#21「異変と悪夢」
後日、僕は学校側から約1ヶ月の謹慎処分が下された。流石に口頭による厳重注意だけとはいかなかった。しかし何の力が働いてるのか、メディアにこの出来事は報道される事は無く、真実を知るのはこの学園にいる者のみとなった。
ちなみに藤影先生は5ヶ月の休職処分に、2年間現給料の20分の1の減給処分とのことだった。更に学校側の責任として、校長及び教頭も同様の処分を下された。本来なら三人とも辞職してもおかしくないが、そこの所も何かしらの力が働いているのだろう。この学園と教育委員会による、生徒には知る由も無い力が。
「……」
今回の事でナイフに刺された生徒の多くは心肺停止の重傷で息を引き取ったと思っていたが、どうやら保健室の先生がものの数分で全員蘇生させ、無事何の支障なく生活出来ていると言う事も判明した。一体何者なのだろうか、その保健室の先生は。
「んっ……」
処分が下されてから約3日が経ったある日の事。僕はただ1人学生寮の自室で仰向けになった身体を起こす。身体の至る所にあった傷は、例の保健室の先生が治してくれたのだろう。でなければ3日であの傷を完治するはずがない。
「はぁ……開始早々イレギュラーで満ち溢れてるな……この学園」
もはやこの学園そのものがイレギュラーのようなものだ。よく普通の高校に入学予定だった人達を受け入れようと思ったよ。まぁ他の転入生組からすれば、僕もそのイレギュラーの内に入るのだろうけど。
部屋の中をぐるぐると回りながらそんな考え事をしている最中、インターフォンの二音が鳴った。通話ボタンを押して返事をすると、聞き覚えのない女性の声が聞こえた。
「――ごめんね、ちょっといいかな」
「は、はいっ……」
少し大人びた声。全く知らない人だ。それでも待たせるわけにはいかず、急いで白のスニーカーを履き、かけた鍵を左に90度回し、恐る恐るドアを開ける。
「ど、どちら様……ですか?」
「あ、君が黒神美尊君……で、合ってるかな?」
「はい……黒神ですが」
「そっか、良かった。僕は有村美久里。今はこの陽翔学園で保健室の先生をしている者さ」
「えっ……」
僕は思わず驚いた。何故ならこの人が……あの日ものの数分で怪我した生徒を完治させたという、保健室の先生なのだから。
白衣を纏う、赤紫色の長髪が特徴のイケメン寄りのお姉さん――見ただけでもう医学に精通しているのが分かってしまう。
「ん……? そんなに驚くことかな」
「あ、いえ……すみません、何でもありません」
「そっか。それで君の元に来た用事なんだけど……君に話しておきたい事があってね、悪いんだけど部屋に上がってもいい……かな?」
「あ、えっと……」
突然の事で僕は慌ててしまう。何せこの学園の寮は男女別に用意されている。故に異性同士が一つの部屋で一緒にいるのは禁止されている。
「大丈夫、上には許可取ってるから。心配しなくても大丈夫だよ。あ、それとも……部屋の中にやらしいものでもあるのかい?」
「なっ、無いですからっ……! ど、どうぞお入りくださいっ!」
「ふふっ、冗談だよ。じゃ、お邪魔するね」
すぐに背を向けて部屋に戻る僕にくすりと笑う有村さんが玄関へ足を踏み込み、僕の部屋へと入ってきた。
「いや~、びっくりだよ。まさか初日に騒動起こしてすぐに謹慎処分だなんて。そんな人見た事無いよ」
「……そんな人普通見ないんですよ」
「くすっ、そうだね。でもあれは君というより藤影先生が起こしたものだからねぇ……あの人、1年の時からすぐに実戦に向けた特訓をしていち早く強くさせたいって思ってる人なのよ。
去年もやってたとはいえ、ただでさえ暗殺なんて2年生から習い始める科目だし、おまけに君のようなこの学園を何も知らない転入生組がいるんだから、今年は流石にしない方がいいって分かってると思ってたんだけどなぁ」
「……そう、なんですか」
「そうだよぉ~って、これを話しに来たんじゃなかった! ごめんごめんっ」
謝りながら僕が入れて運んだお茶を受け取り、静かに飲む。僕もお茶を小さな丸形テーブルの上に置き、その後ろの床に腰を下ろす。その直後に有村さんもお茶をテーブルに置き、話し始める。
「それでね美尊君、君に話しておきたいことが3つあってね。1つ目が、君の持つ能力『強制覚醒』について。2つ目が零君を通じて君に渡した、『双陽剣カストル』について。そして3つ目が――」
その零君が、何者かに殺された事について。
「――え」
さっきまでの驚きとは全く違う驚きが息を止めた。吸った空気が鉛のように重かった。正面に座る有村さんの表情が、突如として暗くなる。それと反比例して、太陽は雲一つない空を昇っていく。
「……これらの事は、他の皆には言っちゃだめだよ。もちろん、君のお友達にも……ね」




