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#22「凄まじい力には抑制を」

「……これらの事は、他の皆には言っちゃだめだよ。もちろん、君のお友達にも……ね」


 零さんが殺された――嘘偽りとは思えないくらいはっきりと放たれたその一言で、内容が全部彼方へ飛んでいっては、静かに消えていく。


「……っ」


 僕は絶望した。それは声にすらならない言葉となって。僕は問うた。世界に、神に、運命に「どうして」の一言だけを。


「どうっ……し……て……っ」


 どうして、僕の親しい人は皆気づいたら消えていくのか。世界は……神は、そんなに僕を憎んでいるのか。呪いたいのか。僕がこうして苦しむ様が、そんなに愉しいのだろうか。そんな思いが、雫となって目から頬に伝う。


「どうして僕はこんな思いばかりしなきゃいけないんだっ! どうして僕から……全部奪うんだよっ! 畜生っ!」


 そんな僕の頭を、有村さんがそっと優しく右手が撫でる。敢えて何も言葉にすることなく、ただ優しい手つきで僕の髪を撫で下ろしていく。


「ごめんね……これくらいでしか、今の私は君を慰められないや」

「……!」

「私はね、辛い思いをしてる人に『分かるよ。辛かったね』って、無責任に言いたくないの。人の痛みを知ったかぶってるみたいで、嫌なの。

 どんなに想像しようと、理解しようとしても、人の抱いてる痛みの全部は分からないんだから。だからこうして、その痛みを和らげるの」

「有村、さん……っ」

「ごめんね。いきなり辛い思いをしてしまう話をしちゃって。でも、これから言う事も含めて、君の目的を果たすために話しておく必要があると思ったの」


 優しく、でもどこか強い意志を込めながら、有村さんは僕の頭を撫でる。慰められてると同時にゆっくりと背中を押されている気がした。


 でも今はただ、亡き恩人のために涙を流す事しか出来なかった――



「少しは、落ち着いた?」

「は、はい……多少は、落ち着きました。ありがとうございます」


 体感5分程泣き続け、会話が出来るくらいには楽になった。泣き止んだ僕は有村さんに頭を下げてお礼を言いながら僅かに距離を取った。少し不満げそうな表情を浮かべている気がしたが、気のせいにして本題に入る。


「そ、それで本題に戻りますが、僕の能力って……」

「あぁ、1つ目のやつね。君の能力『強制覚醒(インフォース)』は、このまま頻繁に使っているといずれ死ぬよ」

「え……?」


 能力を使っていると、死ぬ……? 一体どういうことなのだろうか。



「『強制覚醒(インフォース)』は剣に触れる事をトリガーとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()能力なの。故に使うほど身体に大きな負担を背負う事になる。使った後に意識を失うのはこれが原因だよ。やってる事は車の急発進と一緒だからね」

「……!」


 ゾーン。アスリート等における集中の極限状態。あらゆる感覚が研ぎ澄まされ、本来の実力を超えたパフォーマンスを可能にする、人間の極致。その状態にさせるためにこの身を無理矢理叩きおこしているのだ。そりゃ負担は凄まじいし、バフをかける感覚で頻繁に使えば壊れるのも当然と言える。得られるものが大きい分対価も大きくなる事くらい、僕だって分かってる。


「でも……僕にはその力でしか奴らと戦う道が無いんです。たとえこの身が壊れようとも、助けたい人がいるんです。その奴らに攫われてしまった、僕の大切な人が。なのでお気に――」


 なさらないでください、と言いかけた途端に有村さんの両手が僕の右手を優しく包み込んだ。見上げると、「まだ話は終わってないよ」と言っているかのような笑みを浮かべていた。


「――2つ目の『双陽剣カストル』について、まだ話してないでしょ?」


 僕の背中に納められた聖剣。ある日抜けなくなってしまった、不思議な剣だ。今の有村さんの言い方的に、その剣と僕の能力について何か繋がりがあるような言い方だった気がした。


「その剣は、剣自体が強者と認めた相手にしか抜けないようになっている。そしてその強者の魔力量や使用者の意志に併せて力を制御する。つまり、その剣は『強制覚醒(インフォース)』を制御することが出来る」

「え……!?」

「という事で、今から君には『強制覚醒(インフォース)』を制御する力を習得してもらうよ」


 そう言いながら有村さんは立ち上がると、左手で長髪をなびかせる。その刹那、左耳につけられた深紅のピアスが光り出した。


「――君が大事な人を、生きて助けられるようにするためにね」

「っ……!」


 凄まじい魔力の気配。有村さんがこんな凄い力を秘めていたなんて思いもしなかった。


「さぁ、カストルを抜いてごらん、美尊君。これも保健室の先生として、君の身体の健康を守るためでもあるからね」


 とても保健室の先生とは思えないほどの力。この時僕は確信した。彼女はこれまで出会って来たどの相手よりも強い――と。

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