『THE DARKNESS ROOM』
石の通路の中は薄暗かった。しかし、完全な闇ではない。
火が焚かれているのでも、魔導具の照明によるものでもなかった。
壁や床のところどころに敷かれた透き通った石材が淡く光っている。
ライアは真っ直ぐ、奥へと進んでいく。
ダーイングはライアを追い抜かさないように、距離をとってその後ろを歩いていた。
そして行き着いたのは、重々しく、頑健さを感じさせる両開きの石の扉。
扉はすでに内側へと開かれて、従業員たちが左右の壁に並んで立っている。
腕組みしていたスプルスが口を開く。
「必要なものは中にある」
「わかりました。みなさん、ご苦労様です。あとは私が」
その言葉を皮切りに従業員たちは、ライアとダーイングの横を通り、来た道を戻っていく。
「ライアちゃんに手ェ出そうとすんなよ」と、ザイルがすれ違いざまにダーイングに言った。
足音が遠のいていくと、ライアは扉の奥に進んでいった。
「お客様、こちらへ」
ダーイングも続いた。
そこは『何もない部屋』だった。
石造の中途半端な広さの部屋。
入り口の左右に、先ほど従業員たちが運び込んだ荷が置かれている。
奥の石壁のそばに、ぽつりと台座が置かれている。
この部屋で一体何をするのか。
ダーイングがライアを見ていると、彼女は眼鏡を外した。
それを台座に置く。
後ろ姿なので顔は見えない。
ライアは腕を広げる。
「さあ、おしごとの時間です。私のお家、石の家──ロンディニウム」
ライアが振り向いた。
「OPEN THE DOOR」
その瞬間。
何もない部屋の壁の石材の一部が、一斉にガココ!!と、音を立てながら壁の内側に埋もれた。
残りの石材が縦横へと複雑な動きをして、口を開く。
深い深い地の底へ繋がるような闇が現れた。
かなり暗い。
奥を覗こうとしたが、何も見えなかった。
その闇の前にライアが立つと、眼鏡に隠されてよく見えなかった瞳がやたらと目立った。まるで全てを引き寄せ、吸い込むような不可思議なまばゆさを持つ瞳だった。
それは、ダーイングでも抗えない力を秘めていた。
何か理解できないが、目が釘付けになり、離すことができない。
『魅了』の魔法か?
いや、違う。これはそんな安いものではない。もっと別物だ。
「お手をぞうぞ、お客様。
まずは貴方の底に埋もれた輝きを探しに。──行きましょう」
小柄なライアの小さな手が、差し伸べられる。
眼差しは複雑に光を反射し、虹色の輝きが見えた。
ここに居るのは、先ほどまでと同じ人間か?
そう思わずにはいられない程に今、目の前にいるライアは別人だった。
女は化けるというが、化粧をしているわけでもなくここまで変わるのか?
ライアの手は、下へと差し出されていた。
なので、その手を取るのはダーイングには不可能だ。身長差がある。
ダーイングがひざまずかないかぎり。届かない。
「客と呼ぶくせに、お前は俺に膝をつけと?」
「それは貴方次第です。ご自由にどうぞ」
柔らかい微笑みを浮かべて、ライアは平然としていた。
まるで。
「女王のようだな」
ダーイングはつぶやくと、その場に片膝をついてライアの手をとった。
貴婦人の手をとるように、その手に己の手を重ねる。
小さな手は、思っていたよりも熱い。
「それで、どうするという」
言葉が続かなかった。
再度見上げたその姿の向こうに、闇を押し退け、光り輝く石の塊が視えた。
あまりの眩しさに目が灼けて、全てが白く染まった。




