#12「青春の背景は戦乱」
西暦2030年8月16日――北海道石狩市にある飛翔学園は、4月の災害によって消え果てた英蘭高校の全生徒及び着任者含む全教職員約320名(内教職員20名)のうち、受け入れを希望した約130名(内教職員9名)を正式に受け入れた。
一度奪われた121人の青春が、今息を吹き返す。『異界化』が進む日本の最北の地にて――
◇
一方、東京……いや、東京だった場所で起こっている事が全てを物語っていた。血で満遍なく塗られた地面、その上に転がる無数の腐敗した遺体や骨、焼き払われた建物の残骸。
「止まるなぁっ! 進めええっ!! 誇り高きその命で、異種族どもに鉄槌を下せぇ!!!」
「そうだ! 日本は俺達日本人のものだ!! どっから来たか分かんねぇ化け物どもに我が国を渡してたまるかぁ!!」
「今も奴らに捕まっている者達も多くいる。その人達を全員無事に救うためにも、俺達に負けは許されないっ!!」
それでもその屍の上で、人類は戦い続けなければならなかった。戦いで散った友に涙を流す猶予さえ許されない。家族の無事を心の中で祈る隙さえ命取りになる。これ以上ない緊迫感が、人類存続のために戦う者達の『派閥』を襲い続ける。
何故軍隊や組織では無く、派閥なのか。その理由は至って単純だった。
「この戦いで終わらせるぞ! 全ては異種族との共存のために!!」
「そうだ! 俺達にはフィリア様がついている!」
「ネフティスを崩壊させ、平和を破った罪……その身に償えっ!!」
同じ人間でも、選択肢が異なれば交わり合う。正義が違えば敵対する。それが派閥という形で二手に分かれてしまった理由だ。
「共存派は異種族と同然だと思え! 一匹残らず殺せええ!!」
「防衛派達を倒し、説得させるまで……我々は戦い抜く義務がある!!」
両派閥共に士気が上がり、同時に雄叫びは絶えず、甲高い刃同士の衝撃音が戦いを奏でる。その上空には炎を下に吐いて焼き尽くす五匹程度の竜と、人型の黒い兵器が東京を囲うように見下ろす。その中心を目掛けて、兵器が両手で持つバズーカの引き金を引く。漆黒の砲弾が朽ち果てた街に大きなクレーターを派手に作り出した。
「――おい、上から何か降ってくるぞ! 逃げろ!!」
「皆逃げろ! あれはバズーカ砲だ!!」
「ちっ……派閥同士仲良く死ねってか!!」
「ダメだ、もう間に合わないっ! ぐわあああ!!!」
――戦う者達の絶望の声が次第に重なり合い、響く。重い爆撃音と竜の炎によって一時的に掻き消されていく。
「怯むな! 突撃しろ! 射撃隊は俺の合図に合わせて撃て!!」
「突撃を続けろ! 上空のドラゴンとロボットの真下に奴らをまた持っていけば、あのバズーカをまた喰らわせられる!!」
両者ともに、退くことなど脳内に無い。全てが己の想う正義のために。未来のために。
「撃てええええっ!!」
「押し出せ! ハチの巣にさせる前に奴らの部隊を押し流せ!!」
銃声に刃が肌を裂く音……そして爆発音に兵士の叫び。死への恐怖や絶望を嘆く声で満ちていく。戦乱の一言を現すには十分といっていいだろう。
「こんな時に『黒き英雄』が来てくれれば……異種族なんか……!」
「きっと『黒き英雄』を含む、あの頃のネフティスメンバーがいたら……わざわざ武器を構えて殺し合う必要なんか無かったんじゃないか」
そんな叶いもしない希望を胸に抱きながら、彼らは正面に向かい合い、腰の鞘から剣を抜き取った。
「終わりだああああああ!!!」
「異種族を……何の罪も無い人を殺すことしかしないあんたらには、負けない!!」
今日の決戦の火蓋が切られようとした時だった。彼の――美尊の青春が再び始まろうとしていたのは。




