリアは頭を右に傾けて躱すも、左肩から縦一直線に斬撃が滑るように入り込む。白の鎧にはひびが入ったが、身体まで斬る事は出来なかった。


(硬いな……カストルでも中まで斬れないのか。でも、弱点は作った。あとはそのひびに攻撃を集中させる――)

「……これで、殺しきる」


 剣を地面と平行に構え、腰を落とす。一つ深呼吸を挟んでは、勢いよく地を蹴る。


零式魔刀技(ぜろしきまとうぎ)――」


 間合いは一瞬で詰めた。光速の如き接近でフィリアも対応する間も無い。いける。


「『月之咬眼(ツキノカメ)』」


 凄まじい速さで斬撃の残像が映る。それは月の如く止まって見えるように。故に、他者の目にはカメの如く遅く感じて――そうして視覚が狂った眼を断つ。


(――剣が、遅く見える。簡単に躱せると、私の脳が指示している。でも何でだろう……身体は、その指示は間違ってると言っている。指示を拒絶している。何で――)


 視覚と脳処理が狂い始めたフィリアに与えられた選択肢は、既に決められていた―― 

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