#14「総合学科」
教室内は少しざわついていた。対して僕は周りの光景に言葉を失っていた。理由は既に、視界に映る情報だけで十分証明されていた。
「俺の能力は自由に重力を操作出来るんだぜ。例えばこの机を……はっ!」
「すげぇ! 机が宙に浮いてる!!」
「ま、こんくらいはな。でも効果範囲が5メートルってのと俺が手で持てる重さじゃねぇと使えないなのが難点だけどな。ま、精度が上がればその上限も上がるからなんてことねぇけどよ!」
辺りを見渡す限り魔術を見せる生徒の数々。黒髪から金髪、更には虹色の髪にしている人がいる。その全員が個性的な上に、何かしらの能力か魔術を使える。手から炎、水を生み出す人から、重力で物を動かしたり吸収で遠くにある黒板消しを吸い寄せて取ったりする人まで、各々が持つ魔術を周りに見せつけていた。
「か、奏刃君。これって……」
「席替え恒例の魔術自慢だよ。ここは何と言っても現状唯一の魔術を習える学校だからね。でも今回は新しく受け入れられた子達をターゲットにうちの生徒達がその凄さを見せつけてるんだよ。皆まだ魔術を一つ習得したばかりだけど、自分が魔術を使ってるとこを見てもらいたいんだろうね」
「ま、魔術を習う……学校」
そう、この陽翔学園は総合学科の学校であると同時に、魔術を学ぶ場でもあった。いや、『総合』学科はあらゆる科目を学べる場。その『総合』の範囲に魔術も例外ではなかっただけなのだ。
「総合学科って、ほんとに総合なんだね……」
「ふふっ、そうだね。僕もまだ慣れないよ。だからそこまで気に病むこと無いよ。皆同じ気持ちだから」
「そ、そうなんだ……」
奏刃君の言葉に安堵した僕は自席を探すべく黒板に大きく書かれた座席表へ向かおうとした、その時――
「おらああああああっ!!!」
「へぶしっ――!?」
突然左頬を殴られ、真下に叩きつけられたと同時に教室のタイルに無数の亀裂が走る。あまりの威力と音にクラス全員の視線がこちらに向けられる。その目は完全に恐怖で埋め尽くされていた。
「ちょっとっ! ボクとの偶然の再会をさも無かったかのようにしないでくれるかなっ!? あんな再会しておいて早々ガン無視とか有り得ないんですけど!!」
「え……えっと……遠野、さん……?」
「奏刃君、これはボクと彼の問題だから。……ねぇ、こういう時は普通『何で君がここに……!?』みたいな展開なるでしょ! なのに君ったら私よりテーブル浮かせてるだけのモブに目を向けて!! ないわー、ほんとないわー!!」
「……す、すみません……」
「おい、今こいつ俺の事しれっとモブって言いやがったぞ」
僕はもう謝ることしか出来なかった。こればっかりは完全に自分が悪いのだから言い訳しようがない。
「もうっ、次は無いからね。あ、豪喜君ごめんね。床治してほしいんだけど……いいかな?」
「あのなぁ遠野……オイラは床修理業者じゃねぇんだゾ……仕方ないなァ」
深いため息を吐きながら、あゆさんの隣にいた豪喜君が破壊された床に向かって両手を正面に翳す。するとひび割れた床の破片全てが合体し、元の状態へと戻っていく。クラスからは盛大な拍手が響いた。
「さっすが豪喜君!」
「……次頼んだら金取るからナ」
両肩を叩いて褒めてくるあゆさんに、豪気君は徴収という名の釘をあゆさんに刺す。
「だ、大丈夫……?」
「な、何とか生きてるから……大丈夫。心配かけてごめんね、奏刃君」
僕は優しく差し伸べてくれた奏刃君の右手を掴み、引っ張られると同時に何とか立ち上がる。殴られた左頬の痛みはしばらく消えないだろう。
「……今日はこれくらいで許してあげる。次同じことしたら分かってるよね?」
「――はい」
今のあゆさんを前に、僕はただ首を縦に振ることしか出来なかった。たとえ過失だったとしても、もう金輪際彼女を怒らせるような事はしないと心に誓った僕であった。




