『空の模様』
大通りには、人々の笑い声や話し声、店先に客を呼び込む声があふれていた。
ライアが知っているいつもの風景だった。
剣の王が治める、ダーリントン剣王国の王都。
近年稀にあった災害以外は、大きな乱れなどなく穏やかな治世が続いている。
それは代々玉座につく王が運良く、まともな人間だからだと、スプルスから歴史の勉強で教えられた。
そして現国王も、スプルスいわく『まともな王』であり、この国の平穏は保たれている。
この王都の治安がよく、活気があるのも、その為だと。
しかし。
「次はどなたが王に選ばれると思う?」
不意にそんな声が耳に届いて。
同じ様に、言葉を耳にしたスプルスが常に刻んでいる眉間のシワを歪めていたのを、思い出した。
いま現在、この国では『王選』。
つまりは、次期国王の選出が行われている最中だ。
継承権保持者の誰が王に選ばれるかによって、この国の舵は大きく切り替わるとしきりにささやかれている。
場合によっては……隣国ランバルトやカルカッザとの関係にも影響すると目されている事案だった。
願わくば、次も『まともな王』であって欲しい。
それは、きっと国民も願っていることであり。
そして。
「先生もそう思ってますよね」
『頼むから、次もまともな奴が王になってくれ』と眉を寄せていたスプルスの姿をライアは知っていた。
……その姿が、まるで祈るようだったのを思い出す。
その理由がどういったものであるか、ライアは知らない。けれど。
その願いと祈りが叶うことを、自分は望んでいる。
王都の人々や街並みをゆっくりと眺め、それから、ライアは空を見上げた。
冬の終わり。
始まりの春の空は、青く澄んでいる。陽は柔らかく輝く。
それはまるで、昨日磨いていた石のように美しいものだった。