『黒の館』
ダーイングは子爵の馬車にゆられながら、剣の柄をいじっていた。
「そう慌てんなよ」
向かいに座るダモスが、窓の外を眺める。
「もう着く。そしたら、遊んでやる」
ダーイングも、外を見た。
そこにあったのは黒い屋敷。
◆◆
ライア達とダーイングは門扉から壁、内装まで黒づくめの屋敷の広間に通された。
レイゼンとギリクは、鍛錬を終えてから来るという。
「この屋敷は」
「私の家だよ」
階段から足音と共に男の声。
ゆっくりと降りてくるのは、長い黒髪の男と白金の髪の男装の麗人。
階段の途中で二人は立ち止まり、白金の女性がダーイングを見下ろした。
「おまえがダーイングか。おまえは社交界に顔を出さんので会うのは初めてだな。私がこのたび、剣選を挑んだ『ファリスタ・ツァイク・フレイアル』だ」
その隣に控えていた男が口を開く。
「初めまして、エルディング大公。私は『アルフレド・ラギア・ヴァルクル』。覚えていただけるとありがたい」
ヴァルクル。
政治に関心の薄いダーイングでも知っている。
「おまえが、あの『伯爵』か」
「いかにも」
「『石の家』とはどういう関係だ?」
「ククク。私は『石の家』の資金提供者さ。従業員も兼ねているがね」
ダーイングはライアを見る。
まさか、この国で二番目に恐れられている男とまで知り合いだとは。
この男が交際を申し込んできたなどとは思わんが、どういった経緯やら。
その時。ライアは一行の前に出ると伯爵に向かってにこやかに。
「ご機嫌よう、お兄さん」と言った。
『お兄さん』。
あの男の呼び名にふさわしくないその単語に、ダーイングと伯爵の隣にいたファリスタが凍った。
「……アルフレド。おまえにあの様に愛らしい妹がいたなど、初耳なのだが?」
「そうだったか? なら後で、紹介してやろう」
ファリスタの反応を、心からおかしそうに伯爵は口元を吊り上げている。
ファリスタは伯爵の反応に不満を示し、鼻を鳴らす。
足早に階下に降りて、ダーイングの前に立った。
「しかし、でかいな。何を食べたらそこまで育つ」
「普通に肉とパンだ」
ファリスタは懐疑的な目だ。
嘘は言っていない。あとは日々の鍛錬。これだけやれば普通に背など伸びると思うのだが。
実際、自分を養育してきたレイゼンも身長一九一センチと長身だ。
日々、鍛錬しよく食べれば背などすぐに伸びる、そう育てられた。
他の奴らが、小さいだけだ。(特にライア。あれは小さすぎると思う)
◆◆
「さて、一振り足りないが。諸君、我らが第十三位。ファリスタ・ツァイク・フレイアルを『王』にするため。この屋敷で来たる日に備えてほしい。一応、屋敷全体に『守護』や『硬化』は施してある。──存分にやりたまえ」
伯爵からお許しが出た。
ダーイングは、剣を抜き、ダモスへと向けた。
「さあ、ようやく遊ぶ時間だ。死ぬ気でこい」
「おまえがな」
ダモスの手にはいつの間にか、見慣れない形の剣があった。
「変わった剣だな」
「知らねえよな。こいつは『刀』っつうんだよ。大公」
カタナ。
確かに知らないな。これは面白そうだ。
生まれて初めてまともに振るう剣の相手にしては良いだろう。
広間にいた人間が階段に集まる。
「おふたりとも、頑張ってください」
ライアの声援と共に、ダーイングの剣が振り下ろされ、ダモスの刀が鞘から抜き放たれた。
「ウオオオオオオオオ!!!」
「ラアアアアアアアア!!!」
獣の咆哮のような雄叫びと共に、鋼の撃ち合いが始まった。
◆◆
ファリスタは呆れた目でダーイングを見ていた。
「元気なやつだ」
「まあ、仕方ないだろう」
伯爵は肩をすくめる。
「剣を持てて嬉しいのかもしれんが、いきなりやりあうか?」
「普通はしないが。まあ、あの大公だからな」
ファリスタはため息をつく。
「あれが私の第一王剣か。しっかりと手綱は握っておかなければな」
「それがいい。かなりのじゃじゃ馬だが、頑張りたまえ」




