二十 エピローグ
ご訪問ありがとうございます。
鍛冶屋と弟子のちょっとヘンテコな物語も、本編としてはここで一区切り。
ぜひ最後までお付き合いください!
“魔剣騒動”が終わってから、半年が過ぎようとしていた。
折れたことで“魔剣”はその力を失っていたが、念のためということで、ベルナルドの手によって“魔剣”の残骸は鋳溶かされた。
破壊されたギルドの修理はあまり順調とは言えず、元通りになるにはあと何年もかかるという話だった。
ファルツォは騒動の責任を追及され、僻地へと転任させられてしまった。
マルコの家では、ベルナルドが荷造りをしていた。
「マルコ、儂はそろそろシルヴァナへ帰るぞ」
「そうですか」
「なんだ、やけに嬉しそうだな。口うるさいのがいなくなって、ホッとしてるのか?」
「否定はしません」
「こいつめ……」
「マルコ、ちょっとこっちに来てくれる?」
鍛冶場にいたエウラリオが呼んでいる。
マルコが顔を出すと、
「師匠、これ僕が打ったんです。よかったら使ってください!」
リタが手のひらほどの布包みを差し出した。
「リタ、もう腕は痛まないのか」
「あんなのすぐ治っちゃいました」
「無理するなよ。ゆっくり治せばいいんだ」
あの日、リタは死ななかった。
何の気まぐれか、ストゥルタスは剣の腹でリタを打ったのだ。
子供を斬るのをためらうだけの良心が残っていたのか、あるいは単に、まとわりつく蝿を追い払うような気分だったのかもしれない。
ともあれ、おかげでリタは腕の骨を折るだけで済んだ。
「マルコを驚かせたくて、内緒で打ったんですって」
「またか……材料だって安くはないんだぞ?」
「ヘタでも何でも、どんどん打った方がいいって、師匠がいつも言ってるじゃないですか」
「それにしたって、限度ってもんがあるだろ……」
マルコは布包みを開いた。
「これは鏨だな?」
「はい!」
「ふぅん……なかなかよく打ててるじゃないか」
「えへへ、頑張りました」
「リタ、あまり調子に乗るなよ」
「はい!」
「丁度良い、マルコ……その鏨で、あの剣にお前の銘を刻め」
ベルナルドが目を向けた先には、壁に掛けられた〈魔剣折り〉があった。
「銘を……」
「そうですよ、師匠。あれは師匠のオリジナルなんだから、堂々と師匠の名前を刻んでください」
「マルコ、これで“贋作鍛冶屋”の異名も返上ね」
「……そうもいかねぇよ。食っていかなくちゃいけねぇんだ……依頼があれば、贋作だって何だって打つさ」
「ははは、それも良かろう」
「師匠、早く早く!」
わくわく顔のリタが、〈魔剣折り〉を台に据える。
フェロがやってきて、そ~っと剣に手を伸ばした。
「おいで、フェロ」
リタがフェロを抱きかかえる。
仲間が見守るなかで、マルコはリタの打った鏨を剣の茎に当てると、勢いよく鎚を叩き込んだ。
〈終〉
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
『贋作鍛冶屋の押しかけ弟子』、これにて本編完結となります。
次回はオマケ編として、もしも物語がちょっと違う始まり方をしていたら?
そんな“if”な世界を描いた短編と、四コマ漫画をお届けします。
もう少しだけ、この師弟と一緒にいていただけたら嬉しいです。




