#16「忌み子の初陣(上)」
空は無数の黒竜に覆われ、陽は隠れ、黒く染まる。もはや夜に等しい外へただ一人飛んだ美尊を、他の生徒が避難する中で1組の生徒達だけがその様子を見つめていた。
「あいつ……マジで一人でやる気か?」
「あぁ。あの奏刃に俺らを避難させるよう頼んだくらいだからな。ったく、勝手に一人で戦うとか最高に舐めてんな俺らの事!」
「ほんとな。俺らはあいつと違って魔術も使えるんだぜ? なのにあいつ剣1本であの群れに突っ込むとか……自殺行為だろ」
「まぁまぁ二人とも。彼はまだこの学校の事分かってないんだから、僕達が戦えるなんて思うはずがないでしょ」
デッドヒートしていく二人の生徒の怒りを、奏刃が抑える。しかしその程度で治まるはずがなく……
「いや、教室入ったときから皆魔術使えるって分かると思うけどな! 丁度席替え恒例の魔術自慢大会の真っ只中だったんだぜ! 俺の重力操作魔術を見てねぇなんて言わせねぇぞ!」
「彼は多分見てないよ……というかあの時は不安で何もかもが頭に入って無かったと思うよ」
「奏刃、お前はいいよな! 『派閥』から推薦されて入学してきたんだからよ! わざわざ席替え毎にマウント取らなくても勝ち組なんだからよ!! ていうか、そもそも先生が止めねぇでどうすんだよ! あれか! まだ寝起きだからそこまで頭回んねぇか!!」
「ちょっと、そこまで言わなくても……」
怒りを収めるどころか火に油を注ぐ結果となってしまい、ため息をつく奏刃の前に、突如パジャマ姿のある人が現れた。
「ほんとに私の頭が回って無くて彼を止めなかったと思ってるの? 芹澤桐生君、涼宮日向君」
「げっ……先生いつの間に!? す、すすすすみません!! 今の話はその……」
「別に怒ってないよ~。たまにほんとに頭回ってない時あるも~ん。で~も~、今回はちゃんと起きてるからね~。それで……何だっけ? あ、そうそう。黒神君を私が止めなかった理由だったね~」
ほんとに頭回ってるのかという心配と疑問の混じったため息を桐生と日向、奏刃が同時につく。そんな三人の抱いてる思いなんてものは気に病むことなく、先生の口は開く。
「――彼がただの人間なままだったら、この学校にはいなかった」
「「……!」」
それはつまり、黒神美尊は人間ではないという事になるが……
「違うよ、桐谷君。彼は人間を辞めたのわけじゃない。『呪われてる』んだよ。望まぬ形で、望まぬ力を。同時に彼は唯一無二の強さを持つこととなった。その証明は、彼の戦いを見ていたら分かるよ~」
――彼を、この陽翔学園入学を認めた理由が、ね。
ふと先生が浮かべた不敵な笑みに、三人は若干恐怖を覚えた。まるでその『呪い』を体現しているかのように。
◇
そして視点は移る。
「ふっ……!」
視界に映った正面の竜に目掛けて突っ込み、衝突する寸前に右手の剣を振り上げ、胴体を縦に真っ二つに斬り裂く。ギャアアアッ、と悲鳴を上げながら1匹の竜が地面に落ちていく。仲間のやられる姿に怯むことなく、竜達は下へ落ちていく僕に右手を振りかぶる。
「っ……!?」
鋭い爪による引っ掻き攻撃を避けた刹那、僕の胴体に三本の傷がつき、傷口から鮮血を散らした。僕はすぐさま後退しながら着地し、剣を構えなおして体制を整える。
「攻撃が当たってないのに喰らった……あいつら、小樽のとは全然違う。強さも数も段違いだ」
歯を食いしばりながらも両足に力を入れ、腰を落とす。剣を正面に構え、呼吸を整え、更に突っ込んでくる6体の竜に撃ち込む。零さん直伝の、僕の技を。
「焦るなっ……死ぬような思いは修行で何度も目にしただろ」
痛みを堪え、恐怖を抑え、意識を一点に集中させる。それは手先に……剣に。
「零式魔刀技……」
周辺に無数の蛍色の稲妻が迸る。同色の光に覆われた剣で空を薙ぎ払い、突進する。同時に目の前に突っ込んでくる竜が左手の爪を突き出して来る前に腹部を横に斬り裂き、直線で星を描くように光が迸り、5匹を一撃で真っ二つに斬る。
「『乱光斬星』――」
斬られた竜達がそれぞれ分断されて地面に落ちて屍と化す。空は一瞬鮮血の雨が降る。しかし、まだ1匹が残っている。
「があああああああ!!!!!」
「――!」
否。1匹ではなくなった。無限に蘇るかのように竜の群れが現れる。その数はざっと見て200は超えている。
「っ……はぁ、はぁ……!」
その数の竜をこの傷の状態で倒すのは無理がある。でもやるしかない。ここを乗り切らなければ、彩芽を救えない。
「くっ……」
竜達が一斉に口から青い火球を生み出した。ここにいる竜全員であの火球を僕にぶつける気か。
「っ……こうなったら、これで!」
学校中は外してあったカストルがいつの間にか背中に差してあったのを見て、僕はすぐにその柄を掴む。
……しかし。
「なっ……抜けない!? 何でだ。零さんとの修行では軽々抜けたではないか。なのに……」
突如訪れたピンチを見逃さないと、竜達が顔を上にあげ、火球を溜める。そして――ビーム砲の如く青い炎が僕に襲い掛かってきた。




