『剣の集い』
「皆様、おくつろぎのところ失礼します」
『石の家』応接間には、従業員と『魔狩りの剣』の隊長らが集まっていた。そこには、ひとしごとを終えたライア。ダーイングとレイゼンもソファに座っている。
「剣選の日取りが決まった、と先程知らせがありました。本日から一月後に執り行われます」
ウィスタードの言葉に全員が耳を傾ける。
「最後に確認しておきますが──剣選では死亡することもあり得ます。それでも剣として立つ意志に変わりありませんか?」
「変わりなーし」
「同じく、変わらぬ」
「思う存分に剣を振るえるならば、なんでもかまわん」
「では──、第三王剣にザイル。第二王剣にレイゼン様。第一王剣にダーイング様で、剣選に挑んでいただきます。何かご質問などありましたら、今のうちにどうぞ」
「ひとつお聞きしたい。──儂が第二でかまわぬのですか、儂のような老骨では敵わぬかも知れませぬぞ」
聞いておかねばならない。これだけは。
想いを胸に秘めたレイゼンは、対面で紅茶を飲んでいる主に尋ねた。
ダーイングはカップを置いた。
「何かと思えば。しばらく会わぬうちに、つまらぬことを言うようになったな」
鉄のような、熱さと冷たさを両立させた眼を老騎士に向ける。
「『魔狩りの剣』ならば敗北は『死』だ。刺し違えてでも、俺の前にもっとも強い敵を引きずり出せ。──大公として、主として、命ず」
主の宣告には容赦というものが欠片も存在しなかった。
そんなもの「どこかに捨ててきた」と言わんばかりに。
だが。
老騎士の瞳には、薪をくべられた炎のような輝きが宿る。
この言葉が欲しかった。
前回の剣選で、弟殿下に命じていただきたかった。死しても勝利せよ、と。
王になって欲しかった。
ならば。
叶わなかった夢をいまこそ、叶えてみせよう。
この御方を、最も強き剣にしてみせる。
その為ならば、この老骨が砕けてもかまわぬ。
老騎士の全身から、気迫が圧力となって放たれる。
それを真正面から受けている主は、平然としていた。
おのが師の戦意に満ち満ちた眼差しから眼をそらすことなく。
「魔物より怖いですね」
「そうだな。今のレイゼン様を見たら、どんな魔物でも逃げ出しそうだ」
「誰が相手になるのか判りませんが、憐れみを覚えます」
『魔狩りの剣』の隊員たちはこそりと身を寄せ合って、ささやいていた。
レイゼンの座るソファに巨漢が、近づいていく。
「じいさん、アンタは俺が稽古つけてやる」
「それは助かる。よろしくたの──」
「けどよ。俺とやり合いたかったら、まずはそのなまった腕、磨き直してきな」
ギリクは言った。
レイゼンを完全に見下しながら。
「……カッカッカッカッカ」
老騎士の口から暗い笑い声が溢れ出した。
のそりとソファから立ち上がる。
何となく黒いオーラを纏っているようだった。
そしてゆっくりと顔を向けた。
そこにいたのは『魔狩りの剣』のウルガ隊長。
だらだらと汗を流している。
「ウルガよ。ちと、手合わせ願えんかのう。老人の頼みじゃ聞くなあ?」
「はい。レイゼン様、お相手させていただきます」
顔は完全に引きつっていた。
隊員たちの目には深い深い憐れみが宿った。
「皆で神に祈っておこう」と、ひとりの隊員の言葉に連携の取れた動きでうなずいた。
「死なないでください、隊長。ご武運を」
副隊長はなんとかそう激励するのが精一杯だった。
◆◆
ダーイングの隣のソファに座っていたダモスが煙を吐き出す。
「あんたの相手は俺だ。けど、雑魚は嫌いだぜ?」
「俺も退屈は好かん。命懸けで相手をしろ」
「言ったな? なら……遠慮はしねえぜ」
気だるげな深い緑の瞳が閉じられ、次に開いた時。
それは鋭い目つきに変わっていた。
ダーイングは口元に笑みを浮かべた。
おもしろい遊び場と、遊び相手を見つけた子供のようだった。
◆◆
ソファにちょこんと座っていたライアは『石の家』に集まった面々を見る。
「皆様、まともな王様のお支払いよろしくお願いします」
その横に座っていたスプルスが口を開く。
「手を抜くな」
「わかってんよ、じいさん先生」
ソファの後ろから背もたれに寄りかかっていたザイルが答えた。




