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我が為ノ夢物語  作者: 好き書き帳
TRY ANGLE
77/78

『貪欲な蛇』

 アリエートの変わり果てた姿を目にした時から、レグも自身の内に異変が感じ取れていた。

「我らモ、ああなるのか」

 苦しげに胸を押さえてつぶやく。


「いんや、その前に──ケリつけようぜ。獅子野朗。オレは農民だがよ、騎士様が無駄にプライド高いのは知ってんだぜ?」

 ザイルの嫌味に、レグは豪快に笑う。

「ハハハッ! なら胸を張らねばな、我は騎士! 第三の王剣なり!!」

 唇と目の端から赤い雫がこぼれる。


 ◇◇


 獅子が、己の全てを込めて突撃する。

 自分がなくなる前に、勝利を掴まんとして。


「パンドラに侵されながら、最後まで牙を剥くか。見事だ」


 怪物になる前に騎士としての誇りをもって特攻する姿に、ザイルの師であるスプルスが、観客席から賛辞を贈る。


 ──しかし。


「パンドラの怪物は狩らねばならん」

 瞳は冷たく、言葉は硬い。


「……」

 ザイルは息を吸い、土の匂いを嗅ぐ。

「あ〜〜、やな気分」

 これが終わったら、ピリカの店で潰れるまで呑んでやる。


 鎌の先を地に突き刺す。

「呑め、呑め、舌を出して、とぐろを巻いて、尾の先まで」


 ザイルの全身のレイラインに、大地のレイラインから吸収した魔力が流れ込み、許容量を超えた。


 ◇◆


 体のあちこちが、痛え。


 鼻血を垂らして、目を充血させて、真っ赤な血まみれの蛇が獅子を見据える。

 鎌を大きく振りかぶるその姿が、観客には、さながら、赤い死神に見えた。


『30overサードオーバー……』

 ザイルが血の絡むのどでつぶやく。


 手に持った計測器の中で膨れ上がる魔力に恐れをなした魔術師が、計測器を放り投げ、ガシャンッ!!と派手な音を立てて砕けた。


 ◆◆


『傷だらけの収穫祭スカーレット・ハーベスト

 血を跳ね飛ばしながら、大鎌を振り回したザイルが這うように強襲。


『猛獣の狩猟ビースト・ハンティング

 荒々しい剣撃が迎撃せんと、振り下ろされるが。


 ザイルの軽鎧がぐにゃり、と形状を変えて、地を叩き、赤髪の青年の身体を宙に押し上げ、レグの背後に着地させた。


 強引に剣筋を変えるレグの眼が、血まみれの蛇と交差した。

「オレの、勝ち」

「……私のマケ、か」


 獅子は晴れやかな笑みを浮かべて、空を見上げた。


「良い天気だな」

「どーかん」


 大鎌は獅子の胸を鎧ごと切り裂き、血飛沫をあげた。


 返り血で染まった蛇は、息を吐いて。

 鎌を肩に担ぐと、重さに耐えきれずに地面にひっくり返った。


「あ〜〜、しんでぇ。いってぇ。酒、呑みたい〜〜!!」


 蛇の愚痴に、獅子は苦笑いする。


 ……急所を、外れた。──いや、外してくれたのか。

 大きな借りができてしまった……な…。


 獅子は観客席で叫んでいる妹の姿を一瞬だけ瞳に捉えて、意識を手放した。

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