『Hard rejection』
「返してくれませんか?」
エヴァンと男たちに囲まれて、ライアは普段の通り道とは違う通りに入っていた。
男たちは常に逃さないよう周りを囲み、紙袋を誘蛾灯のように揺らしてライアを路地の奥へと進ませていた。
「もうちょっとだよお嬢ちゃん」
「ほーら。こっちこっち」
この先は行き止まりだ。
しかし、男たちはその先のこと。
自分達を金で雇った貴族の御子息様が見た目も良くない、少女と間違えられてもさしつかえない小柄な娘をどうするのか。
それについてはあらかた予想がついていた。
割れた石畳は男たちに踏まれるたびに、がたガタ、と音を鳴らした。
道端に転がっていた欠片を、男の靴が蹴りつける。
石は、高く飛び、壁にぶつかると砕け散った。
その音をまるで目覚ましのようにして、路地の左右の空き家の壁に挟まれて眠っていた男はまぶたを開いた。
瞳の先には、男たちに行き止まりへと連れられていく女の姿があった。
道端に転がっている『石』のようだ、と思った。
◆◆
路地の行き止まり。
高い壁の前、ライアはさらに小さく見える。
「返してください。お肉が冷めてしまいます」とライアがひどく困った声を出した時だ。
エヴァンがライアの顔の横、石壁に手をついた。
「ライア。俺と一緒になろう」
「すいません。お断りします」
ライアは変わらず、拒絶する。
「私には貴方とお付き合いする気はまったくありません。諦めてください」
一部の隙間もない。
男たちはやれやれと、首を振っている。
エヴァンの瞳の温度がす───っと下がった。
「こんな真似はしたくなかった。けど、君がそういうなら……」
ライアの頬にエヴァンの手が触れようとした時。
「ならどうする?」
驚いたエヴァンはびくりと、肩を跳ねさせる。
男たちはすでに声の主の方を見ていた。
「誰だ」
エヴァンは怒りと驚きを混ぜ合わせた表情で、通って来た路地を振り返る。
薄暗い路地の中央。そこに『ひび割れた男』がいた。