『役立たずの石』
ガタガタと揺れる二台の馬車はレイゼンの屋敷から途中、王城を経由してから『石の家』へと向かっていた。
一台はレイゼンとルシアス。もう一台の馬車には魔狩りの剣のウルガ隊長と副隊長。そして、隊員が乗っていた。
レイゼンとルシアスの馬車には、荷物が一緒に積まれている。
「もうすぐ着きますよ」
窓の外を眺めていたルシアスが目的地が近いことを、レイゼンに伝える。
その言葉の通り、馬車は速度を落とし、やがて停止した。
「ご苦労。では荷を下ろしたらいつも通りに」
「かしこまりました」
子爵家の御者は、ルシアスに頭を下げる。
荷を下ろしにかかる御者を、魔狩りの剣の隊長たちが手伝う。
「ここか」
「ええ、こちらが『石の家』。我らがリトルレディのお住まいです」
大岩のような、石造の建物をレイゼンは見上げていた。
店よりも『砦』のようだ。そんな感覚を覚える。いいえぬ緊張感があった。
ルシアスは、扉の横に立つと「どうぞお入りください」とレイゼンを誘った。
レイゼンはドアノブに手をかけて、押す。
扉は思いのほかすんなりと開いた。
◆◆
準備が整うまでと、待たされていたダーイングが退屈に飽きてきた頃。
大きく扉が開かれる気配がした。そこには己に仕える前侯爵レイゼンがいた。
その隣には、微笑を湛えた美男。
「ご無事ですか?」
「大事ない。相変わらず『割れた』ままではあるがな」
「左様ですか」
よかった。何事もないご様子じゃ。
レイゼンはほっ、と胸を撫で下ろした。
「ようこそいらっしゃいませ。レイゼン・オルグ・ルディラス前侯爵。そしてルシアス子爵。お待ちしておりました」
やあ、と手を振るルシアスは、レイゼンの横を通り、奥へと向かう。
そこには四人掛けのソファの真ん中に一人で座るライア。
「遅くなりました。リトルレディ」
「いいえ。子爵、ようこそいらっしゃいました」
にこやかな笑みでライアは迎える。
「石は」
「お持ちしております。スプルス殿」
ルシアスが入り口を示すと、ウルガ達が荷を運び入れてきたところだった。
「あれは何だ、レイゼン」
「それが……魔物石でございます」
魔物石?
この店が扱う石とはまさか『あれ』か?
魔石ではない、使い物にならない石。
魔物は倒した時に、その体の一部が変質して石になる。だが、それを使うものはいない。
大抵捨て置くものだが。
「『魔狩りの剣』の保管庫にあったものを持って参りました。戦果の報告のためにこれまで回収し集めていたものです」
「いやあ、思っていたよりもたくさんあって驚いたよ」
ルシアスは、ダーイングに一礼。
「大公閣下。御趣味が役に立たれましたよ」
どうやら、ダーイングが倒した『獲物』の石を持ってきたらしい。
「あとは、ザイル達が戻れば準備が整います。お嬢様」
「もー戻ってんよ」
扉の前には、ザイルとカミュ。ギリク。
それぞれ荷物を持っている。
カミュの手には瓶。透明な石が詰まっている。
ギリクは重そうな皮袋を担いでいる。
「準備できたな──ライア。仕事だ」
「はい。先生」
いよいよ。ライアの出番だ。
「ここからは、私のおしごとです」




