『隊長の受難』
「ようやく、終わった」
魔狩りの剣隊長、ウルガ・ラガナ・ウラガンは自室のソファに半ば崩れ落ちていた。
ウルガは、いまちょうど屋敷に戻ってきたところだ。帰りの馬車の中で、ぐたりと横たわりたいのを我慢して帰ってきた。
レイゼン相手の激しい鍛錬が、本日をもって終わり、ようやくあの大男との鍛錬に移行した。
──自分はもはや用済み。
レイゼンの相手になりえない。
「この数日ばかりで鈍から、まともになったじゃねえか、じいさんよぉ。──明日からは俺ともう一人で稽古してやるから、そのつもりでいな」
ギリクと名乗っていた男は、不遜な態度でレイゼンを一応、褒めていた。
……しかし、あの男。『ランバルト』の兵卒か何かではないだろうか。
彼の国の人間に、『剣』の稽古の相手がつとまるのか、疑問だ。
ウルガが、もんもんと考えていると。
「待っていたぞ」と声がかかった。
振り返ると、経理担当者のヴィルスが直立していた。
後ろ手には、書類の束。
びっしりと文字の列が積み重ねられた紙束がウラガの前に突き出される。
「上に提出する予算計画書を持ってきた。確認してサインしろ」
「ヴィス……そこは、もう少し労うとかないのか?」
「提出が遅れると、予算が降りん」
幼馴染で親友である男は、バッサリと意見を斬り捨ててきた。
ウルガは、ソファに座り直すと渡された書類の束を、震える指でめくり、目を通す。
そして親友が差し出してきた木板の上でそれらに署名した。
「字がガタガタなんだが、大丈夫なんだろうか」
「最近、五十肩がひどくなったせいだと言い訳しておこう」
「俺はまだ四十九だ」
ギリギリ、だがまだ四十代。そこは譲れなかった。




