『ディナータイム』
夕食は、白身魚の香草パン粉焼きだった。
魚派のファリスタ様の好みなのでしょう。
ライアはお肉派だが、魚も好きだ。
彩鮮やかな香草の良い香りと、ぱりりとしたパン粉が白身の魚の淡白さと合わさってとても美味しい。
──しかし。
「おい。喰いにくいから、じろじろ見るな」
ダモスさんが眉を寄せていた。
ダーイング様は、食事に手をつけずに、先程からダモスさんばかり見ていた。
「おまえに勝つための方法を考えているのだ、気にするな。そして邪魔をするな」
「人の食事の邪魔をしてるおまえがいうな。あとで一人で考えてろ」
ダモスさんの機嫌が悪い。
ダーイング様は気にした風もなく、むしろ楽しそう。
「二人とも喧嘩はやめたまえ。食事は楽しくいただくべきだよ」
ルシアスさんがフォローするけれど、聞いていない様子に肩をすくめて、自分の食事を再開する。
「ライア、気にせず食べなさい。せっかくの料理が冷める」
「はい。先生」
隣に座っている先生は、給仕におかわりを頼んでいた。
白身の魚は先生の好きな食べ物だから、気に入ったようです。
白ワインと一緒に、普段よりも美味しそうに食べていました。
ウィスタードさんは、その様子を見て「あとでレシピをいただいて、自作できるようにします」と拳を握っています。
◆◆
「ファリスタ。どうかな、料理の方は口に合うかな?」
「ああ、先程のことと合わせても良い味だ。しかし、せっかくの料理には悪いが、私は『アレ』が何か知りたくて仕方ないのだが?」
「食事が終わってからでかまわんだろう」
「……ここはおまえの屋敷だからな、従ってやる」
「あの、アルフレド様。いいんですか?」
従者の身分だが、食事の席に同席することを許されているレニスは困った顔をしながらナイフを動かした。
「かまわないとも。ファリスタもそう言っているだろう。それより、おまえの好きなデザートもあるから、食べるといい」
テーブルに置かれていた、飴で飾られたシュークリームの皿を、伯爵はレニスの前に置く。
「あ、シュークリーム」
「カスタードと生クリーム。他にもあるぞ」
レニスはうれしそうに、ひとつ手に取り、ぱくりとかじりついた。
その頭をよしよし、となでるアルフレド。
随分と甘やかされているのだな。
ダーイングは、伯爵と従者のやりとりを見て、そう思った。
伯爵は、他人に厳しい人間だと聞いていたので、意外な姿だった。
◆◆
「あー。食った、食った。んじゃ。俺、部屋帰る」
食事が終わり、ザイルが席を立とうとした時。
「待て」とファリスタから制止の声がかかった。
鋭い目はその場の全員に向けられている。
「先程の『アレ』が何か問いたい」
アレ。思い当たるものは一つしかない。
ライアは、答えを求めるファリスタに返答した。
「『魔剣』です」
ファリスタの鋭い視線が向けられる。
「私。ライア・アーティによる最新の魔剣です。」
「貴女が『アレ』を作ったのか。私が知り得る魔剣とはいささか、いや。全くの別物だな」
「そんなことはありません。本来に近い製法で『石』を元にして作りました。別ではなく、新世代とでも呼べばいいでしょうか」
言葉を区切り、ライアは黒い鞘に目を向ける。
「ダーイング様のものはファリスタ様を『王』にしていただくために腕によりをかけました」
「まだ、使いこなせなかったがな」
ダーイングが苦笑し、付け足した。
「何が何でも使えるようにしていただきます」
ウィスタードが眼鏡を押し上げる。
「必ず『王』を支払ってもらう」
スプルスは食後の紅茶を杯に注ぐ。
琥珀色の水面に、眉間にシワを寄せた顔が映る。
「そこまで私を王にしたいのだな。お前達は」
「私の推薦だからな。皆、君に期待しているのさ」
ファリスタは少し考えて口を開いた。
「レディ。君が望む王とはどのようなものだ?」
「私が望むのは『まともな王』です」
「難しいな」
まとも、か。
そうあるのは言葉では簡単だが、実際には困難だろう。だが。
「そうか。では、どこまでやれるかわからんがそれを目標に、私は『王』を目指そう」
ファリスタは、ライアの目をまっすぐと見た。その強い意志はライアが生まれ持つ魅惑の瞳に飲まれはしなかった。
◆◆
ライアはダーイングの背中を見ながら廊下を歩いていた。
短くなったくすんだ金の長髪が背中で揺れている。
「ファリスタ様もそうですが、ダーイング様にも期待しています」
「そうか」
「弱いままでいらっしゃる気はないでしょう?」
「あの男よりという意味か?」
ダーイングは振り返る。
ライアは答えない。
「剣を得られて調子に乗っていたことは自覚した。俺は『強くない』」
まだまだ足りない。
だが、その分まだ強くなれるはずだ。
「俺が強くなるために、おまえが用意した『剣』だ。次は無様な姿は見せん」
「そうであれば私も嬉しいです。あれは私の自信作です。素敵なところを見せしめてください」
「承知した。女王」
そう言って、ダーイングは廊下の向こうへと歩んで行った。
ライアはその背中を見送って部屋へと戻った。
二人から離れて後をつけていたスプルスも部屋に戻るべく踵を返した。
「ユーラー殿」
呼びかけに足を止める。
「何だ。伯爵」
アルフレドがそこにいた。防音魔法をかけながら近づいてきたらしい。
接近に気づくのがやや遅れた。
「大公をどう見られます?」
「玩具を与えられて喜ぶ子供だ。しかも非常に手のかかる」
「ふむ」
アルフレドは笑みを崩さない。
「あなたのことを今以上に知ったら、面倒だろうな」
スプルスは渋面を作った。
「……そうだな」
ククと伯爵は笑声をこぼした。




