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#15「紹介の最中」

「――は~い、チャイム鳴ったから皆座ってね~」


 あゆさんの怒りが静まった直後にチャイムが鳴り、先生のおっとりとした掛け声と同時に生徒達が一斉に自席に戻って着席する。こげ茶のウェーブがかかった髪が歩くのに合わせて波打つようになびく。一見おっとりとした大人の女性だが、その服装に僕を含む全員が驚きを隠せなかった。


「「――!!!?」」


 なんとこの先生、寝巻き姿で現れたのだ。学校においてパジャマ姿で学校に来てしまった――だなんて話は無くはない。しかしそれは大抵の場合寝坊して遅刻ギリギリの子供にあることで、それを先生が……しかも遅刻ギリギリで来たとは到底思えない状態でやらかしてしまっているわけだ。


「せ、先生……何でパジャマ姿で学校来てるんですか?」

「ふぇっ……!? うそぉ……私、うっかりいつもの服に着替えるの忘れてたぁ~! まぁいっか~! 皆ごめんねぇ~。今日だけこれで我慢してねぇ~」


 顔を赤らめながら「てへへっ」と笑う先生に、一部の生徒が声を上げる。無論、それは貴重なパジャマ姿の先生に対する欲まみれのいじりだった。


「いや、可愛いよ先生! 普段より好きかも」

「明日何のパジャマで来るんですかせんせー!」

「もうっ……私は皆をそんな意地悪する子にした覚えはありませんっ!」

 

 どっと笑いが起こる。恥ずかしがりながら怒る先生だが、それほどまでに生徒から人気があるのだろう。現時点でも優しい先生であることは僕も分かっている。


「コホンッ――さて、朝のミーティングを始めるよ~。まずは今日から新しくこのクラスに入ってきた子達を紹介するよ~。前に来て~」


 先生が左手を縦に振って転入生を誘導する。ぞろぞろと前に並ぶ生徒達に僕も流れるように前に並ぶ。列の最後尾である僕を入れて最大12人――それがこの1年1組に転入してきた、今亡き英蘭高校の生徒となるはずだった者の人数である。


「じゃあ私から一番近い君から……自己紹介、お願いしま~す」

「は、はい……えっと、有馬鍾輝(ありましょうき)です。さっきまで皆の魔法見ててすげぇってなったんで、自分も使えるようになりたいなって思います。よろしくお願いします」


 暖かい拍手が鍾輝君に向けられる。彼は僕が中学生の頃の幼馴染だ。会って話す機会は無かったけど、彼は中学二年生……14歳の時に最年少にも関わらず柔道で初段を取って黒帯を取得した強者だ。彼の太く強靭な肉体が、その強さを物語っているといっても過言ではない。


「じゃあ次、君ね~」

「はい! 星野愛菜(ほしのまな)です! 勉強も運動もなーんにも出来ないけど、誰よりも元気なとこが取り柄ですっ!! 色んな事に挑戦する事が好きなので、皆さん是非気軽に話してください! よろしくお願いします!!」


 気のせいだとは思うが、さっきより大きな拍手が教室内を包んだ。元気いっぱいの彼女……愛菜ちゃんに関しては僕は知り合いではないので分からない。しかし、今はSNSで色んなジャンルの動画を上げて話題になっているとか。これはあゆさん最大のライバル到来と言ったところか。


「はい、次君だよ~」


 段々と順番が回ってくる。気づけばもう次は僕の番だ。両足が震えてきた。緊張と恐怖が全身を覆いつくす。何度も前の人達の自己紹介を聞いてきたのに、まともに話せる気がしない。


「はぁ……」

「はい、最後は君ね」


 拍手が舞う。出番が来てしまった。しかもトリで。ここまで来てしまった以上は仕方ない。とりあえずそれっぽく話そう。



「……く、黒神美尊(くろがみみこと)です。まだまだ不慣れな事ばかりで……皆さんに、これからたくさん迷惑をかけてしまいますが、精一杯頑張ります。よろしくお願いしま――」



 ――その時だった。



「「――!!!!」」



 轟く音と共に全員が両手で耳を塞ぐ。そう、これは前にも一度見た、あの光景。


「「きゃああああ!!!」」



 ――空を裂き、雲を掃け、地を焼き尽くす一筋の黒雷が、一瞬視界をブラックアウトさせる。


「あれはっ……!?」


 影のように黒い竜の群れが教室の窓を埋め尽くしていた。見た目は小樽の時に見たものとさほど変わらない。しかし、数が桁違いだ。


 ……僕のいるこの学校を、焼き尽くす気なのだろう。


 そう思ったのと同時に、気づけば僕は自席に立てかけてあった剣を持っていた。



「――ごめん、皆。自己紹介はあとでしっかりやるから!」

「美尊君っ……!?」

「奏刃君、僕は大丈夫だから。すぐ終わらせるよ」

「……信じるよ」


 奏刃君の言葉に僕は微笑み、窓の方を向く。黒い竜達が一斉に僕を睨む。その数だけでも100はいるのをこの目で分かった。


「……皆に自己紹介しないで死ぬなんて、真っ平御免だよ」


 柄に右手を添え、思い切り引き抜く。刃が鞘から放たれる甲高い音とともに右腕から電撃が走る。


 そして無意識に窓を一つ開け、両足で蹴って真っ黒に染められた空へ大きく跳んだ。

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