#20「5分の戦闘」
両手に傷を負った状態で、万全の状態の藤影先生との戦いだ。既に勝負はついているのかもしれない。でも、それでいい。僕がこれを行った動機は、まだ会ったばかりの生徒を授業中に殺す藤影先生が……それを黙秘する学園が許せないからだ。
「……生徒とか先生とか、今は関係ないです。散々痛めつけて、もう二度と人殺しなんか出来ないようにしてあげます」
「……それがこの学園の規則だと知った上でお主はここに来たのではないのか?」
「その規則がそもそもおかしいんだよっ!!」
怒りのあまり僕は無意識に地を蹴り、チョークで作られた二振りの短剣を振り上げる。
「はあああっ!!」
そして藤影先生の胴体目掛けてX字を描くように振り下ろした。左右の刃が交わるタイミングで藤影先生の刀が横に構えられ、火花代わりの白い粉を散らしながら衝突し合う。
「こんなルールがあるなら、最初から総合学科なんかじゃなくて、魔法学校を名乗れば良かったじゃないかっ!」
「……ったく今どきの若者は、目先偏見でしか会話が出来ぬ愚か者ばかりじゃな!」
「っ……!」
勢いよく短剣が弾かれ、天井に突き刺さった。武器と同時に『強制覚醒』の力を失ってしまった僕はひたすら藤影先生の斬撃を避ける事しか出来なかった。
袈裟斬りに横一閃。1回転してからの逆袈裟斬りを挟んでの連続突き。その全てを零さんとの修行で鍛えてきた基礎体力と反射神経を用いて気合いで避けて行く。
「ふっ……くっ……!」
「避けるのが上手いのぉ……じゃが武器がなければ攻めれぬか!」
藤影先生は更に左手で新しいチョークを取り出しては同じ刀へと変化させる。二刀流で僕との間合いを詰めてきた。
「ならば儂から迫ってやろう!『言音之刀・双乱流陣』!」
瑠璃色の軌道が目の前で舞い始める。水のように清らかに、滑らかに。そしてそれは何よりも鋭い刃となる。
「っ……!」
軌道が読めない。分からない。あまりにも不可思議すぎるが故に左脇腹に斬撃が命中した。更にそれを皮切りに僕の身体に何度も斬撃の傷がつけられる。その度に鮮血が身体から宙に飛び散る。
「ぐっ……!」
痛いはずなのに、何も感じない。いや、もはや分からないの領域だろう。きっと痛いと自覚し、口にした頃にはもう死んでると思って良いくらいに、身体の感覚が麻痺していた。
「美尊君っ!!」
愛菜さんが涙をボロボロ零しながら僕の名を叫ぶ。しかし思ったよりもクラス内は静かだった。あまりの絶望な展開に声が出ないだけなのかもしれない。
「さて、もう5分が経過してしまうのぉ。そろそろ諦めをつけなければ、授業に支障が入ってしまうぞ?」
「……」
「もはや諦めを吐く体力も無くなったか。ならこれ以上お主と戦う必要は無い。誰か保健室まで――」
彼を連れて行っておくれ、と言おうとした時だった。
「――まだっ」
小さく呟くと同時に一瞬で藤影先生との間合いを詰める。そして血塗れの右手を強く握りしめ、鉄拳を先生の顔面に向けて放つ。
「終わってないっ――!!」
「――!?」
捨て身なのは分かってる。これが最後の一撃になるのは承知の上。たとえ勝てなくても、評価点が取れなくても、この学園のシステムに対する反抗が、少しでも皆を動かしてくれるのなら。
――僕は何度だって規則に反旗を翻そう。
「はあああああっ!!!」
咄嗟に藤影先生が突いてきた刀の刀身を左手で直接掴んで折る。また更にボロボロになった左手など気にもせずに、僕は前に跳びながら右拳を振りかぶり、思いきり藤影先生の顔面を殴っては床に叩きつける。
「がっ……!!?」
蛍色の閃光が拳を纏い、衝突と共に派手に教室内に散っていく。殴られた藤影先生は床にめり込む。そこにはまたまた大きなクレーターが出来ていた。
「……ふぅ」
もうあと20秒で戦闘開始から5分を経過するところだった。ギリギリ間に合って良かっ……
「た………ぁ……」
――それに気づいた時には、もう立つ体力すら僕には残されていなかった。
こうして、ほぼ相討ちという形で僕の『暗殺チャレンジ』が幕を閉じた。
その後今日の日本史は中止となり、僕は保健室で藤影先生と一緒にこっぴどく生徒指導の先生に怒られた。




