八 逮捕
ご訪問ありがとうございます。
本作は「贋作専門の鍛冶屋」と「押しかけ弟子の男の娘」が織りなす、ちょっとヘンテコで、時に熱い鍛冶ファンタジーです。
※毎週月曜・水曜・金曜に更新予定
今回は二話同時掲載です。
それでは、どうぞお楽しみください!
エウラリオが贋作づくりの話をマルコの元へ持ち込んでから半年後、ラファエロ・デ・マーレの贋作が完成した。
軽く研ぎをかけた剣を前に、エウラリオ、リタ、マルコがそれぞれ感想を述べ合う――
「いい出来ねぇ……これはもう、誰が見たって、ラファエロ・デ・マーレの作品よ」
「綺麗な剣ですね……僕、この剣好きだな」
「武と美のバランスが絶妙なんだ……実際に打ってみると、爺さんのずば抜けたセンスの良さがよくわかる。我ながら、いい仕事ができたと思うね」
「拵えに使った黒錆がまた、渋いのよ」
「わざわざ遠くまで錆液を仕入れにいった甲斐がありましたね」
「そうだな……さて、あれからもう半年も経っちまったことだし、さっそくギルドの鑑定にかけてみるとするか」
「そうね、真作の判定をもらえるのは間違いなしよ」
剣をギルドの鑑定に持ち込むにあたって、エウラリオは慎重を期した。
自分とマルコが懇意にしていることは、調べればすぐにわかってしまう。
そのため、間に何人か人を介して、遠方に住む美術商を自分の代役に仕立てた。
その美術商とエウラリオの間には、直接のつながりはない。
剣はギルドへ持ち込まれ、あとは鑑定の結果を待つだけとなった。
「これでもう大丈夫――ギルドから真作のお墨付きが出たら、銀貨三百枚……必要経費を引いても、二百十枚は手元に残るから、私の取り分は……銀貨七十枚! あぁっ、どうしましょう! そうねぇ……まずはお店の屋根を修理して……ううん、だめだめ。そんな現実的なお金の使い方じゃなくて、もっとこう夢のある――」
エウラリオは、手に入るであろう大金の使い道をあれこれと考え、幸福感に酔いしれていた。
マルコは報酬よりも、大仕事を終えた開放感に浸っていた。
しばらく仕事を休むと宣言し、リタにも好きなように過ごせと言い渡した。
炉に火を入れることもなく、鎚を握ることもなく、惰眠をむさぼることで溜まった疲れを少しずつ溶かしていった。
リタはリタで、マルコに買ってもらった新しい服を着て買い物に出かけたりして、彼なりに楽しく羽を伸ばしていた。
ところが、そんなある日――
ドンッ!
早朝、マルコが寝ている部屋のドアが蹴破られた。
ドカドカと踏み込んできたのは、ファルツォとその部下たち。
「マルコ・イグナシオ・フィデル。貴様を贋作武具の製造および流通、ならびにギルド鑑定制度に対する詐欺未遂の容疑で逮捕する――アウロニア鍛冶ギルド、査察局の名において!」
ファルツォは、すらりと抜いた腰の剣をマルコの鼻先に突きつけた。
「なっ、なんだってんだ! イテテテッ……おい、何すんだ……やめろって!」
屈強な男たちに取り囲まれたマルコは、あっという間に後ろ手に縄を掛けられてしまう。
「ククク……この時がくるのをどれだけ待ったことか」ファルツォの薄い唇が喜びに歪む。
「この野郎、いったいオレがなにしたってんだ!」
「今、罪状を読み上げた通りだ。引っ立てろ」
「おい待て……待てっての! このまま連れてく気かよ。せめて靴くらい履かせろ」
「犯罪者にそのような権利はない」
部下がマルコに縄をかけ終えたのを確認し、ファルツォは剣を鞘に納めた。
「師匠!」
騒ぎを聞きつけたリタが駆けつけてきた。
縄を打たれ、連行されようとしているマルコの身体にすがりつく。
「師匠! どうしてこんな……あなた、ファルツォさんですね。師匠をどこへ連れてこうっていうんですか!」
「その男は、贋作武具の製造その他の容疑がかけられている。だからギルドへ連行し、取り調べを受けさせるのだ」
「そんなのダメです! お願いです、師匠を連れて行かないでください!」
「お前の師匠は法を犯したのだ。それなりの報いを受けなければならない」
「そんな……だったら、僕も同罪です! 僕も弟子として師匠のお手伝いをしています。師匠を捕まえるなら、僕も一緒に捕まえてください!」
「リタ、余計なことを言うんじゃねぇ」
マルコはリタを背中でかばうように、じりじりと体を動かす。
「マルコ、弟子の言うことにも一理あるんじゃないか?」ファルツォの唇が大きく歪む。
「そいつには何もさせてねぇよ。釘一本だって打たせたことはねぇんだ」
「ふふ……その言葉が本当かどうか、この男女も貴様と一緒にギルドへ連れて行って、じっくりと調べてやろうか……ギルドの取り調べは厳しいぞ?」
「野郎!」
暴れようとするマルコを、ファルツォの部下が必死に押さえ込む。
「ファルツォ様……何もこんな子供まで捕らえる必要はないかと愚考しますが……」部下のひとりが恐る恐る口に出す。
「グレト、私も本気で言っているわけではない。すでに証拠は充分に揃っているのだ。余計な仕事を増やすつもりはないよ」
「は……」
「では、今度こそマルコを引っ立てろ」
「師匠! 師匠ッ!」
無理矢理マルコから引き離されたリタが、連行されるマルコに追いすがる。
「心配するな、リタ。オレはすぐに戻ってくる。それまでの間、この家とフェロを頼む」
「師匠、行かないで……師匠、師匠……」
遠ざかってゆく足音を聞きながら、リタはがっくりとその場にへたり込んだ。
そばにやって来たフェロを懐に抱え込むと、リタの目にどっと涙があふれてきた。
「どうしよう……どうしよう……」
震の止まらないリタの手を、フェロはいつまでも舐め続けた。