『剣の場』
決議の場で第十三位が剣を立てて、はやひとつき。
王を選ぶ為の丘に集まっていたのは、上位貴族の当主とその護衛。
国王は病状が悪い為、欠席している。
代わりに、王剣──前回、レイゼンと戦った騎士が国王の席の横に立っていた。
「叔父上は、欠席か。久しぶりに顔を見せる機会かと思ったが」
ダーイングは、叔父のいない席にすこし残念そうな目を向ける。
国王は、剣を持てないダーイングを擁護してくれた恩人で小さい頃は贈り物もくれた。
何かと、目をかけてくれていたので、ダーイングも叔父の病気は気になっている。
「我らは今日、王太子から王位を奪わんとするのですから、おいでにならぬ方がよいでしょう。御身体にさわりまする」
「──……そうだな。従兄弟には悪いが。王になるのは、ファリスタだ」
「おまえら、手ェ抜くなよ? これで負けたら笑い話にもなんねー」
ザイルの言葉に、二人はうなずく。
「これより、剣選を行います。王剣は前へ」
選定の丘に鎧を身につけた第一位の王剣が並ぶ。
それに対して、ダーイング達が身につけているのは、特注品の衣装だった。
そこにザイルは、ベルトに農耕用の草刈り鎌を下げている。
ダーイングは、何も入っていない黒い鞘と赤い鞘の剣。
レイゼンは、腕輪。
青銅製の蔦と葉が絡み合う意匠。
この一月で、往年の太さを取り戻した両腕にはめられている。
「……その身形で挑まれるおつもりですか?」
「しゃーねえじゃん、姐御がコレ着ろって言ったんだから。逆らえねーよ」
進行役が、十三位の王剣をまじまじと見て、その顔を観客席にいるファリスタに向けた。
男装の麗人は、隣に控えている伯爵に尋ねる。
「何か問題あるか?」
「剣選では、用いる鎧や魔剣の種類は決まっていない。何も問題はないとも」
その横で、ヴィエッタが仕上げた侍女服を着たライアは、こっそりクッキーをかじっていた。
クルミとアーモンドの香ばしさが、口に広がる。
しかし、食べすぎると口の中がパサパサになるから、ほどほどで我慢する。
アルフレドは、進行役に「気にせず、続けたまえ」と言い、進行役はやたらと長い宣誓の言葉を丘に響くようにつげた。
◆◆
「ファリスタ様は、巫山戯ているのか」
「あれが、騎士。剣だと? 馬鹿げている」
「『失格騎士』に再び王剣など務まるのか?」
ユリファスの周りに侍っている諸侯は、口々に十三位への侮蔑を述べていた。
「やはり、王位は第一位にこそ相応しい」
「──終わるまでは、わからん。そう焦るな」
しかし、ユリファスは余裕だった。
「剣選の場を蔑ろにしたファリスタには、建国王もさぞお嘆きだろう。私が王位についた暁には然るべき、罰を与える」
私に剣を向けた報い。しかと受けてもらうぞ。
──第一位は、遠く離れた第十三位を見据えた。
◆◆
長ったらしい宣誓の言葉に、ザイルは大きな欠伸をして、頭をかきむしる。
「なあ、コレ、まだ続くの?」
「もう少しじゃから、辛抱されい」
「俺も。飽きた」
「……あとで儂の拳骨か、妻の拳骨。どちらが」
「どちらもいやだ。耐える」
姿勢を崩しそうだったダーイングは、持ち直す。ザイルも、両手をポケットにしまって、背筋を伸ばす。
スーツ姿の三人。
それはヴィエッタが拵えた特注品。
金糸、銀糸それ以外の染糸をふんだんに使った見事な刺繍の最高級品だった。
──が、戦いの場にはどうにも不似合いな装いだった。
ザイルは真っ赤なシャツに黒いベスト。『玉ねぎを喰らう蛇』の刺繍。
レイゼンは砂色の背広に『大樹と若芽』。日除けの帽子には、大嘴鳥の風切り羽根。
ダーイングは漆黒のスーツ。シャツから革靴まですべて黒。
襟や袖には『剣』の衣装。
これらは、ダーイング自身の指定だ。
剣選の場に恥じぬ出立ちとすべく、ダモスとの修練でさらに短くなった髪も整えた。
ヴィエッタには「あれだけの長髪がこんなに短くなって!」と嘆かれた。
実際に、腰まであった髪は肩甲骨あたりまでの長さになっていた。そのうち伸びるだろう。
──剣選で死ななければの話だが。
死んだら、『王』を支払えない。
女王の賞賛を受けることもできない。
ならば、勝つのみ。
ダーイングは第一位の王剣を見た。
「いい獲物だ。剣の相手になってもらおう」
「剣に賭けて、良き決闘を」
第一位の王剣は、爽やかな笑みを浮かべ、それに応えた。




