『To go shopping』
ライアは両開きの扉の片方を開けて外に出ると、中央の通りに向かって足をすすめた。
店は大通りから離れたところに、居を構えている。
この一帯は、ライアの店のずしりと重たい岩のような威容の圧力ゆえか、住むものが少ない。
喧騒から離れた、静かな沈黙があった。
『石の家』。
そう名付けてから十年も経つ、我が家を見上げる。
人目に触れることは少ないここで、生活し、働いて、それなりに繁盛している。
ライアの仕事は『石』を扱う。
だが、一般的な魔石ではない。むしろ、それ関連の仕事は受けていなかった……。
魔石類の扱いがないことは、一見、不利なことのように思われるが。
そこは、『お兄さん』が何とかしてくれていた。
おかげで。
今日も、ライアはこうしてごはんを買いに行けるのだ。
◆◆
いつもの串焼きだけでは少し、栄養不足ですね。何か、お野菜も買って……。
あとパンも、いります。と考えながら、ライアは歩いていた。
ここのところ仕事が立て込んでいて、ライアもスプルスもまともな食事をとっていなかった。
食べていたのは、保存用に置いていたドライフルーツやナッツ、乾燥パンばかり。
ライアの頭の中は、すぐに食べ物のことでいっぱいになっていた。
そんなことを、ぼうっと考えながら、ふらふらとした足取りで進むうちに。
角を曲がったところで、男とぶつかりそうになった。
「おっと危ない。ごめんよ、お嬢さん」
「こちらこそ、すいません。前を見てませんでした」
「ハハ、いくら王都の治安がいいからって、注意した方がいいよ」
「そうですね」
ライアは、大きな黒縁メガネの位置を戻しながら、男の意見に賛成した。
さすがに、気を抜きすぎだった。
「ご忠告ありがとうございます」
深々と頭を下げて、お礼を述べると灰色の長い髪がふらりと垂れて、メガネの位置がまたズれる。
男は、ライアに手を振ると「じゃあね」と、その場から去っていった。
男の足音を背後に聞きながら、ライアが頭を上げる。
そこには、石畳の街路。左右には、煉瓦造りの家が並んで、その間を、たくさんの人々や馬車が行き交っていた。
今日も、王都の街並みは騒がしくて、明るく、活気があった。