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『輝きの奥底』
公爵家の本邸。その一室。
そこにいたのは十よりもさらに幼い頃のダーイングだった。
それを見下ろす。
床に座って、本を広げている自分。
読んでいるのは──……『祖王物語』。
幼い自分が、決まったページを繰り返し、繰り返し。絵本を読んでいる。
そして、必ずこう思っていた。
『祖王のようになりたい』。
今なお、この胸にある想い。けっして、捨てられない願いだ。
そのために、剣が欲しい。
伏せていた顔をあげる。
このまま土塊のように錆び付いて、ひび割れて朽ち果てるのは御免だ。
退屈に『埋もれて』しまうつもりも毛頭ない。
「俺は、剣を得る。その為ならば手段は問わん」
目の前の幼い己から目を引き剥がし、頭上で光り輝く七色の光の石塊を見上げる。瞳には、灼熱が宿っていた。
その瞬間、幼い頃の光景が消え、闇が足元から照らされた。
ばっ、と下を見る。
そこに見えたのは、赤くぼこぼこと煮えたぎる血潮のような泥の海だった。
それが、一際大きく盛り上がると、下から噴き上がり迫ってきた。
ダーイングはそのまま赤い本流に飲み込まれた。




