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#19「日本史(暗殺)の授業」

 何が何だか分からぬまま1限目の日本史が始まった。謎の暗殺はもう終わったのか、皆普通に教科書とノートを開きだす。僕も皆より少し遅れて教科書とノートを袋から取り出す。


「じゃあまず6ページ開いておくれい。縄文時代からやってくぞい!」


 先生の指示通りに皆が教科書をめくる。ペラペラとめくる音が耳に響く。僕も教科書をめくろうとした時、隣の席の愛菜さんが肩を優しく叩いてきた。


「ちょいちょい」

「ん……?」

「ごめーん、教科書買うの忘れちゃってさぁー。み、見せてもらってもいいかな?」

「あ……うん、いいよ」

「ありがとっ! 助かるよぉ! じゃあ机くっつけるねっ」


 愛菜さんが僕の机に自分の机をくっつけ、ぐいっと僕の方へ席を近づけた。一瞬胸がドキリとしたのを気のせいと解釈し、僕は平然と教科書を間に置く。


「初日なのに迷惑かけちゃってごめんねぇ……美尊君って優しいんだね」

「い、いいよそれくらい。優しいのは皆そうだよ」

「ふふっ、照れちゃって。美尊君可愛いね」

「……」


 愛菜さんが僕の左頬を人差し指でツンツン突いてくる。なるべく視線を左に向けないように意識しながらノートに板書する。黒板を見ようとふと前を向くと、正面にはこちらを向きながら頬を大きく膨らませたあゆさんの姿があった。


「むぅ……っ」

(な、何かあゆさんご機嫌斜めなんですけど……!?)

「……ぷいっ」

(か、完全に怒らせた……)


 何が原因かさっぱり分からないが、授業中にあゆさんを怒らせてしまった。愛菜さんに教科書を見せたのが気に障ったのだろうか。そう思ってちらっと愛菜さんの方を向く。そこには……


「むふふ~っ」

「っ……!!」

(こっちはめっちゃご機嫌だ……!)


 まるであゆさんに勝ち誇ったかのような笑みで僕を見てくる。それに比例してあゆさんの機嫌も斜め上に上がっていく。


 初日の1限目から完全に修羅場と化していた。


(ど、どうすれば……)


 あたふたしていた中、ふと黒板の方に視線を向けたその時だった――


「元々旧石器時代においては石を打ち叩いて作られた打製石器が主流だったんじゃが、縄文時代からはそれらをさらに磨いて表面を滑らかにした磨製石器も使われるようになったんじゃ。そこから――」


 突如藤影先生が左手に持ったチョークを無数のナイフに変化させた。その数……ぱっと見で50は超えていた。


「「……!」」


 生徒達が再び拳銃を鞄から取り出す。その約2秒後、白いナイフが生徒全員に向けて飛んできた。ナイフの刃が風を斬る音と生徒達が拳銃を発砲させる乾いた音、そして弾丸がナイフを弾く音が不協和音となって鳴り響く。室内に鮮血が飛び散る。屍が増えていく。


「がぁあああ!!」

「くそっ……ぐあっ!!」

「ぐっ……痛っ……!!」


 中には弾くのに失敗して額に直撃した者や腕で顔面直撃を防いだものの激痛を負った者もいる。無論、転入生組の大半がそれに当たっていた。もう既にクラスの4分の1が帰らぬ者となってしまった。


(い、一体何なんだこの学校は……!)

「きゃっ――!」


 迫りくるナイフを前に愛菜さんが目をぎゅっと瞑る。このままでは彼女はナイフに脳を刺されて死んでしまう。


「愛菜さんっ――!!」


 嫌な予感を察した僕はペンを机に置き、こっちに迫るナイフの刃を右手で掴む。血飛沫が右手から舞うと同時に、電撃が走った。僕の身体が蛍色のオーラを纏った。


 『強制覚醒(インフォース)』が、発動した。それを自覚した時には、既に左手が愛菜さんに迫るナイフを掴んでいた。


「「――!!?」」


 生徒全員がこちらを見て驚く。愛菜さんが恐る恐る目を開くと、目を丸くして驚きを隠せずにいた。


「美尊君っ……!」


 その目は僅かに潤っていた。涙をこらえる声で呼んだ。(呪い)を発動させた、僕の名を。


「お主……まだ授業は――」


 藤影先生もまた、この展開に驚きの声を上げる途中、それを遮る形で僕は座席から先生の背後へ回った。


「……殺せば評価点、上がるんですよね」


 その声は自分でも驚くくらい低かった。でも、それでいい。そうでなきゃ、この学園は僕に恐怖しない。


「なら殺しますよ。安心してください、5分あれば授業に支障はさほど出ないでしょうし」


 両手で掴んでいたナイフを上に投げ、柄に持ち替える。藤影先生も新しいチョークを取り出しては一振りの刀に変化させる。


「ようやく縄文から弥生時代に突入するからのぉ……手短に頼むぞい、若造よ」


 刀を正面に構えた瞬間、よぼよぼな目がギラリと煌めき、戦闘態勢に入った事を理解する。


「美尊君……」

「大丈夫だよ、奏刃君。僕が死ぬより先に終わらせるから」


 生徒全員が見てる中、僕の『暗殺チャレンジ』が本格的な戦闘へと変化していった。

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