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我が為ノ夢物語  作者: 好き書き帳
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6/75

『石の道』

 特に意味もなく空を見ていた。

 そこには何もなく、ただ延々と青が広がっている。自分が感じたのは、ただそれだけだった。


 男は、王都の路地裏の石畳の上に足を投げ出していた。

 壁に背を預け、これまでの行動を思い返す。


「ふ。あれは、なかなか悪くなかった」

 その時のことを思い出して、唇の端が軽く持ち上がり、笑みをかたどる。


 守衛たちを薙ぎ倒し、窓を拳で叩き割って、そこから外へと飛び出した。


 高所から地面にむけて、落下していく時に生じる浮遊感。

 春に残った冬の名残りの冷たい風が衣服の裾をはためかせ、髪を弄んでいく感覚。

 指先から体温が失われていくと、それを補おうと心臓が血を巡らせていった。


 隅々まで手入れを施された庭園の芝生に着地した後、全力で駆け抜け、止めようとする者どもは、容赦なくねじ伏せた。

 あの退屈ばかり与えられていた部屋で、自分に剣を向けてきた馬鹿な者どもと同じように。



 ……だが、それも一瞬で終わってしまった。

 


 

 少しはマシになるものかと、期待したが無駄だった。

 また手を掲げて、退屈そうに、男は自身のひび割れを見つめた。



 最初は、小さな違和感だった。

 何か、音が聞こえたような気がした。

 例えるならば、『何か』が欠けたようなそんな音。

 これは最初、胸にあった。

 浴室で、それに気づいた。触れても、触れられない傷のような何か。

 それからすぐだった。

 この亀裂、ひび割れが全身に広がり出したのは。

 

 それから、どんどんと己が薄れて希薄になっていく感覚があった。

 何をしても、退屈だった。

 いや、もとより退屈していたのだが、それがより一層、強く感じるようになったというべきか。


 「退屈だ。──つまらない」


 空を見上げるのをやめて、男は石畳を見下ろした。

 手入れされていない石畳は、薄汚れて割れていた。己の身体と同じように。


 王都はこの国の中でも最も治安がいいと言われて、表通りは確かに明るく、整備も行き届いているが、路地裏はこんなものらしい。

 薄暗く、そして汚れて冷えきった石の通り道だった。

 しかも、この先は行き止まりだ。

 何もない。

 あるのは、ただの石造の壁に囲まれた場所。

 

 「退屈なほどに、静かだな」


 パキリ、と。

 またどこかにヒビが入った音が聞こえたが、わざわざ確かめる気は起きなかった。

 男は目を閉じ、しばらく身を休ませることにした。

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